井上尚登

T.R.Y.　　

1911年…明治44年、中国清王朝末期の上海。服役中の日本人詐欺師、伊沢修は刑務所内で、暗殺者に命を狙われる。中国人服役囚の関に助けらたが見返りに中国の革命のため、武器調達の協力を持ちかけられる。日本陸軍参謀次長を騙し、武器を奪い取るため、執拗な暗殺者に追われながらも、仲間の陳やパクと共に計画を進める…。
クライマックスは二転三転…いやそれ以上に形勢が入れ替わる。これも「詐欺師・伊沢」の腕の見せ所なのだろうけど、注意深く読まないと話が見えなくなってしまうので要注意。ただ、ここは読んでて面白かった。
それまでの計画準備の段階はいわゆる詐欺のための「仕込み」なので少々、地味なのだがここでバーンッ！と、はじける感じ。地味とはいっても暗殺者に追われ逃げるシーンはなかなかの緊迫感。
しかし、アジアやヨーロッパの近代史がよくわからないまま、読んだのでイマイチ理解がついていかない。もし、これからこの作品を読む…という方は先にちらっと近代史…孫文や蒋介石、朝鮮併合…そのあたりのことを勉強してから読んだ方が、面白いと思う。
でも何故、伊沢が詐欺師になったのか…、仲間たちのバックグラウンドも少々、書き込み不足のような気がする。この作品はそんな人間関係や時代背景を楽しむより騙し、騙されるスリルを味わう…純粋にエンタテイメント性を求めるものなのでしょう。
あと、映画化の影響もあって読んでて織田裕二の顔がちらついたのが残念…。確かに似合いそうな役ではあるけど。