東野 圭吾

 

探偵ガリレオ
理工学部物理学科助教授の湯川学が友人の警視庁捜査一課刑事・草薙俊平から持ち込まれた事件を科学的見地から解決していく短編ミステリー。
実はぴょんは理数系は苦手…と言うより「嫌い」(笑)。そんなあたしが果たしてこの作品をちゃんと読み進めていくことが出来るのだろうか…?と、一抹の不安を抱えながら読み始めると、あら不思議。難なくさくさく読了しました。それは作者自身、電気工学科卒のエンジニアという経歴を持っていることもあって、科学的に事件の真相を解明していくプロセスにムリがないからだと思います。
ぴょんが印象に残ったのは『爆ぜる』。ネタばれは避けたいので詳しくは書けないけれど、この事件のトリックは実際に起こったある事故をヒントに書かれてあって、職業柄?この事故を新聞やニュースをよく見てたからです。皆さんも「そういえば、こんな事故あったな…」と思い出すことでしょう。
それにしても…。こんなに人気作家さんなのに、実はあたしはこの作品が初読みでした…(苦笑)。

 

 

私が彼を殺した
この本は「作者VS読者」です。
「犯人はあなたです」の一文で終わってしまい、犯人が誰なのか読者の推理力がためされる結末…。
結婚式会場で殺された作家には殺されても仕方のない理由があり、容疑者にそれぞれの「動機」を語らせています。「状況」が二転三転し、一体、誰が犯人なのか?…さっぱりわからないうちに読了してしまって、「えーっ?!わからないよ〜」。でも、大丈夫!巻末に「推理の手引き」なる解説が袋とじでついてるので、それを読んでポイントとなる部分や引っかかるところを読み直すとなんとなく「アノ人」かなぁ…と、見えてきます。でも、これは作者の「思うつぼ」でホントはちがうかも…と、疑心暗鬼になってしまいます。
さぁ、あなたも読んで誰が犯人か推理してみてくださいね。

 

 

予知夢
湯川助教授と草薙刑事の「ガリレオシリーズ」2冊目。
今回も短編ミステリーなのだけれど、1冊目よりも「不思議度」がUPされている。しかし、その不思議な事象にひとつひとつ科学的根拠で実証していく湯川は健在。今回は「予知夢」というタイトルが示すように霊的現象…つまり人の心が作り出す現象が主なトリックになっている。それを湯川はあっさりと否定してしまう。言われてみればナルホドな…と、感心させられるのだけれど、今回は前回と違って「それでも人の心理は科学では測れないものがあるはず」と、密かに湯川に対して反抗意識を持ってしまったりして。理屈はわかるが、感情がついてこない…という感じかな。これは作者の意図なんでしょうね。

 

 

白夜行
1973年大阪。廃墟ビルで質屋の経営者が殺された。必死の捜査にも関わらず結局事件は迷宮入り。被害者の息子・桐原亮と「容疑者」の娘・西本雪穂は不穏な空気を身に纏わせつつ年月を重ね、そして19年後…。
ストーリーはとても面白かった。スリルあり、顔を背けたくなるような描写あり。長編だが、最後まで飽きることなく読み進めることができる。1973年以降の社会的・政治的事件や背景を巧みに織り込んで展開していく組み立ては読みながら、「そんなことあったなぁ…」と、思い出し懐かしむことが出来た。
ただ亮と雪穂、二人の心情がほとんど語られていない。これは作者の意図なのだろうが、ここに読み手の力量が試されている。逆に元刑事・笹垣や雪穂の学生時代からの知り合いである篠塚一成に「肩入れ」するように仕向けた描き方をしている。…そこにはまってしまったということは「読み手」としてまだまだ未熟だということか(苦笑)。
原点である質屋殺しの真相は衝撃といえば衝撃だが、ミステリー好きな人には「さもありなん」な話…というのは、ミステリーの読みすぎか?。
亮は「白夜の中を歩いているようだ」と言い、雪穂は「太陽の下を歩いたことがない」と言う。茨の道よりも険しい道を歩いてきた二人が言うこの言葉が胸にずっしりと残るのである。

 

 

探偵倶楽部
<探偵倶楽部>とは、「VIP専門」の調査機関。美貌の男女二人が難事件を調査し、解決する…。5つの事件の真相を淡々と暴いていく短編集、なのだが。なんなの?、コレ(笑)。まずこの男女二人の探偵の素性が謎。名前も年齢も。そしてそして事件の謎をどう解いたのかすらその過程というか、謎解きの苦労がまったく書かれていない。どこからともなく、調べてきて「調査結果のレポートです」で終わってしまう。タイトルの「探偵」という言葉から「謎解き小説」を期待していたあたしは「えーっ、騙された!」と、歯軋りしてしまった。
結局は「VIP専門の調査機関」に依頼するVIPの家庭事情を第三者である読者が「家政婦は見た」の市原悦子のように、ドアの隙間や物陰に隠れて垣間見るスリルを少し楽しませてもらうような感じかな。タイトルには裏切られたけど、ちょっぴり家政婦気分を味わえたので、ヨシをしましょう(笑)。

 

 

