アルバム全曲レビュー * アーティスト名 : あべまお。

Reviewer:20th. 442-445 名無しのエリー2009.01.30.

1.ふりぃ ★★★
東京事変のデビューシングルをリンドーバーグみたいなビート系アレンジで仕上げ直したような印象の曲。詞曲ともストレート。
アレンジが妙に甘口なため今作中では浮いている。ギターソロは王道というか保守的すぎる感じ。
楽曲にひねりを期待すると肩透かしを喰うかもしれないが、歌は大胆に起伏をつけており、かなりインパクトがある。
ひたすら「今」にこだわる詞も、等身大の10代らしさが出ている。
2.人見知りの唄 ★★★
広い音域を動き回るサビメロが印象的なアップテンポの曲。
妙に元気がいいので、人見知りって感じがしないのが違和感あるものの、詞は余計なひねりや洒落っ気のないストレートな出来。まさに10代。
おおよその傾向では10代の頃は直球すぎる表現に照れが出て、奇抜な比喩や、辞書から引っ張ってきた英単語など、
パッと見では意味が伝わらないような表現方法でワンクッション置く人が多い印象なのだが、彼女にとってその手の装飾は回り道でしかないのかも。
演奏面ではサビの思い切ったブレイクが面白いが、全般的にはベタ。
3.MY BABY ★★★
甘い声で歌うポップな1曲。初回のAメロはなかなかいびつなメロ展開。
丁度メロディが無茶するあたりからパーカッションが入ってくるのだが、これがアコギとの絡みでピースフルなマンボテイストを醸し出している。
悪くない曲だが、まったりしたいんだか元気にしたいんだか半端なアレンジと夜の営みを描いた詞との噛み合いが悪い気が。
4.キレイな唄 ★★★
アコギやストリングスが爽やかだが、ブレイクを多用気味のアレンジが何だかもたれるポップな曲。
曲名に反して実は…という裏切りもなく、まさにタイトル通りのよどみない詞の歌。
こうまで曲名がバカ正直だと格好悪い気もするが、10代なので無理に背伸びをするよりもこのほうが正しいとも思える。
逆に彼女は、例えばロキノン系のバンドに「どういう意味のバンド名なんですか?」と真っ直ぐな瞳で訊いたり、
有名なヒット曲に「絶え間なく注ぐ愛の名を永遠と呼ぶことが出来ないと、愛しさの意味を知ることができないんですか?」と問い返す権利があるのでは。
雰囲気に誤魔化されたり、時代に巻かれたりしない芯の強さを感じる人ではある。
5.デッドライン ★★★★
アコギ弾き語りとは思えない迫力で圧倒してくるブチギレ拒絶ソング。
アコギの演奏が無骨で、抑えが効かない感じなのが変だが、
それでも無難にポップなアレンジを施されたここまでの曲に比べれば彼女の魅力がより良く出てる気がする。
サビの激情な歌いぶりはドスが効きすぎていて、いわゆる売れ線からは遠い。
この段階でも思い切りが良くて気持ちいいが、終盤の「触らないで」でさらに爆発。
エクスクラメーションマーク幾つ付いてんだってくらいの絶叫。きちんと歌詞に表記したら「触らないで!!!!!!」くらいにはなる。
相当悔しい時のべジータといった感じ。
6.Don't leave me ★★★★
前曲との対比で非常に優しい雰囲気に感じるピアノ弾き語りバラード。男視点で、女友達に恋をしたものの言い出せないまま別れを迎える内容の歌。
前曲とは設定が違うが、曲順の妙で、前曲で拒絶された男が惨めな未練を口にしているようにも聞こえる。
彼女は1曲の中でメリハリをつけてドラマを仕立てる印象が強いが、この2曲では曲通してそれぞれ剛と柔を貫いて、セットでの魅力を生み出してる気がする。
三連が見え隠れする歌メロのリズムがバンプっぽい。歌い方も何か似てる。
7.コトバ ★★★★
