浅田 次郎

 

王妃の館 ★★★
パリのヴォージュ広場に立つ超高級ホテル「王妃の館(シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ)」。超高級ホテルの知名度を利用し、倒産寸前の旅行会社が超豪華「光(ポジ)ツアー」と、格安「影(ネガ)ツアー」をわざとダブルブッキングし、決行する。一癖も二癖もあるツアー客とツアコン、そして300年前の「シャトー・ドゥ・ラ・レーヌ」、太陽王・ルイ14世とその愛妃、そして息子のプティ・ルイにまつわる話を絡めてツアーは笑いと涙で大騒ぎ…。
いやぁ、笑った笑った。そして泣いた。お約束のラストに拍子抜けしながらも、光と影はまさに一心同体なんだな…と、安心させられた。さらっと読もうと思えば読めるし、掘り下げても読める。大いに笑いたい人はツアー客のどたばたぶりをさらっと読んで、笑いの中でもちょこっと泣きたい…そんな人は300年前に思いを馳せると泣けます。とにかく泣いて笑って元気が出る作品です。
しかし、超がつくほどの個性的なツアー客。中でも作家の北白川右京が気に入った。この人を主人公にして別の話を作って欲しいくらい(笑)。
(ラムさんからお借りしました・ありがとう♪)

 

 

蒼穹の昴 ★★★★★
中国・清朝末期。貧農の子・春児は「汝の守護星は冨と威の星、昴じゃ」と星占みの老婆に見立てられ、宦官になるため自らの身体に鎌を振るった…。一方、郷紳の庶子・梁文秀は「天下の政を司るだろう」という老婆の見立てどおり科挙を突破、官僚への道を歩み始める…。しかし、時代の大きすぎる荒波に二人の運命は翻弄されてゆく。
「清朝末期絵巻」とでも言うのか、とにかく壮大。それでいて、この時代を生きた人たちの息遣いまで聞こえてくるような緻密さ。宦官の作り方や科挙の難関さ、貧しい人々の暮らし、帝位の威光にすがろうとする者のあさましさ…等々、文字だけでタイムスリップしたかのような錯覚に陥らせてしまう、筆力に圧倒され、漢字の羅列や長さをまったく感じなかった。
この時代の清の王朝といえば、「悪女・西太后」を思い浮かべるのだが、この作品では西太后は世界一不幸な女性として描かれているのも、興味深い。悪女というイメージは奸臣たちが我が身を守るために流した嘘っぱちなのかもしれないな…と、思わせる。そして、この作品の中の西太后はそれをわかっていて運命を受け入れるところが、あっぱれだ。
しかし、やはりこの作品は春児だ。運命は自分で切り開いていくものなのだ…ということを、まさに身をもって証明してくれる。希望と矜持を失わない者の頭上に世界を統べる星、昴は輝く。

 

 

珍妃の井戸 ★★★★
上記↑「蒼穹の昴」直後の清。義和団事件後、混乱する紫禁城。その奥深くにある井戸で皇帝の寵妃・珍妃が変死した。厳重な警備を施された紫禁城で一体何が起きたのか。英・独・露・日の4人の将校や貴族が関係者の証言をもとに事件の真相を調べていくが…。
なかなか本書の意図がわからず、関係者の証言が己の保身もあって、虚実の判断がつかず、一体誰が真実を話しているのか4人の高官たちとともにわたし自身も混乱していた。しかし最後の最後にようやく「あ、そうだったのか…」と気づかされる。気づかされたと同時に頭を殴られたような衝撃を受ける。「蒼穹の昴」のような宮廷ロマン(?)を期待すると裏切られるけれど、日本人は読んだほうがいい。それも最後に受ける衝撃を覚悟して読むべきだ。「仁の訓えに満ちた、世界で一番豊かな国」と美しい妃に敬意をはらって…。
「蒼穹の昴」の続編であって、続編ではない。けれど、おなじみの春児のその後の様子もところどころ窺えるので、「蒼穹…」ファンにはそっちのお楽しみもあるし、「蒼穹…」を未読の人は先に「蒼穹…」を読んでからこちらを読んだほうが理解しやすいと思う。春児の義兄弟、蘭琴の証言はきっと泣けてくるだろう…。