藤本 ひとみ

 

ハプスブルクの宝剣 ★★★★
ユダヤ人の青年、エリヤーフーは閉鎖的なユダヤの世界に馴染めず、自らの片目とユダヤを捨て、後にオーストリア女帝となるマリア・テレジアの婚約者フランツと出会い、「エドゥアルト」と名を変え、自らの野心とフランツとの友情のために18世紀、戦乱のヨーロッパを駆け抜ける…。
読み応えありました。面白かった。エドゥアルト…知謀に長け、語学能力にもすぐれ、隻眼とはいえルックスもよく、人としては非の打ち所がない…はずなのに、ユダヤ人ということだけで、マリア・テレジアからあれほどの屈辱を味わわせられながらもを憎みきれないところが甘い!。もっとも、こことフランツとの友情をなによりも大切に思っているのが、人間くさくていいところ。ラスト近くで自分が「ユダヤ人」であることを受け入れ、マリアの心情を理解したあたりは、エディも丸くなっちゃったな…と、感慨深い思いがした。
それにしても、ユダヤ教とキリスト教、なぜにそんなに反目しあわなくてはならないのか…このあたりのことが不勉強で、読み進めながらも理解に苦しむことが多かった。ユダヤの人々が受けてきた辱めや苦労はわたしにはとうてい想像がつかない。しかし、いまだにパレスチナを中心とした戦乱が絶えないのはユダヤやアラブの人々はもちろん、全人類にとっても不幸なことだということをもっと認識しなくてはいけないのではないだろうか?。
(ラムさんからお借りしました・ありがとう♪)

 

 

ブルボンの封印 ★★★★
ルイ13世が今際の際に残した「あれをイングランドに…」。そのひと言からフランス・ブルボン王朝最大のスキャンダルの火蓋が切って落とされる。運命の歯車は貴族の養子・ジェームズと薬剤師の娘・マリエールを翻弄し、やがて「鉄仮面の男」へと導いていく…。
いわゆる「鉄仮面伝説」を素に歴史上の実在した人物や事件を織り込み、作者なりに解釈・創作したものなのだが、実のところわたし自身は「鉄仮面伝説」をよく知らない。テレビでチラリと見たことがあるくらいで、彼の正体は諸説あるらしい…というのを耳にした程度だ。ちなみにデュマの「三銃士」も「鉄仮面」も読んでいないので、鉄仮面伝説については知識はほとんどない。だから先入観なく、純粋にこの作品に没頭出来たような気がする。
自分の手で運命を切り開こうとするジェームズとマリエールは確かにいい男といい女だと思うけど、なんとなく好きにはなれなかった。代わりに無条件で「いい男♪」と思えるのがルイ14世の側近であるアドリアン・モーリスとフランソワ・ミッシェル。個人的には切れ者のアドリアン・モーリスよりも実直なフランソワ・ミっシェルの方が好みだけど。あと、いい女…というのとはちょっと違うかもしれないけど、マリエールの妹のマノンの執念深さもあれほどの域までいくと脱帽というか尊敬に値する。
…しかし、人物は好きだけどストーリーのラストはどうにも納得できなかった。だからジェームズのことを好きになれなかったもかもしれない。それでも久々に手に汗を握るような感覚にどっぷりとはまらせてもらい、充分楽しませてもらった。
(ラムさんからお借りしました・ありがとう♪)

 

 

暗殺者ロレンザッチョ ★★★
16世紀のフランス宮廷に一人のイタリア人がフランス国王・フランソワ一世の命により身を隠していた。名はイタリア、メディチ家の傍流の息子・ロレンツィーノ。彼は主君であり、遠縁でもあるフィレンツェ公爵・アレッサンドロを暗殺していた。彼が公爵を殺さねばならなかったその理由を彼はメディチ家本家の後継者でありながら、フランス王太子妃カトリーヌに語り始めた…。
もうただただ運命に見放された男が世間に一泡吹かせてやろうと、自分だけにしか通じない理屈…つまり、あたしには到底理解できない理由でアレッサンドロを殺してしまう。今の日本だとたぶん裁判を開くに当たって精神鑑定をされるだろう。…逆に言えば、今の日本の歪んだ部分に通じるものがあるような気がする。どう頑張っても報われない社会、どう抗っても抗いきれない運命…彼は常に孤独だったのだ。自分の身近にそんな孤独な人がいないだろうかと、ふと親戚や友人の顔を思い浮かべてしまった。
それにしても中世フランス宮廷は愛憎渦巻くまさに「昼ドラ」の世界。ロレンツィーノも怖かったけど、本人にとっては「幸せな狂い方」をしてるので、怖いな…と、思いつつも哀れに思える部分があるのだけれど、女の争いには救いがないな…と自分も女なのにつくづく思い、深いため息をついてしまった。
(ラムさんからお借りしました・ありがとう♪)

 

 

預言者ノストラダムス ★★★★
カトリーヌ・ドゥ・メディシスはイタリア、メディチ家の後継者でありながら、フランス王妃となっていた。しかし、夫であるアンリ二世にはアンリ自身より20才も年上のディアーヌが寵妾として存在しており、また商家の出身であることから軽んじられ、名前だけの王妃として鬱屈した日々を過ごしていたが、なんとしても運命を切り開こうと助言を得るため、預言者として有名になりつつあったノストラダムスを宮廷に招くことに成功する…。
文庫版では「王妃とノストラダムス」に改題されていることからも、本作はカトリーヌとノストラダムスの二人が主人公だ。ノストラダムスは改宗ユダヤ人として迫害から逃れるために医術や占星術を身につける一方、苦労したために人情深く「預言者」というよりは、カトリーヌが思わず口にした「父」のような存在だ。そしてカトリーヌはこの感想を書くにあたって、彼女のことをネットで調べてみたのだけれど、かなり権力欲の強い悪名高い王妃、というのが一般的なカトリーヌ像のようだ。しかし、この作品で描かれるカトリーヌは夫に愛されず不遇な日々を過ごしながらもいつか自らの手に宮廷の全てを握ろうとノストラダムスの助言を得ながら、必死で運命を切り開く前向きで強い女性だ。ノストラダムスが夫・アンリ二世や息子の死を預言したときの彼女の慟哭は一般的に言われる悪女のイメージとはまったく違うし、ノストラダムスも現代では謎めいた預言者…というイメージがあるのだけれど、案外本当にこの作品に描かれたような人だったのかもしれない…と、思うとちょっと身近に感じたりして。
また、藤本さんの他の作品もそうだけど、当時の生活様式の描写が細かく、なかなか興味をそそる。それに忘れてはならないいい男二人…アルベルトとビラーグ。特にアルベルト!。読んだ人にしかわからないけど、気持ちをわしづかみにされること間違いないと思われます。
ノストラダムスとカトリーヌ…この二人は自らの手で運命を切り開くという共通項を持ち、その通りに生き抜いた見事な人たちだった。
(ラムさんからお借りしました・ありがとう♪)