今野 敏

 

ST 警視庁科学特捜班 ★★★★
殺人事件などの犯罪に科学的見地から捜査をサポートする「科捜研」の中でも特殊な能力を持つ5人のメンバーで構成される、通称ST…科学特捜班は猟奇殺人事件で初めて本格的に捜査に参加することになった。淫楽殺人と思われる今回の事件だが、プロファイル担当のSTメンバー・青山は釈然としないものを感じ…。
事件そのものよりもまずはSTメンバーのキャラにまず、引き込まれる。名前からして「赤木」「黒崎」「青山」「結城翠」「山吹」とくれば、大昔の戦隊モノを思い出して懐かしさがこみ上げてくる。そしてメンバーそれぞれが「個性」の塊というか、なんというか。秩序恐怖症のプロファイラーがいるかと思えば、ものすごく嗅覚にすぐれた武術の達人がいて、女性恐怖症の法医学者に、耳のいい閉所恐怖症の女、曹洞宗の僧侶としての顔を持つ薬物担当者…。そしてその5人を束ねようと苦心惨憺の警部・百合根に、成り行き上、連絡係となった菊川…。この5人+2の個性と役割がキッチリ書き分けられているので、混乱もなくスムーズに話しに入っていける。
今作は「人物紹介」的な意味もあって、それぞれの「特殊能力」を広く浅く見せてくれたが、次作以降メンバー達がどんなプロフェッショナルな仕事振りを見せてくれるのだろう?。楽しみなシリーズだ。
(「K's room」のkeiさまからお借りしました。ありがとう♪)

 

 

ST 警視庁科学特捜班 毒物殺人 ★★★★
代々木公園と世田谷公園で相次いで男の変死体が見つかった。STメンバー達は事件性を嗅ぎ取り、捜査陣とは別に調査を開始。一方、人気女子アナの八神秋子はストーカー被害や仕事のストレスで自分を見失いかけていた。そんなある日、恋人の岩谷からある自己啓発セミナーを紹介され…。
STシリーズ第二弾。今回は薬物担当兼僧侶の山吹さんが渋いところを見せてくれた。薬物担当としての仕事ぶりはもちろん、僧侶としての一言一句が身にしみる。特にひしひしと感じ取ったのは「STが潰されるかも…」というプレッシャーの中で一人あたふたしていた百合根警部だろうけど…。一方、菊川さんは前作のSTを信用しない立場から一転、ぶっきらぼうながらも協力的な態度になってきた。プロファイラー青山くんの言うところの「愛情表現」なのかしら?。
このシリーズ、わたしはミステリーを楽しむよりも登場人物の個性やメンバー同士の絡みを楽しむことに重点を置いて読んでしまってますが、これって間違えた読み方してるんでしょうねぇ…。
(「K's room」のkeiさまからお借りしました。ありがとう♪)

 

 

黒いモスクワ ST警視庁科学特捜班  ★★★
研修のため、STの百合根キャップと赤城リーダーはロシアへ。帝政ロシアの怪僧ラスプーチン縁の教会で起きたマフィア怪死事件の捜査を手伝うことに。一方、黒崎さんは武術の指南役として、山吹さんは宗派の集まりに呼ばれ、それぞれもまたロシアへ。しかし、マフィアが怪死した教会で山吹さんたちが機内で一緒になった日本人フリーライターも変死し…。
ST、とうとう海外出張です(笑)。ラスプーチンだの、ポルターガイストだの…さすがに胡散臭いなと、思ってたらそこはST。後から合流した青山くんや翠さんたちとちゃーんと科学的根拠で事件を解決。あ。菊川さんも刑事らしい活躍を見せてくれました。でも、これってきっと海外出張という名の慰安旅行なのではないかしらん?。もっとも、百合根さんや菊川さんはいい迷惑だろうけど(笑)。
(「K's room」のkeiさまからお借りしました。ありがとう♪)

 

 

ST 青の調査ファイル ★★★
心霊特集を撮影していたマンションの一室で撮影プロダクションのプロデューサーが変死。STに対抗意識を燃やす検死官は「事故死」と判断するが、プロファイラー青山くんはじめ、STメンバーは遺体の状況から納得しかねて…。
日頃は「もう帰ってもいい?」とやる気があるのか、ないのかさっぱりの青山くんが大活躍。彼の興味の対象は霊能者・安達。普段見ることが出来ない青山くんの「やる気満々」の姿を見ることが出来る貴重な作品かも(笑)。
心霊現象の大部分は、人の心に巣食う闇の部分が霊の仕業のように見せかけて現れる…ということを心理学者として、そして法医学者の赤城さんは医学的検知から、翠さんは物理的検知からそれぞれ証明してくれて、すっきり。でもやはり科学的に証明できない「心霊現象」もある…らしい。
(「K's room」のkeiさまからお借りしました。ありがとう♪)

 

 

