久坂部 羊

 

破裂 ★★★
医師は一人前になるまでに、必然的に何人かの患者を殺す。これを「痛恨の症例」という…。麻酔医・江崎は医療ジャーナリストの松野に衝撃的な告白をする。同じ頃、江崎の勤務する大学病院で手術時の医療ミスの疑いで亡くなった患者の遺族、枝利子が執刀医の心臓外科助教授・香村を相手に裁判を起こすため、江崎に協力を依頼する。一方、厚生労働省では「厚労省のマキャベリ」と異名をとる佐久間が将来の「超高齢化社会」を懸念して驚くべきプロジェクトを発足し、香村に近づく…。
正直言って、散漫な感じが否めない。あれここれも書こうとして欲張った感じがする。ミステリーとしては香村の「医療ミス」に的を絞った方がよかったような気がする。しかしながら、考えさせられることは多々あった。「痛恨の症例」はもちろんのこと、佐久間が発足させたプロジェクトの内容…「超高齢化社会」の現実や「PPP」という考え方。佐久間のとろうとした「手段」は決して許されるものではないけれど、いつかは自分も老いる…と、思うと声高に反対できない気がする。
「現代版『白い巨塔』」という宣伝文句に惹かれて読んだものの、「白巨」ほどの重厚さは残念ながらなかった。しかし医学界の描写はさすがに現役医師作家。リアリティがあった。