Reviewer:21st. 598-602 名無しのエリー2009.07.20.
1.藍 ★★★★★
静かに始まりを告げる大橋のギターと常田のピアノの絡みからスタートし、
サビでドラムやストリングスなど他楽器が加わり一気に厚みと広がりを増す一曲。
大橋が「今の自分にこれ以上のものは出せない!」と言い切るほどメロディを考えあぐねただけあってか、
これがアルバム曲であることが非常に勿体ないくらい秀逸な出来。
ストリングスの音が非常に綺麗で、アルバムを引っ張る1曲目としては十二分に役目を果たしており引き込まれる。
静謐とした空気の中で進んでいくABメロとは対照的に、感情を吐き散らすように上がっていくサビもいい。
上手く行かない恋愛について描いた曲だが、主人公である僕は、恋する相手について最初は“存在自体よ消えちまえ”と言っていたのに、
最後に“消えちまえ”ではなく“消してしまえ”になるあたり、深読みすると少し狂気の面も匂わせる。
だから愛ではなく少し歪ませて藍なのか。
2.ガラナ(album ver.) ★★★
1曲目の感動的な余韻に浸る間も与えずいきなり始まる、空気読まない位置に置かれた一曲。映画『ラフ』の主題歌に起用されたシングル曲。
1st、2ndとどちらも2曲目はアップテンポな曲を配置しているスキマスイッチだが、ここに持ってくることはなかったのでは…。
粗っぽいザクザクとしたヴォーカルから入り、ABメロでコミカルに展開しつつサビは王道展開で駆け抜けていく。
“キッスしたい唇”“ターゲット絞って急接近”“ビビるんじゃねーぞ”“エンジン全開だ!”
……いや、まあキスがキッスなあたり思い切ってここまで突っ切ったのだろうが…。思春期真っ只中な歌詞。
シングルヴァージョンとの違いは最後にピアノが加わっており、そのまま間髪入れず3曲目のスフィアの羽根に繋がる。
3.スフィアの羽根(album ver.) ★★☆
2006年の熱闘甲子園のテーマソングに起用された。爽やかで夏らしさを感じさせる。
シングルヴァージョンとは冒頭1音のコードが異なっている。それだけの違い。
パーカッションが可愛らしい曲ではあるが、同じ応援系・同じアップテンポのガラナの後では少しインパクト薄。
サビのメロディが少し全力少年に似ているかな。
4.惑星タイマー(album ver.) ★★
スキマスイッチ自身も参加している福耳がリリースした曲を、アプローチを変えてセルフカバー。
オーケストラを付け、ドラムなどを排除してやたら壮大に仕上げた一曲。
自分が福耳ヴァージョンの方が好きだからかもしれないが、ちょっとダレる。転調部分からはちょっとビートルズっぽさが入っていて面白い。
宇宙や惑星をイメージとしているので、壮大になったことで深みは出たのかも。歌詞はスキマスイッチが好きな隠しエロ系。
ベストアルバムに収録されている惑星タイマーは、こちらではなく福耳に提供した方の跳ねたヴァージョン。
5.月見ヶ丘 ★★
カントリー&フォークテイストな、少し昭和っぽさを感じさせるコード進行の曲。
バックコーラスに小田和正を迎えた豪華な一曲であるが、恐らく聞き流す程度では気付かない。でも厚いコーラス。
初回特典のDVDでは、小田和正がこの曲のコーラスを凄く難しいと言っている。
歌詞も曲調も可愛らしい感じに仕上がっている。アルバムの中の小休止的な曲だが、バックミュージシャンが豪華。
6.空創トリップ ★
インスト。スキマスイッチツアー『空創トリップ』のSE曲。
ツアータイトルをそのまま楽曲タイトルにしている。ストリングスとピアノのみで構成。
幻想的な小曲で、そのまま次のボクノートへと綺麗に繋がっていく。
7.ボクノート ★★★★
前に記述したツアー『空創トリップ』を再現してか、ツアー1曲目に演奏したボクノートを意図的にこの位置に収録。
6曲目とセットとしても捉えられるし、別物としても聴ける。2006年映画ドラえもん『のび太の恐竜2006』の主題歌。
柔らかく時に鋭く感情を曝け出す真摯な歌い方と、ストリングスが綺麗に合わさったバラード。
さり気なく転調しまくりソング。転調したまま最後まで突き抜けます。
8.ズラチナルーカ ★★★☆
ボクノートで作った温かみのある空気感を一転、常田によるピアノリフで始まるアルバムの中の異色曲。
大橋の囁くような歌い方とエコーのかかった繰り返されるフレーズが怪しさと不安定さを生んでいる。
曲中に出てくる“夕立”“街が沈む”“雲を裂く方舟”といったフレーズから旧約聖書の『ノアの箱舟』を思わせるような歌詞だが、
常田曰くこれまでこの歌詞の本当の意味を言い当てられた人は一人しかいないらしい。
何にせよ世界の終焉を彷彿とさせる、ファンタジックで不思議な曲。
