アルバム全曲レビュー * アーティスト名 : たきもとこうじ。

Reviewer:22nd. 229~231 名無しのエリー2009.10.02.

1.空の下 ★★★★★
オルゴールのように静かにつまびかれるギターに決してうまくはないフェロモンボイスで歌がはじまればいっきに部屋が滝本ワールドに。
ギター、チェロ、コントラバスというポップソングではありえないような構成ですが、メロディー、歌詞ともにすばらしく物足りなさは全く感じません。
まさに何も足さない何も引かない名曲中の名曲です。
2.ピンク色のめざめ ★★
1曲目はとても穏やかなラブソングだったのに2曲目はガラッと雰囲気が変わり、不気味で不穏な気配の曲です。
直接的な表現はないのですが、ストーカー犯による殺人事件のような「ふるえる彼女の体は 天使ではなくただの見ていた人さ…」
この曲の歌詞の中だとかなり危ない感じがします。
3.あんなふうな月 ★★★
このアルバムの中で唯一アグレッシブで勢いのある曲です。若く青い恋って感じですかね
4.ワンピース ★★★★
滝本さんの歌は抜き取られた写真のように情景だけを歌い心情やストーリーは描かない曲が多くあります。
この曲もそう。歌詞からぼんやり浮かび上がるのは、夏のある日のワンピースを着た女性のおぼろげな姿だけ。
彼女のことを好きだとも嫌いだとも提示していません。だからこそこの夏の一日の情景は美しく、白昼夢のようにまどろわせるのでしょう
5.テーブル ★★★★
一言で言うと狂っています。
歌詞は実にナンセンスで意味をくみとろうとしても無理です。一行一行からのイメージで感じとるべきでしょう。
どこがサビだかわからない曲調で何やら呪術的に進み、途中高く漏れるような声でうなりだしそのままあちらの世界へ行ってしまいそうに‥
締めを無難なスキャットで終わらせなければもっと良かったかな。チェロの音が不気味でいいですね。
6.窓辺のスケッチ ★★★★★
4曲目と似たゆっくりとしたおぼろげな曲ですが、こちらはより現実感がなく壊れそうにはかなげです。
言葉から感じられる情景さえももはや意味をもたず、閉め忘れた窓辺でヒラヒラ舞うカーテンのようなわずかな人の気配だけです。
盛り上がる部分もなく不安定なメロディーなのですが、一度この狂気にハマってしまうと抜け出すことは困難でしょう。
7.ふたつの天気 ★★
今までの深い心象風景を描いた曲からガラッと変わり、軽いタッチの小曲となっています。
この曲はたまのバンド編成でも録音されているのですが、そちらを聴いてしまうと頼りなく物足りません。
しかし、このアレンジで感じる空虚感こそこの曲のキモなのかもしれません。
歌は思いっきりヘタです。今までの曲はそれがいい方向に作用していたのですが、ここではただたんにヘタです。
8.「夏です」と一回言った ★★
ミディアムテンポの8分もある大曲なのですが、どうしても未完成に感じてしまいます。
この曲も後にたまのバンドアレンジで収録される事になるのですが、
そちらは夏の熱気を感じる素晴らしい曲になっているのに対しこちらは夏の雰囲気が全くありません。無駄に長いだけに感じてしまいます。
総評.★★★
伝説のバンドたまのベーシスト滝本晃司のファーストソロアルバムです。
このアルバムは多くの方が求む、痛快でウキウキなポップソングもなければわかりやすいラブソングもありません。
全曲ギター、チェロ、コントラバスのみという事自体かなり異例ですし。
録音状態も悪くとっつきやすさは低いでしょう。好き嫌いもかなりはげしく分かれるかと思います。
しかしニッチな一部の方には一生の名盤にもなりえるので間をとってこの点数にしました。
詩の好きな方、普通のポップスに飽きた方、フェロモンボイスに癒されたい方、精神的に少々おつかれ気味の方はハマるかもしれません。
最近だされたアルバムの方が聴きやすいのでまずそちらを試されてから買われるのがいいかと思います
(★5個が満点。)

Reviewer:22nd. 248-252 名無しのエリー2009.10.05.

