Reviewer:21st. 488-492, 494-495 名無しのエリー2009.06.27.
1.ギャンブル ★★★★☆(原曲なら:★★★★)
バンドサウンドだった原曲が一気に豪華なオーケストラに。ただ、原曲はライブバージョンだったためか、今回はより聞きやすくなった。
そこまで原曲のイメージを壊していない上にオーケストラのよさが非常に表れており、
個人的にはそれが原曲よりキャッチーたらしめている一因のような気がしている。2番のAメロの緊張感にはしびれる。
ただ、原曲にあったバンドだからこその、サウンドによる激情的な感情の吐露は若干鳴りを潜めた感がある。
とはいえ、そこはボーカルがより感情的に歌うことによってある程度をカバーしているが(特に大サビ)、
弊害として最近の林檎は語尾の処理やヤギのようながなり声がきつく、苦手な人は大いに嫌悪感を示すと思われる。
2.茎 ★★☆(原曲:シングル版→★★★★☆ アルバム版→★★★★★)
全英語詞。どちらかというと『加爾基~』のバージョンに近いが、超のろま。ゆったりまったりしていて退屈に感じるかも。
大名遊ビ編、加爾基編ともに間奏が素晴らしかったのだが、サウンド重視のアルバムとしてはがっかりな内容。
落ち着いたものが好きな人は良いだろうが、さすがに眠くなる。曲自体は名曲なのだが・・・
3.錯乱(TERRA ver.) ★★★☆(ONKIO ver.:★★★☆)
全英語詞。c/wのONKIO ver.ではラテン調だったものがブロードウェイのミュージカルっぽく変身。とはいえ大幅には変わっていない。
どちらのアレンジも次作『三文ゴシップ』で耳にするようなオーケストラアレンジ。
いい歌だが若干飽きやすい。『三文ゴシップ』の曲群のほうが都会的でかっこいいので、
林檎のオーケストラ系の曲を聴きたいときにあえてこの曲を聴くかどうかは微妙。
ただ、映画『さくらん』にちなんだタイトルは林檎らしくて粋。
4.ハツコイ娼女 ★★★★☆
電子的な打ち込みアレンジとオーケストラのミックスが新鮮な今までに無い一曲。
林檎の声にボーカルにエフェクトがかかっているところが神秘的で非常にいい。
サビの「あーなーたーのなまーえをー」が一文字ずついろんなところから降ってくるようなボーカルとコーラスワークが秀逸。
5.パパイヤマンゴー ★★★
カバー曲。序盤はフランス語で歌っているが発音がどうもいかにもって感じがして笑ってしまう。ちょっと気持ち悪い。
まさに南国っぽく能天気な優しい曲調。こういう曲も1曲ならありだが、これ以上はいらない。
ハツコイ娼女が間にあったからいいものの、もし錯乱と連続していたら、おそらく流れ的にはハツコイよりも合っているだろうが胃がもたれること必死。
6.意識 ★★★(原曲:★★★☆ ※シングル版「意識~戦後最大級ノ・・・」も含む)
『加爾基~』やc/w版のどこか陰鬱なアレンジもオーケストラの手にかかれば見事に優雅で色っぽい仕上がりに。
こちらも原曲よりキャッチーになって聞きやすいが原曲のよさや世界観といったものは良くも悪くも完全に失われている。
メロディのよさが際立ってなかなかいいアレンジなのだが、まぁこれは好みの問題だろう。
7.浴室 ★★☆(原曲:勝訴版→★★★★ la salle de bain→★★★☆)
『勝訴ストリップ』に収録されている原曲と、「りんごのうた」収録のc/w「la salle de bain」(アレンジ版)をミックスしただけのもの。
1番は勝訴バージョン(日本語)、2番はla salle de bain(英語)を主体としているが、
2つの曲の印象深い箇所はきっちり入っているといういいとこどりな曲。だから新バージョンだと思って期待していた人にはがっかりな内容。ということで★減点。
悪く言えばどっちつかずだが、勝訴版とla salle de bainのどちらを聞くか迷っているときに間を取って・・・という時に重宝しそうw
8.迷彩 ★★★☆(原曲:★★★★ ※シングル版「迷彩~戦後最大級ノ・・・」も含む)
『加爾基~』に続き今作でもシンメトリーで対になっているが、アレンジも意識に似たものがある。
優雅な「意識」に比べてこちらは「錯乱」を彷彿とするブラスが入ったアップテンポな楽曲。
曲自体は2分ほどで、残りはバイオリンの独壇場。当然素晴らしく上手いのだが、もう少し自重しても良かったのでは。
個人的には序盤の麗しい曲調のまま展開してほしかった。
9.ポルターガイスト ★★★★(原曲:★★★★)
原曲とそこまで大差は無いが、原曲は大正浪漫なアレンジが秀逸なかわいい曲だったが、
今作もかわいさはそのままに、後半はオーケストラでより優雅でお金持ちな感じに。
