畠中  恵

 

しゃばけ ★★★★
江戸有数の廻船問屋兼薬種問屋の一人息子で若だんなの一太郎は、身体が弱く外出もままならない。ところが目を盗んで出かけた夜に人殺しを目撃したため、解決に乗り出すことに。しかし身体の弱い若だんな一人では心もとなく、手代たちの手を借りる。しかし、この手代たち実は人ではなく、妖(あやかし)だった…。
妖ですぞ、妖怪。妖怪と来れば、さぞやおどろおどろしい物語では…と、思いがちだけれど、この物語はほのぼのとしていて、若だんなと妖たちがごく自然に共存していて、やりとりもほほえましい。そんなほほえましい中にも「命を持つ者」の業が書かれていて、軽く読もうと思えばどこまでも軽く読める物語に「ちょっと待った」をかけている。でもやっぱり気楽に読むほうが楽しいかな。江戸情緒にもあふれていて、タイムスリップした気分に浸れる。江戸時代にはまだまだ深い闇があったがために普通に存在していた妖たち。闇が失われてしまった現代で妖たちはどこに身を潜めているのだろう…。

 

 

ぬしさまへ ★★★★
廻船問屋兼薬種問屋の一人息子で若だんなの一太郎は相変わらず寝たり起きたりの日々を過ごしている。そんなある日幼馴染で和菓子屋の息子栄吉が作った饅頭で老人が死んだと知り、ちょっとズレた妖たちとともに真相を究明する…(「栄吉の菓子」)。6作の短編集。
相変わらずの一太郎と妖たち。まだ2作目なのにもうどこか懐かしいような思いがして、心が丸くなるような気がする。やっぱり人間と妖たちはかつて共存していた、ということなのかな。記憶の奥底というか、DNAに刷り込まれているというか…。
それにしても身体が思うように動かない一太郎ではあるけれど、今回は前作以上に推理が冴えている。動き回れない分、想像力や人を思う気持ちが人一倍強いのだろう。「若だんな」としての自覚も十分あるようだし、大物の片鱗を垣間見せてくれる。そして世間ズレた妖たちにもやはり「生きる者」としての感情があるのだな…ということがわかって、少し安心したりして。妖怪が出てくるけど、やはり「江戸人情モノ」なのでしょう。