1.水槽の中の魚 ★★★★
虚ろなコード弾きピアノから入る、非常にゆっくりしたテンポのオープニング曲。
のっけから音にすんごい隙間があるので賑やかな音楽がお好みの方は苛つくこと受け合い。
静寂の使い方が上手い、と思えれば今作になじめるはず。
ていうか特別この曲がおとなしい訳ではなく、派手な音とか基本出てこない作品なので、ここである程度慣れないと後が厳しいです。
この曲を前フリに後からドッカン来るとかいう起伏は無いので。
別段多彩なコードワークを駆使してる訳ではないが、キーがDなのにDメジャーを一回も出さずに
なんかノンダイアトニックの代理コードとかばっかり使ってるので、生殺し的な浮遊感がある。
「いろんな向きのたくさんの死んでないイキモノ」と形容される、元気の無い魚達を表したものか。
魚だけに向けられた言葉でもなさげだけど。
2.犬が散歩する日 ★★★★
所々変拍子を挟みながらおどろおどろしく展開する曲。
Aメロもサビもそれぞれでコード一発を押し通してるかと思いきや、add♯9とadd9を交互に繰り返してるっぽい。
「今夜犬が夜を散歩する」と歌われるこの曲だが、「夜の高さを気にしているね」とあるように
自由を「犬」(というよりそれに準ずる存在)にとって居心地の悪いものとして描写しており、不安を煽るような気味の悪いアレンジがそれを助長している。逆尾崎。
Great3の曲に「そんなに世界が悲しいならずっと眠ってればいいさ、犬の下で」みたいなのがあったが、それ聴いて奮起した人をもっかい眠らせる曲。
メロディも、ほぼコード一発みたいな進行で普通こんなんなるかといった感じのこじれ具合。
3.眠ると消えると溶けると ★★★★★
単音でルートと5度とオクターブを繰り返す虚ろなピアノと、これも虚ろにAメロの歌メロをなぞるピアノで物悲しく始まる3拍子の曲。
そこに消え入りそうな力ない歌が乗る。
たま時代から彼の曲は次のメロディやコードが読みにくいものが多かったが、これも例に漏れずノンダイアトニックのコードだらけで、調性も分かりにくい。
メロディも何やら凄いことになってる。ほぼスケール内に収まってるっぽいけど怪しい音もあるし、よく分からん。
いびつなようで、慣れると美メロ。コードのルート音とかあんまり通らない、浮遊した感じ。
はっきりメロディのオチがつく青春パンク好きには全く不向き。
詞も一筋縄のラブソングでなく、「ここにあるふたつの影だけがなによりもはっきりとしてるんだ 君と僕よりももっと」と歌い放つ。
なんか独自の価値観がある様子。
4.100の月 ★★★★★
今作では比較的分かり易い部類のメロディを有する表題曲。
焦土を思わせる詞は暗く、例によってピアノをメインに静かに、重苦しく曲が進むが、
まだBメロの途中かと思ってた「100の水たまりには100の月が映って」のところで長調に転調し、ふっと明かりが灯ったようにサビへ踏み込む。
しかし明るいサビに救いがあるかというと、今や穴だらけになってしまったその広場も安息の地ではないようで、
「ぼくらの終われない夜」を100の月に見越されているようだ、という内容。
100の月が壮観で美しいとかいう表現は出てこない。自然の目に監視されて逃げ場のない描写の道具。
しかし単純に曲が綺麗なので、こんな状況でも月の美しさに感動してる心理も含まれてるのかも。
今作通して表現されている、自然の摂理を前にした時の人間のもろさが直接的に描かれており、
生き延びた二人が繋いだ手と手もひとたび強い風が吹けば「風にとける砂みたいにほどける」と歌う有様。
巷でウケる根拠のない愛の奇跡とかと逆ベクトル。
5.ひざし ★★★
変拍子だが、相対的にはポップな曲。M2以来のロックドラム登場で力強い印象になる。
しかし間奏の変にたどたどしいベースやサビでの動物の鳴き声みたいな音でやはり不気味に。ドラムも意図的に雑にしてる。縦ノリとは無縁。
詞も「ぼくはきっと どうにもならないふうでいいだろう」と、何かを観念した様子。
冒頭からすでにどこか悟ったような雰囲気だったが、ここで諦めが決定的に。
過剰に悲劇っぽい煽りを入れずに淡々と作詞してるけど、ここまでネガティヴな展開続きだったので無理からぬ事か。
一方メロディには彼らしい捻りがないのでやや退屈。
6.日傘をさしたカブト虫 ★★★★
「こんどはぼく昆虫になる」と、いきなり来世への思いを馳せる歌で始まる曲。志望動機も意外ともっともらしく、本気で思ってそうで怖い。
いや普通ない動機だけど、自然の摂理に溶け込みたがってるこの人なら有り得るかもという感じ。こんな詞初めて見た。
曲は例によってテンポが遅く、音数もかなり少ないが、メロディは良い。
ちなみにこの曲だけマスタリングが荒く、滝本の声が生々しくて怖い。
7.バス停 ★★
ドラムがチャチな打ち込みになるため、生々しい作品の世界観が崩れたように感じるミドルテンポの曲。
