石持 浅海

 

月の扉 ★★★
国際会議を控え、厳重な警戒下にあった那覇空港で、ハイジャック事件が発生。犯人グループが子供を人質に取り要求したのは那覇警察署に留置されている彼らの「師匠」を、空港滑走路まで「連れてくること」だった。そんな中、機内のトイレで乗客の死体が発見される。ハイジャック犯たちは乗客の1人「座間味」を探偵役に指名するが…。
初・石持さんです。ハイジャック中の機内の中で起きた殺人事件!…ミステリー好きとしては「血が騒ぐ」ようなストーリーのはずなのに、なぜだかすっきりしない。ハイジャック犯たちが「師匠」と慕う人物のカリスマ性がイマイチ伝わってこない。「会えばわかる」ということなのかもしれないけれど、それを小説でやるのはちょいと卑怯じゃないか〜っ!…と、思った時点で残念ながらこの作品に対する興味が半減してしまった。あとはひたすら探偵役を押し付けられてしまった彼の探偵ぶりと人柄に縋って最後まで読みきることが出来た。で、結果的に納得は出来ないけれど、おもしろくないこともなかった…というフクザツな感想になってしまう。決して幻想的なものを嫌悪しているわけじゃない。むしろ好きといっていいくらいなんだけど、わたしには中途半端に感じてしまった。「あっちの世界」に行ってみたい!…と、思わせてくれたらよかったのに。

 

 

アイルランドの薔薇 ★★★
アイルランド統一を目指す武装勢力NCFの副議長が、スライゴーの宿屋で何者かに殺された。状況から宿泊客と宿屋の従業員の中に犯人がいると思われるが、その中に正体不明の「殺し屋」もいるらしく…。政治的背景もあり警察が呼べない中、偶然宿泊した日本人科学者が謎を解く。
いわゆる閉鎖的状況の中での殺人&犯人探し。アイルランドが抱える問題をストーリーの中で読者にもざっとわかるように紹介されていて、なかなか興味深く、犯人探し&殺し屋探しもそれなりに面白かったのだけれど、探偵役がちょっと「出来すぎ」のような気がする。「月の扉」の「座間味くん」もそうだけど、成り行きで探偵役になっただけなのに、洞察力、行動力に優れていて、それでいて冷静で人間的魅力もあり、誰からも憎まれない…というのはちょっと現実離れしているように感じた。ミステリーの探偵役に大なり小なり、自分を重ねて読むタイプのわたしには相通じるものがなく、一歩引いて読んでしまった。