荻原 規子

 

空色勾玉 ★★★★
神と人がまだ近しい間柄だった古代。輝(かぐ)族と闇(くら)族が戦う地に一人残され養い親に拾われた娘、狭也(さや)は幸せに暮らしていた。しかし、彼女は「鬼」に追われる夢に密かに悩まされていた。やがてその夢が現実となり、輝の宮に救いを求める。彼女がそこで出会ったのは輝の大御神の末子の稚羽矢(ちはや)。しかし、彼は囚われの身だった…。
古事記などの神話をベースにした古代ファンタジー。元々、古事記に興味があったので、イザナギ、イザナミ、アマテラス、ツクヨミ、スサノオ…このあたりの話であろうということは読んでいるうちにわかるし、こういう解釈もあるんだな…と、神話に更に親近感が湧く。
正直、狭也にはあまり同調できなかったけれど、稚羽矢はいい。悲壮感を漂わせつつも天然キャラで、「悲劇の御子」という立場に甘んじていないところがいい。
ストーリーは途中「これでもか!」というくらい盛り上がったのに、結末は意外にあっさりしていて「あれ?」と肩透かし。おさまるところにおさまったので納得は出来たけど。それに輪廻転生というのは神話というよりは、仏教の考え方だと思うのだけれど、神様が闊歩するこの時代に仏教的思想を持つ…というのが、若干違和感を感じなくもなかった。作者は輝の「不老不死」に対して闇には「輪廻転生」を与えたんだろうけどね。でもまぁ、古代や古事記好きにとっては単純に面白かった。こういう方面に興味がある人はぜひ。

 

 

白鳥異伝 ★★★★
守の大巫女を中心とする女系一族の橘。その橘の娘であり、里長の娘でもある遠子(とおこ)と拾い子の小倶那(おぐな)は双子のように育てられた。しかし大碓皇子が里にきてから二人の運命は一変。小倶那は都へ旅立つ。再び遠子の前に現れた小倶那は「大蛇の剣」の主として、里を焼き滅ぼしてしまう。そんな小倶那を目の当たりにした遠子はある決意を胸に秘め…。
「勾玉三部作」の二作目。大碓皇子の名前でピンと来た方もいると思うけれど、これは「ヤマトタケル伝説」を基にしたストーリー。神話好きとしてはものすごく楽しみな反面、ヤマトタケルの行く末を思うと読み進めるのが本当に辛かった。もっともかなりアレンジというか創作されているので「ヤマトタケル」そのままのストーリーではなかったのだけれど。
しかしまぁ…いろんな愛情があるけれど、母が子を思う愛は深すぎると罪になります。そこに囚われた子供の苦しみ。わたし自身、息子をもつ身なのでちょっと考えさせられました。ああいう部分がまったくない…とは言えませんから。一方で恋する女は健気です。だから恋するがゆえに「女」になることを否定し続けていたのに、恋から愛に変わった途端、女になって、なよなよしてしまったのにはじれったいやら、可愛いやら(笑)。
今回、主人公の小倶那よりも菅流(すがる)がとても美味しい。わたしは彼の方が好きです。

 

 

薄紅天女 ★★★★
坂東の地で、阿高は同い年の叔父藤太と双子のように十七まで育った。だがある夜、蝦夷たちが阿高に「あなたは私たちの巫子、明るい火の女神の生まれ変わりだ」と告げ、阿高は蝦夷の地へ旅立っていった。その後を追う、藤太と仲間たち、そして坂上田村麻呂。一方、都では物の怪が跳梁し、皇太子安殿皇子が病んでいた。皇女苑上は兄を救いたい一心で「都に近づく更なる災厄」に立ち向かおうとするが…。
「勾玉三部作」完結編。これは前2作から更に時代が下がり、藤原京の時代。もう「神の時代」ではなく「人の時代」。おなじみの古事記から少し離れてしまったことと、蝦夷の描き方にちょっと不満をおぼえた(「火怨」を読んだ人ならわかると思う)ので、入れ込みにくかった。ただ「二連」の阿高と藤太の絆の強さにはシビれた。この二人こそが「輝」と「闇」の裔か…と、思ってしまい「これは禁断の…?」なんてあらぬ想像をしてしまいそうになるのだけれど、もちろん違う。「輝」は当然、天皇家。その皇女である苑上も立場に甘んじることなく、むしろ皇女としての自分の存在意義に疑問を持ったがために兄や弟のためになるなら.…と、けなげに奔走しているところがいい。
前2作もそうだったけれど、今回は「課せられた運命を受け入れつつ、自らの手で切り開くこと」を主人公たちに更に強く求めている。運命に負けそうになっていた阿高と苑上の最後のシーンに無意識に口元をほころばせていた。