ST 赤の調査ファイル ★★★★
インフルエンザの症状で大学病院で受診した男が処方された薬を飲んで容態が急変、死亡した。医療ミスが疑われ、遺族は訴訟を起こす。ST法医学担当の赤城リーダーが過去の苦い思いを胸に秘め、大学病院の閉鎖的な体質と自分自身に立ち向かう…。
殺人のトリックを見破ったり、犯人を追い詰めたり…という今までの作品とはちょっと違う本作。自分自身の過去と向き合うこと、そこからまた前を向いて歩きだすことの辛さとその辛さを糧にして、さらに前へ進むことを一匹狼・赤城リーダーが背中で示してくれる。そして同じ理想を持つ、STメンバーと百合根キャップ、菊川さん。
医学界の矛盾や体質に、読みながらうんざりしていたのだけれど、STメンバーたちの何気ない心遣いやラストシーンに晴々とした気持ちにさせてもらった。今までのSTシリーズの中でいちばん好きな作品となった。
(「K's room」のkeiさまからお借りしました。ありがとう♪)

 

 

ST 黄の調査ファイル ★★★★
ある宗教団体が所有するマンションの一室で信者の若者4人が集団自殺をした。STメンバーたちは現場に違和感をおぼえ、調査を開始。調べるうちに教団幹部の確執が明らかになり…。僧侶、山吹さんの本領発揮編。
ちょっとした行き違いや思い違いがいくつか重なったうえでの悲劇に重い荷物を背負わされたような気分になるのだけれど、山吹さんの厳しく優しい言葉や視線、姿勢が「それでも生きなければならない」という気持ちにさせてくれる。
山吹さんの寺での体験修行中に御仏の智慧について聞かれた百合根キャップがしどろもどろになりながらも答えるシーンが印象的。難しい禅問答なんかはわからないけれど、本来「禅」とはこういうものなのかもしれないな…と、漠然と思った。
(「K's room」のkeiさまからお借りしました。ありがとう♪)

 

 

ST 緑の調査ファイル ★★★★
天才バイオリニスト・柚木優子の名器・ストラディバリウスがリハーサル会場への移動中、別のバイオリンとすり替えられ、盗まれてしまった。そんな騒ぎの中、コンサートマスターが密室のホテルの部屋で殺される。バイオリンのすり替えと殺人、この二つの謎に驚異の聴力の持ち主、STの紅一点・翠さんが挑む。
「黄」のときもちょっとした気持ちの行き違いが悲しい事件を招いてしまったのだが、今回も良かれと思ってしたことが裏目に出てしまう切ない話。その切ない事件にいつもはクールな翠さんが真っ向勝負で立ち向かうところに新たな魅力をみつけ、切ない中にもあたたかさを感じることが出来る。それになにより、終盤のコンサートシーンに胸が熱くなってくる。クラシック音楽とはほとんど縁のないわたしだけれど、いくつもの楽器が織りなす音、それを更にまとめあげ「芸術」に昇華させる指揮者のオーラ、ため息をつく間も与えないソリストの気持ちのこもった演奏…音など聞こえるはずないのに、わたしの耳にはそれらの音と鳴り止まない拍手が確かに聴こえて来たのであった。
(「K's room」のkeiさまからお借りしました。ありがとう♪)

 

 

半夏生(東京湾臨海署安積班) ★★★★
人工の街、東京お台場で外国人の男が倒れ、白バイ隊員が発見。東京湾臨海署刑事課強行班係・安積班の黒木と須田が現場へ向かった。しかし男は原因不明のまま病院で死亡する。しかもアラブ系外国人だったためにバイオテロが疑われ、現場で男に接触した須田と黒木、白バイ隊員が病院へ隔離され、やがて黒木と白バイ隊員が発症する。安積は「バイオテロ」に釈然としない思いを持ちつつ、公安や内閣調査室とともに捜査に加わる。
すわっ、バイオテロか?!…と、緊張が走り手に汗を握りつつ読み進めていったのだが、事件の緊張感とは裏腹な政治家や官僚の危機管理の甘さと融通の利かない捜査体制にイライラさせられる。そこへ行くと現場の刑事達は今、自分達が何をすべきか自身で考え、実行していく。まさに捜査のプロ。安積たちの地道な仕事ぶりが「彼らに任せておけば安心だ」と思わせてくれる。
「ST」以外の今野作品を読むのははじめてだったのだけれど、「ST」とはまた違う魅力がある登場人物たち。安積班のメンバーはもちろん、臨海署の他の刑事達もとても地味で普通の人たちだ。そんな普通の刑事たちが耳や足、刑事としての勘をフル稼働させ、捜査する姿にしみじみとした感動をおぼえた。(「K's room」のkeiさまからお借りしました。ありがとう♪)

 

 

とせい ★★★★
巷の暴力団とは一線を画す、任侠一家・阿岐本組の代貸、日村はオヤジ(組長)が道楽で手に入れた潰れかけの出版社・梅之木出版の役員に就いた。オヤジの思いつきに呆れつつも、出版社の建て直しに奔走する日村。一方、日村が間に入り、一旦話がついたはずの闇金とそこから借金した精密機械工場との間でまた雲行きが怪しくなり…。
昔気質の任侠一家といえばコミック(ドラマ)「ごくせん」の大江戸一家を思い浮かべるのだが、阿岐本組も義理と人情を大切にし、素人衆には決して手を出さず、また行き場を失った若い衆に居場所と相応しい仕事を与える由緒正しき(?)ヤクザだ。そんな阿岐本組だから地元の素人衆や梅之木出版の社員たちからも一目を置かれる。しかし日村の心身はなかなか休まることがないらしい(笑)。愛すべき阿岐本組の今後が楽しみだ…と、勝手にシリーズ化されることを決め付けている(笑)。
(「K's room」のkeiさまからお借りしました。ありがとう♪)