宮尾 登美子

 

天璋院篤姫
薩摩藩島津家の分家の娘「篤姫」は聡明・利発なところを本家島津藩主の斉彬に見込まれ養女となり、斉彬からの特命を胸に秘め、江戸幕府13代将軍家定の御台所として、江戸城大奥へ送り込まれる。幕末の動乱のさなか、夫・家定との実のない結婚生活を送る一方、大奥女中3000人の筆頭として新しい時代の幕開けを自身の目で見、運命を切り開いていった女性の生涯…。
この本を読むまで…いや昨夏のドラマ「大奥」を見るまでは天璋院といえば「悲劇の皇女14代将軍御台所・和宮」の姑として、和宮をいじめまくった意地悪な女性だと思っていたのだが、ドラマと本書により、そのイメージは見事に覆された。どちらも脚色はしてあるのだろうが、世間で言われるような「意地悪な姑」という書き方はしていない。武家に嫁いできながら、皇女である自分を捨てきれない和宮に対し、歯がゆさを感じてはいるのだが、それは和宮が人間として成長しきっていないことに対する歯がゆさであって、つまらない?嫁姑戦争ではない。ただ、和宮は皇女ではあるけれど、この時代の普通の女性であったのに対し、天璋院は聡明過ぎたために和宮が幼く見えただけなんだろう。
その聡明さで斉彬の特命を背負い、また裏舞台から家定・家茂の両将軍を支え、幕府・大奥を守り、大政奉還、江戸城明け渡しの後は徳川宗家の存続・繁栄に一生を捧げたあっぱれな人生だったのだ。ちなみに15代将軍慶喜は
天璋院に徹底的に嫌われてます。お互いに聡明であったがために相容れないものがあったらしいのだが、そのために天璋院は義父である斉彬の特命にそむくことになってしまう。
男性の視点から描かれた幕末小説とは違った、女性の、しかもきわめて政治の中枢に近いところにいた人を中心に、大奥の様子などとても興味深く、面白い作品だった。