貫井 徳郎

 

慟 哭
作者の処女作。
読了後、しばし呆然。「すごいモノを読んでしまった.」「なんてツライ話を読んでしまったんだ!」というのが率直な感想。
連続幼女誘拐事件の捜査を統括する、警視庁捜査一課課長、佐伯警視。有能なキャリアでありながら、その生い立ちや姻戚関係の複雑さとともに、捜査の行き詰まりから警察内部での不協和音を引き起こす。
一方、胸に開いた穴をなんとか埋めようと、街をさまよい、やがてとある新興宗教にのめりこんでいく松本。この二人が交錯するとき、驚愕の真実が明らかになる…。
物語はこの二人と捜査員丘本の3人を軸に進んでいく。「慟哭」というタイトルが示すように、衝撃的な結末に辛さと悲しさ、むなしさがこみあげてきて、泣かずにはいられなかった。
この作品が面白いのはストーリーもさることながら、警察と新興宗教一見、何も接点がない閉ざされた世界なのに、その内情は「階級」と「階梯」という、「ランク付けの世界」だという共通点を衝いているところだ。最後まで読むと、その共通点に佐伯は自分が有能である証明をするために自ら「貧乏くじ」の捜査一課長を希望し、松本は頓着することなく、順調に階梯を登っていく。このことは最後まで読んでやっと「皮肉な話だ」ということに気づかされる。
ストーリーとともに、読み応え充分の1冊でした。脱帽。