古き良き歌謡曲の要素と最近の洋女性シンガーソングライターのテイストを足したような曲。結果的には演奏がやや地味な天野月子といった感じに。
詞は相変わらず思わせぶりがなく、真っ直ぐ。
曲の盛り上がりのピークと詞の重要ポイントとを一致させるのが上手く、「それは逃げじゃないか」というメッセージが強く残る。
彼女の詞は遊びがなさ過ぎる気もするが、その分当たり前の言葉を説得力をもって聞かせることには長けている印象。いわゆる正統派。
8.want you DARLING ★★
節々で舌足らずなロリ声を挟んだりもするが、今ひとつ可愛くなり切らない感じのアッパーな曲。
なんか半端に懐かしいパンキッシュなキメが多かったり、ギターのフレーズがありがちすぎたりで、特に強みのない曲。
メロディアスと言えば言えなくもないが、コード進行が素直すぎることと、
各メロの繋ぎで一旦メロディを切る作りであることが災って、通して聴いた時のインパクトが薄い印象。
9.17歳の唄 ★★★★
ストレートな詞を感情の起伏たっぷりに歌う、彼女得意のスタイルの曲。
「大人になれば強くなれるの?」という、近年あまり聞かないような17歳らしい健全な疑問をぶつけてくる。
理屈をこねてもっともらしい外面を形成しようとしない潔さが気持ちいい。
やっぱりキャラというのは作るものじゃなくて自然と出るものなのかも。
歌の情感のピークもきちんと詞のメッセージ性の強いところに持ってきている。正しく青臭い曲。
ラストのドラムがちょっと淡白。今作全般で演奏は大人しめなのだが、歌に力がある人なんだからバックももっと前に出てよかった気が。
10.情けない男の唄 ★★
もののふの魂を感じるほど男らしい彼女が、ついに一人称「俺」で歌うギター弾き語り曲。ギターはやっぱり無愛想。
彼女の男らしさは俺っ娘としてはトップレベルなのだが、全然情けなくないので、彼女らしくもなく曲名と相反してしまっている。
詞のほうもまだまだ情けなさが足りない。彼女が思う以上に男は情けないと思う。
そもそも「私、人見知りなんです!」と声高に歌っちゃうほどサッパリしてる彼女に、ダメ男を演じるのは無理かも。
総評.★★★
全ての詞曲を手掛ける19歳のシンガーソングライター、阿部真央の1st。
歌についてはパワフルで伸びのある声、切なげな声、10代らしいキュートな声などを使い分けて表情豊かに構成しており、既に年齢相応以上の実力がある。
色々な歌い手からの影響を感じるが、ともすれば元ネタの人を上回る技量で、きっちり自分のものにしている印象。
詞は良くも悪くも直球。ひねりは全く無いが、説明しすぎという程くどくもなく、曲に上手く乗っている印象。
曲名のセンスも無いが、そもそも意味以上にセンスの良さを重視して曲名を付ける人のほうが彼女にとっては不思議なのでは、という気がする。
メッセージがストレートなので、アレンジ面でも特にフワフワピコピコしてる訳ではなく、サイケなギターがうなってる訳でもない。普通。
半端なアレンジの曲より、シンプルな弾き語りのほうが良いような気も。
楽曲の作りは最近の洋邦のロック系女性シンガーソングライターの中間点という感じで、悪くはないが決め手もない。
メロディを徹底的に練るタイプでも、シンプルでコンパクトな形にまとめるタイプでもない。その間くらい。
しかし年齢を考えれば充分なレベルだし、今後に期待できるのでは。曲数も丁度よく、一貫して歌の存在感が光る直線的な1枚。
10代離れした機知に富む歌詞を期待する人や、実験的な音が好きな人には不向き。
(★5個が満点。)

Reviewer:23rd. 139-143 名無しのエリー2010.02.21.

