小池 真理子

 

蜜月
美貌の天才洋画家、辻堂環が死んだ。
彼はその生涯、何人もの女を愛し、彼に愛された女もまた彼を愛した。恭子、弥生、沓子、志保子、千里、美和子の6人の女性は環の訃報を聞き、環と「蜜月」だった時代と彼への恋心を胸によみがえらせる…。
6編の連作短編集。
わたしには珍しく、これは恋愛小説です。んまぁ、とにかく環の奔放なこと!。しかし、ただのプレイボーイとは言い切れないのは彼の裡にある「何か」にわたし自身が、惹かれたからかもしれない。この6人の女性も彼への怨みつらみや憎しみなど持ってはいない。恋することの悦びを教えてくれた環が死んだ…という、事実に直面し、今の淡々とした生活の底に沈めていた過去をようやく昇華させる時期が来たことに、安堵しているのではないかと思う。けど、穿った読み方をすれば、環は死してなお女性たちをとりこにし、これはやはり究極のプレイボーイではないか!、と、憤慨もする(笑)。
6編、どれも秀作なのだが「交尾」
(なんちゅう、ストレートなタイトルだ・苦笑)、と「ただ一つの忘我」が特に印象深かった。