1番はエフェクトで声を篭らせて、2番はバックの楽器を篭らせるアレンジはノスタルジックで秀逸。
10.カリソメ乙女(TAMEIKESANNOH ver) ★★★★☆(DEATH JAZZ ver:★★★★ ※HITOKUCHIZAKA verはインストなので省略)
全英語詞。M1、M4と並ぶ今作のベストトラック。ピアノとバイオリンが非常に効果的で艶っぽい。何より秀逸なのはメロディ。
今作収録の新曲では最も林檎らしく、女らしさとかっこよさを兼ね備えている。『さくらん』のイメージにもぴったり。
他にインストバージョンと『三文ゴシップ』に収録された「DEATH JAZZ ver」があり、
どれも違ったよさがあるので聴いてみる価値あるが、個人的にはこのアレンジが一番好き。
11.花魁 ★★★☆
全英語詞。こちらも『さくらん』にちなんだタイトルで、今作一の問題作にして前衛的な実験作。特にAメロ、Bメロは好き嫌いの別れどころ。
これほど電子音にまみれた曲は椎名林檎では他に無い。サビは比較的キャッチーだが、
個人的に一聴しただけでは『加爾基~』の「葬列」や「宗教」を上回る衝撃性と刺激性を感じた。
これは完全に捨て曲だな・・・と思ったが何回も聞いて慣れるとなかなか面白くて好きになった。
コーラスやストリングスの使い方をはじめ全体的にビョークの影響がもろに感じられる。
12.夢のあと ★★★★(原曲:★★★★★)
東京事変版に比べ優しい印象のピアノが特徴的な序盤。どちらかというと「夢のなか」と言った感じのまったりした曲。
こちらも迷彩と同様キーが高くなっているため、シリアスだった原曲の印象はあまりない。
そこからだんだん曲が展開するにつれサウンドの中心がピアノからオーケストラへシフトしていき、
そして最後は壮大で堂々とした終わり方で締める。ただ、最後は少し仰々しい感じがする。
また、オーケストラに負けないようにするためかここでもラストで林檎のがなり声が。
個人的には事変版のラストのヒイズミによるピアノが大好きなのでそれには劣っているが、まぁまぁのアレンジ。
アルバム『教育』でラストトラックだったため、これで本編終了、と言った印象。
13.この世の限り ★★★★☆
エンドロールとか、劇が終わって役者全員で「ありがとうございました~!」みたいな終わりかたで締める。
童謡のようなシンプルでかわいらしい1番から、2番以降は英語詞で古き良きミュージカル調。
ラストの盛り上がり方がかっこいい。兄の椎名純平を迎えたコラボ楽曲だが、
2人のコーラスワークはさすが兄弟だけあり、相性がよく、椎名純平の性質が楽曲にも良く合っている。
歌詞が最近の林檎にありがちな内容で若干陳腐だが、曲の完成度は非常に高い。外国の往年の名曲といった感じ。
総評.★★★☆
映画『さくらん』のサウンドトラックという企画ものとしての椎名林檎の久しぶりのアルバム。
半数以上が過去曲の焼きまわしだが、「意識」や「迷彩」、「ギャンブル」などの今作とかけ離れた楽曲を選曲したのは評価できる。
しかし、「茎」も「浴室」もすでに複数のアレンジがCD化されており(「意識」と「迷彩」も厳密には2パターンある)、
もっと新鮮味のある曲を選んでほしかった。
また、それ以外の「ポルターガイスト」も「夢のあと」もある程度原曲だけである程度アレンジが予想できるような曲なので、
もっとリスナーがびっくりするような、例えば「宗教」や「罪と罰」、「歌舞伎町の女王」、「正しい街」、
事変なら「遭難」、「御祭騒ぎ」などの挑戦的だったり面白い選曲は出来なかったのだろうか。
オーケストラ栄えすることを優先してどうも無難どころにうまく収まってしまった印象がある。
ただ、新曲はいずれも素晴らしい出来で、東京事変では出来ないことをやりたいだけやってのけた印象。
いずれもオーケストラで優雅かつ派手に仕上がっているが、アルバムを全曲通して聴くというのには疲れるであろうところを
M4、M7の1番、M11といった電子的な楽曲がアルバムのいいスパイスとなってダレ防止に一役買っている。
あくまでオリジナルアルバムではなく、サントラとして聴いてほしいが、その後の彼女の作品を語る上でこの作品は重要なターニングポイントとなっている。
キャッチーで聴きやすいが椎名林檎初心者にはあえてお勧めしない。『無罪モラトリアム』から順々に原曲を聴いていってほしい。
斉藤ネコとは10周年記念ライブ「生・林檎博」ではもちろん、
次作『三文ゴシップ』でもいくつかアレンジを担当しており、アルバムの作風も今作を踏襲した内容となっているが、
もう彼との相性の良さは十分分かったので、そろそろオーケストラから離れて新境地を開拓してほしいところ。
(★:2点,☆:1点の計10点満点。)