1.未だ ★★★★
オープニングは雄々しい歌声が印象的なビート系のナンバー。アッパーでキメキメ。バンプの速い曲という印象。
楽曲自体は定番で癖が無く、この時点でひねくれポップス好きは離脱しそうだが、単純に歌に迫力があり、詞もストレートで屈託がないので意外と引き込まれる。
分かりやすくダイナミックな演奏も彼女に合っている。打てば響く、さっぱりした粋な曲。
2.I wanna see you ★★★
あまりメロディラインを大きく動かさず、シンプルなフレーズを繰り返すサビが印象的なポップス。
かなり好き好き心理が前面に出た、ウザめの詞だが、いかにも美しいメロディにありったけの想いを乗せました系の仰々しくて愛が重い感じにはなっていない。
ウキウキ小走りしながら思わず口ずさんで作曲したような、軽やかなサビの効果か。説明的すぎたり浸って陶酔してないのも好印象。
しかしアレンジは本当にベタ。イントロでメロをなぞるギターとかいらんのでは。
3.モンロー ★★★
ここでネタっぽい変な4つ打ちエレクトロポップ。サビ前の意味不明な吐息が変な音程で、さらに調子が狂う。
歌い分けはきっきり意識されており、今までのダイナミックな歌い方からロリっぽくて素朴な歌い方に変わる。
部分的に声を加工したりと、生音主義っぽい彼女にしては意外なアレンジ。
しかし聴いててPerfumeが踊る姿が思い浮かぶかといえばそうでもない。むしろドアラしか。
4.貴方の恋人になりたいのです ★★★
非常にストレートで青い恋愛詞が印象的なスローナンバー。丁寧語のくどさが林檎っぽい。
まあ日本語でリズム感を出すには常套手段なのかも。内容的には狙って複雑な表現をするどころか異常に分かりやすい詞だし。
正直誰にでも書けそうな詞だが、実際この形で発表する人がどれほどいるかという話になるとまた別。
メール世代の宿命でちょっと気の利いた文面にしたくなるのが多分丁度彼女の年代だろうから、
これほどまんまな詞を胸を張って堂々と歌う人は少数派なのでは。
良いとも悪いとも断言できるものではないけど、彼女の生き様は出てる。
5.伝えたいこと ★★★★
まだ二十歳前後くらいの彼女が、コミュニケーション不全の人たちに相手への意志の伝達方法をレクチャーする、何とも男前なアッパー曲。
基本的に男口調で、部分的に何故かジジイ口調。このガンコ親父みたいなメンタリティはどこから出てくるのだろう。
言ってることは「相手の目を見てちゃんと言え」とかの、ごく当たり前のことなのだが、
そのパワフルな歌声とひたすらストレートな作風には説得力があるので、うっかり年下に生き方を教わりそうになる。
曲調的には今更もういい感じだが、逆にそれが古典的な厳しい年輩者を思わせる曲。
6.都合の良い女の唄 ★★
一応彼女にとって目一杯の小悪魔路線と思われる、弾き語り曲。
しかし最後は自戒するので後味が悪くはならない。どちらかというと「昔都合の良かった女の唄」。
だいたい女ってのは都合良すぎなんだよ!と常日頃から憤慨してる人がこの曲を聴いたとしても、
一層憤慨するどころか「うん…そうそう、それなら良し」と収まっちゃいそうな感じ。逆に女子が聴いたら嘘寒いブリッコしてんじゃねえよって感じかも。
女の子っぽい恋の駆け引きで女子の共感を集める歌のようなタイトルだが、実際は甘えと優柔不断が引き起こす悲劇について歌った人生訓という感じ。
メロが平凡すぎたり、ギターがあんまり上手くないのが惜しい。
7.15の言葉 ★★
序盤の妙に達観した感じの丁寧口調の詞がまたもや林檎っぽい、ミドルテンポの曲。アレンジも何か林檎の1stに入ってそうな感じ。
しかし詞はすぐにストレートになる。
何か謎を投げかけるような曲名だが、「ずっとずっとずっとずっと好きよ」の15文字で「15の言葉」。
鍵盤とストリングスをメインに、リズム楽器をあまり強調せずに仕上げた意欲作だが、ブレスの位置が何か変。
他曲でも似た傾向があったが、取り敢えず息が続く限り歌っては切れたところで息継ぎする、といった感じの無計画な歌い方なのかも。
8.もうひとつのMY BABY ★★
俺口調で歌う弾き語り失恋ソング。
大抵女性が男視点で歌う時は「僕」だが、あれをやると露骨に草食系男子になるし、かえってカワイイみたいなボクっ娘文化も出来つつあるので、
阿部の俺口調シリーズはそのラインを飛び越してちゃんと男視点で歌う意欲が表れてるのでは。
今後の男視点ソングのスタンダードになり得るか。今のところはいくら男らしく巻き舌で歌ってもやっぱり違和感のほうが強いが。
ていうか口調が一昔前の番長みたいな時代錯誤な感じなのがダメなのかも。