サビメロは一瞬いい感じっぽいが、同じフレーズを4回繰り返すだけで彼らしい繋ぎの美学がないのでちょっと肩透かし。
自分で作ったメロディを自分の歌で追えてない部分も。
引き算のアレンジやアウトロの寂しげなピアノで、ここまで続いてきた閉塞的な印象を次へ繋ぐ。
詞は二人でバスに乗ってどこかへ行こうとする描写が出てくるので、開放を予感させるものの、結局バス停のひまわりのポスターを見るまでで終わる。
ひまわりに見とれる描写が夏へ強い思いを馳せる主人公の心理を表してるのかも。
結局、ついに次の夏を迎えることはないけど。
8.あの日 ★★★★★
そしてその日。「4月。水曜日。天気晴れ。ぼくらイキモノ。」と歌われる春の日。
最後は心安らかになるものなのか、今作中で最も穏やかな曲がここに来て登場。安心して聴ける。
滝本の曲はメロディを捻るものが多いが、この曲ではむしろメロディは単調にしてコードの鳴りを綺麗にすることに力を注いでいる。
そのため歌っている主人公が伴奏に溶けて存在が薄くなっていくような印象を受ける。
なんか幻覚見てるような描写もあるものの、「何ひとつ足りないものなどなくて」と非常に満ち足りた心理状態でその時を迎える。
9.グッドバイ ★★★★
そしてその時。
チェロ隊とコントラバスの重厚な音に包まれ、Bメロで「この世とあの世の色にまざって まん中に穴をぽっかりあける」と歌った後、
サビでついに「今たおれるよ グッドバイ」とくる。
今までの曲と違い、最後まで低音ストリングス隊しか出てこないので単品でリピートして聴くにはもたれるが、惰性で作らずに大オチとして分けて考えた結果か。
アルバムの流れありきの曲。
ちなみにチェロ隊には某番組で対決した過去のある(見てないけど)マルコシアス・バンプのべーシスト、佐藤研二が参加している。
10.Non Title ★★★
10分とやや長いインストのエピローグ。
ひらひらと羽根が舞い降りるようなアコーディオンに先導され、ピアノやコントラバスが次々と加わる。
今作中で最も明るい。憑き物が取れたよう。
いわゆるフランダースの犬的な天使のお迎えのイメージで聴くものと思ったが、段々アコーディオンが無茶しだす。
天使かと思ったらたまの柳原だった、みたいな感じ。
自由なセッションが続くうちにパーカッションとかも奔放になってきて、いよいよもってたまっぽくなる。
もしや滝本にとってのたまの音って、お迎えの音楽というイメージだったんだろうか。
確かにある日「迎えに来たよ」とか言って枕元に立ってそうな面構えが揃ってるけど。
ちなみに次回作の冒頭は蝉の鳴き声から始まっており、主人公の望みが叶ったことをうかがわせる。
しかし蝉とはまた成虫期間の短い……。まあ本人の希望通りなんだろうけど。
総評.★★★★★
元たまのべーシスト、滝本晃司が98年にインディーズから発表したソロ2nd。
1作に数年を費やす人だけあってメロディとコードはかなり作り込みが見られ、演奏がシンプルな割に聴きしろがある。
メロディは簡単にケリをつけずに浮かせたままの状態にする傾向が強く、結構捻くれていて癖がある。
それが彼の持ち味ではあるが、気持ち悪い人にはどうしても気持ち悪いと思う。
コードは基本的には上や下のラインが滑らかに繋がることを意識して綺麗に並べており、ロック畑(?)出身の割にはパワーコードっぽさがなく繊細。
一方、べーシストの割に色々なリズムを試す意欲には全く乏しく、そもそもベースよりアコギ弾きたがってる。しかも1stほどではないがアコギ下手。
作曲だけに使って、演奏は別の人に頼めばいいような気も。
歌の技術は無いが、スナフキンの話し声のような自然な発声のおかげですんなり聴ける。詞の内容が内容だけに情感込めて歌うより良かったのでは。
詞は日本人らしい含みのある文が多く、ある程度聴き手が読み解く楽しみが残されている。日本語で作ったポップス、という感じがする。
上手く曲に乗せながら全部を説明しきることこそが作詞技術だ、と考える人には不向き。しかし一貫したテーマもあるし、良い出来なのでは。
病気か寿命か分からないが、連れよりも先に死ぬことを悟った男が、残りの日々を書き綴った手記のような作品。
ちなみに個人的にはジャケ写の滝本のせいで、老いて死を意識しだしたスナフキンの最後の日々のように思えてしまう。
「死んでやる!」でも「ぶっ殺す!」でもなく「ああ、死ぬのか」といった感じの自然の摂理受け入れスタンスは、死を扱う作品では珍しいのでは。
早い段階から生きることを諦めているため教育上よろしくなく、なまじ出来が良いのでなおのこと子供に聴かせないほうがよさそうな作品。
音の隙間が気にならなければ普通にポップソング集として楽しめるので、たま時代の「海にうつる月」とかが気に入る人なら結構聴けそうな1枚。

(後述レス)
★が多いですが、名盤というより今まで聴いた中ではダントツに自分の性質に合った作品なだけです。
(★5個が満点。)