橋口 いくよ

 

水平線の光の中、また逢えたら ★★★★
「いそかぜ」事件以前、ジョンヒは「兄」の命令で女子大生「島田唯」になりすまし、工作員としての任務を果たして日々を送っていた。そんなジョンヒの前に同じ大学に通う研太が現われ、なにかと世話を焼く。研太はジョンヒに恋をしたのだ…。
仙石&行、そして「イージス」読者の前に現われた「ジョンヒ」は強く、悲しく、そして冷徹で、何ごとにも流されない生まれながらの工作員でしかなかった。しかし、ここに書かれるジョンヒはもっと生身で、血の通った人間だ。彼女は人を愛することを知らない。研太のことを疎ましく思いながらも断ち切ってしまうことができない。それが「愛」だということに気づいていたらきっと「いそかぜ」に乗り込むことはなかっただろう。けれど、気づかなかったからこそ、行に出会い、あの「名シーン」が生まれたのだ。橋口さんの流れるような文体がせつない中にもジョンヒの強さと「女性」の部分を鮮明に見せてくれた。「イージス」でジョンヒの中に悲しみをみつけた人に読んで欲しい1冊。