9.loving DARLING ★★★★
一転してキュートな声で歌う、ロカビリー調のギターが絡むロックンロール。今作中では曲そのものよりアレンジが強い部類に入るか。
オールディーズ路線自体は向いているようで、シンプルなメロディを軽快に歌う。荒っぽい音作りもSっ気の強い詞とマッチしている。
流行を追う気配の全くない彼女が今後やるなら、中途半端に古いJ-POPよりはこのくらい遡った曲のほうがいいかも。
10.わかるの ★★
80~90年代のマイナー調歌謡ロックといった感じの曲。
彼女くらいの世代からすれば古くて新しいのかもしれないが、当時から表出してた日本語とロックの相性の悪さがそのまま引き継がれてる曲という感じ。
字数の関係でメロが長くなりすぎるので小節数が無駄に増えて、ドラムが同じようなパターンばかり叩かざるを得なくなる感じというか。
何にせよこの路線を続けても、ある一定ラインより若い世代からすれば当たり前のように「いきものがかりのフォロアー」に見えてしまうのだろうし、
切っていいのでは。
11.ポーカーフェイス ★★★
やはり中途半端な時代錯誤感が出た、中ノ森BANDとかがやってそうなビートロック。
分かりやすいメロディ、速いテンポ、力強いボーカルという、一昔前の売れ線コンボ。
最近ではV系がたまにやる狙ってポップな曲に名残を見るくらいの曲調。
爽快感は備わってるが、基本的に勢いの部分以外はそれほど注目することもないような曲。
12.いつの日も ★★★★★
いっそ小坂明子とかの世代にまで遡ったような、伝統的な歌謡ポップス。
実験的な要素は全く無く、ベタな出来なのだが、展開を読まれながらもなお聴き手をねじ伏せる普遍性が備わった曲では。
地に足のついた歌ものポップスって感じがする。メロ展開と詞がきっちり連動しているし、歌も起伏がある。
こういう曲を特に好んで集めてる訳ではないが、これはこれで聴きたい感じ。
日本人好きする歌謡チックなメロディは、世に蔓延してるようで実はぞんざいな出来のものがほとんどだということを改めて感じた曲。
まだ若い彼女がウェディングソングの定番になり得る曲を作ったというのも面白い。
13.サラリーマンの唄 ★★
上司の退屈な話に苛つくサラリーマンを歌った弾き語り曲。OL視点でも書けそうな詞を敢えて男視点で書いている。
むしろ女視点ならセクハラとか絡めてもっと幅広く書けたのでは…と思っていたがオチで納得。
下らねえ上司ってほんと嫌になるね~という詞にうっかり同意してウンウン頷いていると、
最後に「嫌だって意思表示できない自分が一番嫌だ」というメッセージが来てギクリとさせられる。
確かにこりゃOLよりサラリーマンのほうが多いケースかも。「別に退職したっていい」くらいの気持ちでスパッと言いたいこと言うのは多分女性だろう。
それはいいんだけど楽曲が適当すぎやしないか。
総評.★★★
全詞曲を手掛けるシンガーソングライター、阿部真央の2nd。
まだほとんどの曲が学生時代のストックという事で、楽曲の方向性自体は前作とさほど変わらない。オーソドックスな歌ものロック。
しかしアレンジの働きか、曲の良し悪しの波が大きくなった気がする。俺キャラがちょっと多めに盛られた感もあり、そこも好みの分かれどころ。
一本筋の通ったキャラクターは健在で、自分はこう思うという内容を直球で伝えてくる。
奇をてらったり理屈をこねたりしなさすぎるので作詞に創意工夫が無いと見える面もあるが、
思わせぶりだけの無意味な詞や意味が伝わりにくい独善的な詞もなく、オープンで誠実。
見たら意味が分かるというのは当たり前の気もするが、
パッと見では読めないような曲名とかをつけるバンドが奥ゆかしいと感じる人にはこういう詞は馬鹿っぽく見えるのかも。
逆にそういうバンドが曲名の読み方を敢えて質問させたうえで得意気に答えてるのを見て、
自分で言ったら奥ゆかしくねえよと馬鹿馬鹿しくなる人なら阿部が向いているのでは。
とにかく背伸びがなく、本人との距離が近いのが特性に感じる。
若手の注目株とは言われるが作曲家としては古典的な部類に入るので、最先端の音を若者の奔放な感性で鳴らしてるような音楽を求める人には用の無い存在。
しかしメンタルの強さと説得力は一流なので、割と性根がよじれてる人でも数曲は素直に聴けるのでは。
サウンドクリエイターや詩人というより、生き様を見せる人という印象。大きな括りでは長渕とかの部類かも。
「きっと」「かもしれない」「だよね」といった主張が曖昧な詞でチャートを牛耳ってきた浜崎に、引導を届けに来たような一枚。
(★5個が満点。)