中嶋 博行

 

検察捜査 ★★★ 
第40回江戸川乱歩賞受賞作。
横浜の住宅街で大物弁護士・西垣が惨殺された。事件の担当検事、岩崎紀美子は事務官の伊藤と共に捜査に当たる。当初はその殺害手口から恨みによるものと思われていたが、やがて日弁連、検察庁など法曹界を舞台にした権力や縄張り争いの様相を見せ…。
現役弁護士による法曹界の舞台裏を舞台にした(苦笑)、ミステリー。法曹界…特に検察官の仕事は弁護士や裁判官のそれと違い、どこか地味で、弁護士を主人公にしたドラマなどでは時に「悪役」になることもある存在なのだが、この小説は検察官、しかも女性で若くて美人…が主人公。警察が見つけてきた犯人をここぞとばかりバンバン追及して…と、思ったら大間違い。警察に任せきりにせず、自分の足で地道に捜査し、じわじわと真実に近づいていくところが、法曹界に身を置く作者ならではのリアリティを感じさせる。
ストーリー的にはちょっと飛躍しすぎかな…と、思う部分も無きにしも非ずなのだが、法曹界の矛盾点、問題点など、読者の知らなかった部分をなるべくわかりやすいように…という努力がうかがえる。
ドラマではとかく「悪者」にされがちな検察だが、実はこの検察こそ「罪を憎んで人を憎まず」の精神で仕事にあたらなければならない責任の重い仕事なのだ。現在、日本の裁判で無罪率…つまり冤罪が非常に少ないのはこの検察の地道な努力によって、築かれたものであることを肝に銘じておきたい。
ちなみに岩崎検事は「乱歩賞作家・白の謎」の「検察捜査・特別篇」にも登場。…実は「特別篇」を先に読んだわたしは本作が本編だと思って手にしたのだけれど、まったく別の話でした。