江國 香織

 

神様のボート
骨ごと溶けるような恋をした母、葉子と、その恋の結果、生まれた宝物の娘、草子。葉子の恋した「あのひと」を待つために「神様のボート」に乗り、旅がらすとなって引越しを繰り返す二人はどこへ行くのか…。
葉子の「あのひと」に対する思いは、普通に生活しているように見えるのに、静かな狂気に満ちている。迷惑なのは娘の草子なのだけれど、母につかず離れずの距離感を保ちつつ、月日が経つごとに健全に成長していくところに頼もしさを感じ、ほっとさせられる。葉子の静かな狂気はとても幸せな狂い方だと思う。人は恋をした時点で普通の精神状態ではなくなるものだけれど、愛し愛されるバランスが崩れると悲惨な状態になる…という小説を何度となく読んできただけに、葉子の狂い方は同性としてうらやましく思える。だいたい、骨ごと溶けるような恋をした…ということ自体、女性としてこれ以上の幸せはないと思う。
桃井先生との不可思議な生活は理解出来なかったけれど、「あのひと」に会うための助走期間だったのだろう。でも、ラストはあっさりしてましたねぇ。それよりも、作者は童話を書いたり絵本の翻訳をしてたということもあって、草子が成長していく過程を見事に描ききっている。母の恋物語としてはモチロン、娘の成長物語として読んでも面白いと思います。