梨木 果歩

 

西の魔女が死んだ
日本児童文学者協会新人賞ほか受賞作。
中学に入ったばかりなのに、学校へ足が向かなくなってしまった、まい。
そんなまいをママはしばらく「西の魔女」のもとで「魔女修行」させることにした。「西の魔女」とは大好きなおばあちゃんのこと。そんな魔女からまいはどんな手ほどきを受けるのか…初夏の森の瑞々しい日々を切り取った作品。
読みながら、まいと一緒に自分自身がどんどん癒され、子供だった日々を思い出していった。摘みたての野いちごでジャムを作ったり、たらいでジャブジャブ洗濯したり、まいのママが着ていたナイトウェアをあっという間にまいのエプロンにリフォームしてしまうおばあちゃんの手。…実はわたし自身が経験した夏の日とそっくり同じなのだ。わたしは保育園時代から小学校4年生くらいまで毎年、夏を祖母と二人で田舎の家で過ごしていた。祖母はジャムは作らなかったけれど、さつまいもの蔓で煮物を作ったり、西瓜の皮の白いところを浅漬けにしたり、手動の洗濯機しかなかったので、洗濯はほとんどたらいでしていた。そして時間があるときには孫のために布団を縫ってくれてた。そんな日々の中で、わたしは祖母から「もったいない」の意味や「人に感謝する」ことを教えてもらった。一方、まいはおばあちゃんから自然に逆らわない生活をすることで身体を自然のリズムに戻すこと、そして「何でも自分で決める」ことを魔女修行を通して教わっていく。どちらも人が生きていくうえでの基本的なことだ。この本を読んでわたしの祖母も「魔女」だったんだな…と、思ったら最後は泣けて泣けて…。そんな魔女の血を引く、まいとわたしもいつか「おばあちゃん」になったとき、孫にとっての「魔女」でいられるよう、そして「おばあちゃん大好き!」「アイ・ノウ」と言い合う関係でいられるよう、これからも修行あるのみ!。
そうそう、まいのママ。まいは気づいてないかもしれないけれど、ママもおばあちゃんとは違うタイプだけれど、立派な魔女になってたんですね。
…いつか娘にも読ませたい1冊となりました。

 

 

家守綺譚  ★★★★
文筆業で細々と糧を得ている綿貫征四郎は亡き友人の実家に「家守」として暮らすことになった。庭には池があり、移ろう季節ごとに草木や花、さまざまな生き物が顔を出す。亡き友人までもがひょっこり現れ…。
かつての日本はこういう情景がそこかしこにあったのだろうな…と、うらやましさと懐かしさを感じる。どこかの誰かが「美しい国、日本」などと連呼している今日この頃ではあるけれど、本当の意味での「美しい国」の姿はこの物語の中にある。淡々と日常をつづっただけの短い「記録」なのに、心を揺すぶられ、洗われる。100年の間にわたしたちが得たものは「豊かな生活」のためには必要なものだ。しかし100年の間に失ったものは「豊かな暮らし」を遠ざける結果になってしまった。けれど、手を伸ばせばまだ届くんじゃないか…まだ間に合うんじゃないか…そんな「希望」を感じさせてくれる作品。急ぎ足で現代を生きる人たちに少し立ち止まって読んで欲しい。特に「葡萄」の章は心の片隅にとどめておいて欲しい。