スケールは壮大だが、世界平和や反戦を訴えるわけでもなく、あくまで“君と僕”に終始しているところがいい。
世界観を広げても結局は“君と僕”の小さな世界の話に辿り着く、そういったスタンスが彼ららしいと思う。
ズラチナルーカとはセルビア語で“空港”という意味らしい。
9.糸ノ意図 ★★★
ドラムにアンダーグラフの谷口奈穂子、ベースにレミオロメンの前田啓介を迎えた爽やかなアップテンポナンバー。
歌詞は芥川龍之介の『蜘蛛の糸』をモチーフとしており、歌詞カードにもinspired by 『蜘蛛の糸』と記載されている。
主人公である僕が最近喧嘩してしまった彼女の元へ、糸を手繰り寄せ他人を蹴落として逢いに行くというストーリー。
爽やかな曲調と大橋の軽やかな歌唱、そして最後の“君は笑っていた”という歌詞に一見ハッピーエンドを思わせるが、
『蜘蛛の糸』の結末を思い返してみると爽やかな中に毒を利かせた曲であることがわかる。
『蜘蛛の糸』の主人公の名前はカンダタなのだが、歌詞の中で“闇を抜けることはカンタンダ”と表記するなどちょっとした遊び心を利かせている。
10.アカツキの詩(album ver.) ★★★☆
スキマスイッチお得意の、切なく悲しい歌詞を敢えて温かみのある歌声と演奏に乗せたミディアムナンバー。
アルバム先行シングル。サビのファルセットがいい感じ。Aメロの捻った独特のコード進行がスキマスイッチらしい。
シングルヴァージョンよりアウトロが長くなっており、アルバムヴァージョンの方が明るく華やかな展開になっている。
11.アーセンの憂鬱 ★★★★☆
アーセン→フランス語でアルセーヌ→アルセーヌ=ルパン→泥棒。
自信満々の泥棒が愛しの御令嬢を掻っ攫いにいくというコミック仕立てな内容。
それに相応しく爽快なアッパーチューン、一気に走り抜けていく疾走感溢れる気持ちいい曲。
トランペットがいい味出している。何となくsurfaceとかが歌っていそう。
以前放送された情熱大陸でスキマスイッチの曲作りの過程を検証するためにこの曲が取り上げられていたが、
大橋がハマると感じた母音を優先して適当に付けた歌詞に、常田が大橋好みの正式な歌詞を付けていくというものだった。
そういった過程が如実に表れている面白い歌詞で、どの単語やフレーズも確かに見事マッチしている。
“掌底”なんて歌詞なかなか見かけない。格好よく罠を掻い潜って御令嬢の元へ行く泥棒だが、最後にはちゃんとオチあり。
12.願い言 ★★★★
昔のアメリカンポップス、ブルー・アイド・ソウルの雰囲気を意識したというちょっとレトロな一曲。
ゆったり淡々と進んでいくバラードで少し物足りなさを感じさせるが、
それが逆に転調した後の重厚な演奏と大橋の力強くライブ感あるヴォーカルを際立たせており、アルバム後半の山場として大きな存在感を見せている。
“今日まで僕が生きてきたその理由を 今ここで君に証明してみせたい”とプロポーズを思わせるちょっとこっぱずかしい歌詞だが、
熱の入った切実な歌声とここぞとばかりに畳みかけてくる演奏に乗り良いドラマチックさを出している。
13.1+1 ★★
常田のピアノと大橋の歌だけで一発録りしたという短い曲。ここに来て原点回帰。
これと言って特に面白味はないが、しっとりとした曲調と柔らかな歌唱で静かに終わっていく感じは重めバラードの後、
そしてアルバムの締めとしてはこれくらいが丁度いいのでは。
総評.★★★★
オールセルフアレンジ・セルフプロデュースのスキマスイッチによる三枚目のアルバム。
『夏雲ノイズ』『空創クリップ』に続く三枚目で、スキマスイッチはこの『夕風ブレンド』までをアルバム三部作と銘打っている。
『夏雲ノイズ』をリリースした2004年からの、3年間の集大成と言える。
大橋の歌声は好き嫌いがわかれるようだが、彼の声に抵抗さえなければ最後までとてもすんなりと聴くことができ、安心して気持ちよく聴けるアルバム。
歌詞と世界観のマニアックさ・ヲタクくささがとても気になるがw
ヴォーカルについては曲ごとに歌い方や温度感を変えてきているのでそれぞれに味がある。
1stはまだまだ粗削りであったし、2ndは多方面で新しいことを取り入れようとし詰め込みすぎてとっ散らかっている印象だったので、
1st、2ndのまとめとしてとても安定感のある一枚に仕上がっていると思う。
しっかりと聴き込むこともできるし、何か他のことをしながらのバックミュージックとして楽しむこともできる。
個人的にはベストアルバムよりもこっちを薦めたくなる。
当時「もうこれ以上は出せない」と言っていた2006年から3年が経ち、今年再始動したスキマスイッチであるが、
三部作を終わらせ互いのソロ活動を経て仕切り直した彼らが、次のアルバムで一体どんな顔を見せてくるか期待。
(★:2点,☆:1点の計10点満点。)