宿命 ★★★★
子供の頃からライバル関係だった和倉勇作と瓜生晃彦。苦労を重ねた勇作は刑事となり、ある事件の捜査を始める。そこへ容疑者としてかつてのライバル晃彦が浮上。しかも勇作の初恋の相手、美佐子は現在、晃彦の妻となっていた…。
読書が趣味ということを意識しだしてから20年以上になる。20年も本を読んでると似たような設定やストーリーの本に出会うことも珍しくない。それ自体をとやかく言うつもりはない。むしろ作家さんも大変だな…と、思う。似たストーリーをどれだけ自分の個性を出して、足したり引いたり、時にはかけたり割ったりしながら、既出の作品を上回らなくてはならないし、どれだけ読者に面白いと思わせるか…ということはまったくオリジナルの作品を生み出すことよりも難しいことじゃないかと思う。それはともかく。これだけ本を読んでると、ある程度、先が読めることも多々出てくる。ミステリーの場合は顕著だ。しかし、いつも読んでるときにふと思いついたものの、そのまま気にも留めず、読んでるうちに思いついたことすら忘れてしまって、読み終わったあとに「そういえば、そういう風に思ってたのに!」と悔しくなる。この「宿命」もそうだった。途中で「もしや…」と思ったことが最終的なオチだったのだけれど、すっかりストーリーにはまり、そんなことはどうでもよくなった。
「運命」が自分の手で切り開けるものであるなら、「宿命」は好む、好まざるにかかわらず受け入れなければならない。その現実を粛々と受け入れる勇作と晃彦が印象的だった。事件の謎解きはもちろん、勇作と晃彦の関係、美佐子の過去など幾重にも謎が重なり、久々に「本格ミステリーを読んだぞ!」という気になる、読み応えのある作品だった。

 

 

名探偵の掟 ★★★
頭脳明晰、行動力抜群の自称名探偵・天下一大五郎と警視庁警部・大河原番三はとある作家の「天下一シリーズ」の主役と脇役だ。今日もあちらこちらでお決まりの事件が起き、お決まりのパターンで解決していくのだが、実は二人ともこのお決まりのパターンにうんざり。密室トリックだの、バラバラ殺人だの…いい加減にしてくれ!。出ている自分達の身にもなってくれ!…というミステリーが十二編収められている短編集。
うふふ。笑いました。これは常識破りというか、こんなことを書かれた日にゃ、他の作家さんはこのパターンで小説が書けなくなってしまうんじゃなかろうか。というより、東野さんご自身も自分のことを追い詰めてるような気がする。確かに密室殺人や完璧なアリバイなんていっても、絶対どこかに綻びがあるはずだし、そうじゃないとミステリー小説なんぞ成立しない。ただし、その安易な手に頼らざるをえない作家さんがいるのも確かだし、それにまんまと騙される読者がいるのも確かだ。…わたしもその中の一人だ…。この作品は作家さん(東野さん自身も含めて)に警鐘を鳴らすと同時に読む側にも「成長しなさいよ」という、東野さんの皮肉と本音が込められているのだろう。
…登場人物の名前からしてすごい皮肉よね(苦笑)。

 

 

容疑者Xの献身 ★★★★★
天才的な数学者でありながら高校の数学教師として勤務する石神の隣に住む母娘が犯した殺人。母娘を守るため石神は何をし、彼女たちをどう守るのか…。不器用すぎる男の愛の形に彼の友人であり、物理学者でもある湯川が真相に迫る。
ガリレオシリーズではあるけれど、既出のシリーズを読まなくても十分楽しめる作品。…むしろガリレオシリーズを避けてきた人のほうが、イメージにとらわれず読める作品だと思う。
ストーリーとしてはすでに冒頭で母娘が真犯人であることが明らかになっているので、石神がどのように彼女たちの犯罪を隠蔽したのかというトリックと湯川との「友情」と「対決」が読ませどころ。ただし「対決」といっても激しい言動の応酬ではなく、友人であり、学者でもある彼ららしい静かな頭脳戦&心理戦といったところか。
正直言って、石神にも母娘にもまったくといっていいほど共感は出来なかった。だいたい石神なんて「善良(?)」とはいえ、ほとんどストーカー」だし。トリックも途中で「あれ?!」と、思ったことがあったので、なんとなく、そういうことなんだろうな…と気づいていた。なのであとは湯川がどう石神に迫るのかが焦点だったのだけれど、本当に静か過ぎる展開で「なんでこれが各雑誌ランキング1位なんだろう…」と、消化不良になりかけていたラストのラストにやられました。あの最後の石神の慟哭と日ごろクールで感情に流されることの無い(感情がないわけではない)湯川の「触るな。せめて泣かせてやれ」というセリフを読んだときに「ぶわーーーっ!」と一気にガスが抜けました。このラスト数行のために作者はこの作品を書き、読者はここまでのページを読んでいたのだな…と、気づいたら鳥肌が立った。
ドラマ化されている「白夜行」に通じるものが無きにしも非ず…という感じなので、「白夜行」がお好きな人はぜひ、手にとってみてくださいませ。
(ラムさまからお借りしました・ありがとう♪)