角田 光代

 

対岸の彼女 ★★★★
人付き合いのニガテな主婦・小夜子と3歳の娘・あかりは面倒な人間関係を避けるため「公園ジプシー」を続ける。自分に似てしまった娘と自分自身に歯がゆさを感じた小夜子は再就職を決心、あかりは保育園へ。就職した小さな会社の社長は葵と同い年の明るく社交的な葵。二人はお互いを認め、友情を深めていくが、小夜子は快活な葵の胸に暗い深淵があることを知らなかった…。
一見、対照的な二人が実は同じように女性特有の残酷なゲームに傷つき、疲れていた。けれどそこから這い上がる強さも女性は持っている。そしてその強さをリレーのバトンのように誰かにつなげていくことが出来る。ナナコから葵へ、葵から小夜子へ…。そのとき女の友情は誰にも侵すことが出来ないほど強固になる。わたし自身、過去に負った傷が再び疼くような感覚になりながらも、静かに静かに勇気を与えてもらったような気がする。渡れそうにない川を前にしてももう焦らない。見えなかった橋に気づいたときが渡り時なのだから。

 

 

だれかのいとしいひと ★★★
「転校生じゃない君に転校生の気持ちなんてわからない」とわかったようなわからないような理由でふられた女子高生や元カレの部屋へ忍び込む女性フリーライター…。心が、胸が耐えられないほどではないけれど、チクっと痛む「失恋話」8編。
短編なのでそれぞれの主人公に感情が入ってくるところで終わってしまって、なんとも中途半端な感じなのだけれど、イヤな気はしない。涙なみだの「失恋物語」ではない。どこにでもある日常の中に「失恋」もある…という感じ。それだけに自分の経験値(?)と照らし合わせて「あぁ、わかるわ」なんて思える。気に入ったのは留守中の元カレの部屋へ忍び込みあれこれと思いをめぐらす「ジミ、ひまわり、夏のギャング」。虚勢ではない毅然として歩いていく主人公がいい。どうせ失恋するならこれくらいの気概を持って失恋を認めたい…な…。だってきっとだれもが「だれかのいとしいひと」なんだから。
(bonさまにお借りしました。ありがとう♪)