小野 不由美

 

魔性の子
ある地方に住む、高里要は子供の頃、「神隠し」あい、そのときの記憶を失っていた…。そのことと関係があるのか、高校生になった彼の周りでは不審なことが続発する。人々はそんな彼を排除しようとして、逆に排除される側になってしまう。なぜ、こんなことが起きるのか…。
読み進めていくうちにあまりの残虐さに本を閉じてしまいそうになるのだけれど、結局、最後まで読んでしまう。…作者の「力」を感じます。
教育実習生の広瀬のエゴイストぶり、あるいは偽善者ぶり、とでもいうのかな…には辟易してしまうのだけれど、これも作者の思惑なのでしょう。人間の本性はこんなにも「エゴイスト」で「偽善者」なのだ、と一瞬だけ(!)思い知らされました(笑)。
作者はそれが言いたくて、この作品を書いたのかもしれないけれど、それはあたし個人の推測でしかない…。一方、高里は…彼は決してエゴイストでも偽善者でもない。何故なら…。
コレ以上、言うと「ネタばれ」になってしまうので言えない(笑)。
…一見、この「救いようがない」と思わされる作品は後日、大人気となる「十二国記」シリーズへとつながって行きます。この話しがあの壮大な話しにつながるとは…!「十二国記」シリーズに興味をお持ちの方は是非、この『魔性の子』からどうぞ。そしてその後、『十二国記』の第一作を読んだ後には「救いようがない」なんて思わなくなりますよ。
「エゴイスト」だの「偽善者」だの…っていう、考え方も要はその人次第、
ということもちゃんと教えてくれます(笑)。

 

 

月の影 影の海
大人気「十二国記」シリーズの第1作。
女子高生の中嶋陽子は異形のモノに襲撃される夢に悩まされていた。ある日、それが現実となり彼女は「ケイキ」と名乗る男に「御身を守る為」と、無理矢理、異世界へ連れていかれるが、はぐれてしまう。そこから陽子のひとりぼっちの戦いの旅が始まる。そして旅の終わりに彼女の見たものは…。そして彼女の決断とは…!
このお話も最初はものすごく、暗くて何度もくじけそうになります。でも「楽俊」に出会ってからは、安心して読んでくださいね。
前半の暗さにもめげず、何度も読み返さずにいられないのは「楽俊」のおかげかも。ティーンズ向けではあるし、シリーズ第1作、ということもあり作者の試行錯誤の部分が多少見え隠れしていますが、気にならないくらい没頭できます。
「魔性の子」で人間のエゴイストな部分を思いっきり見せつけられたあとだからこそ、このお話の面白さがわかるような気がします。
ところで、あなたならどうします?突然、異世界にひとりぼっちで放り出されてしまったら???
そしてこの異世界はあたしたちの心の中に本当に存在するのかもしれません…。このことは陽子がメインのまた別のお話で語られます。

 

 

黒祠の島
仕事仲間の女性の消息をつかむため、明治政府の「政祭一致政策」から外れた「黒祠」の残る小さな島へ渡った男がそこで起こった凄惨な殺人事件の謎を追うミステリー。果たして失踪した女性は事件に巻き込まれてしまったのか???
ストーリー自体はありがちな古い因習や一族に細々と続く「血」によって「起きるべくして起こった事件」なのだけれども、女性である作者がどうしてこんなに「スプラッターな」話しが書けてしまうのだろう?と、そっちの方に感心?してしまった。女性の方が残酷なのだろうか?
殺人事件はともかくとして、日本にもまだこんな因習が残ってる島があるのかな…。あっても不思議ではないけれど、怖いような残ってて欲しいような、複雑な思いです。

 

 

屍鬼
山間の過疎の村、外場。その名前があらわすように村の山全体が卒塔婆として存在している。そこへある家族が引っ越してきた頃から次々と村人が亡くなっていく。いったい、この村に何が起きたのか?。村の寺の跡取り、静信と医師の敏夫が真相に気づいた時、この事件は村人たちを人から鬼に変えていきます。
長い作品ですが、読み進めていくうちに人間と鬼は紙一重であり、本当の意味での鬼は人の心の中にこそ存在するものなのだと、教えてくれます。
そして「生きていくこと」がこれほどまでに残酷で悲しいものなのだと気づかされるラストシーンは静かに涙がこみあげてきます。
沙子&静信、律子&徹、夏野、恵たち、敏夫たち…それぞれの立場や考えの違いを通して思ったのは「生きていくためはきれいごとだけでは済まされない」ということ。それとどう折り合いをつけるのか…。作者の作品には一貫してそんな人の心の光と影が根底に流れています。「生き続けていくこと」それが「彼ら」に与えられた永遠の罪と罰。それを受け入れつつ、ただ生きていく…。
あなたの心の中に鬼はいませんか?。「そんなもの、いない!」と断言出来る人にこそ、ぜひ一読してもらいたい作品です。きっと自分自身に問いかけてみたくなります。

 

 

くらのかみ
相続の話し合いのために親戚一同が「本家」の屋敷に集められた。ある夜、子供たちは大人の目を盗み、蔵へ入り、真っ暗な部屋の四隅に4人の人間が立ち、肩を順番に叩きながら部屋を回る「四人ゲーム」を始めたのだが、4人だったはずの子供が5人になっていた。どう考えてもみんな最初からいたとしか思えないうえに、大人たちも気づかず、「座敷童子」はそのまま「子供」として受け入れられる。そんなとき、何者かによって食事のおひたしの中に「ドクゼリ」が入れられる事件が発生。子供たちは座敷童子の謎を抱えたまま、事件の真相を調べていく…。
講談社ミステリーランドという新しいレーベルから発売されたのだが、コンセプトが「かつて子供だったあなたと少年少女のための」だそうで、なるほど、ハードカバー320ページ強だが、文字も間隔も大きく、総ルビ、内容も含めて子供向け…と、言っていいだろう。座敷童子、行者の崇り、四人ゲーム…と、興味をそそるキーワードが出てきて、子供…特に「ハリポタ」を楽しんで読むことが出来る子供たちはこの本も楽しめると思います。言い換えれば、「ハリポタ」好きの大人が読んでも充分楽しめるということ。装丁が豪華で、お値段は「完全な大人向け」となってます(苦笑)。
屍鬼や十二国記ほどのインパクトはないけれど、小野さんの守備範囲?の広さと多才ぶりが発揮された作品だと思います。