佐々木 譲

 

ベルリン飛行指令 ★★★★★
第二次世界大戦直前、帝国海軍の最新鋭戦闘機の高性能に目をつけた同盟国ドイツから依頼を受け、二人の海軍パイロットに極秘指令が下される。「零式戦闘機…ゼロ戦にてベルリンへ向かえ」…。風雲急を告げる世界情勢の中、安藤大尉と乾空曹は空を翔ける。
もう、安藤大尉と乾空曹の二人がまさに「空の男」。生粋の「空の男」であったがために軍では厄介者として扱われ冷遇されていた二人が翼を取り戻したことで、息を吹き返す様子が見事に描かれている。そしてその二人をサポートする海軍大貫少佐と山脇書記官の奔走ぶりも忘れてはならない。…なんて堅いことを書いてる場合ではないっ!。とにかく安藤大尉がいい男なのだ。いい男好きの人は読むべし!。心身ともに厳しいミッションであるにも関わらず、「蛮行よりも愚考を選ぶ」という安藤大尉の言葉に飛行機乗りとして、というよりは人間としてのプライドを感じ、深く胸を打たれた。
佐々木氏の「第二次世界大戦三部作」の第一作ということだが、直接戦争の悲惨さとか残酷さを書いたものではない。そんな中にも当時の世界情勢の緊迫感を感じとることが出来る。特に当時英国の植民地であったインド国内の地下活動はなかなか読み応えがあった。
読み終えてから「飛べない豚はただの豚…」と言い切った「紅の豚」の主人公ボルコを思い出した。空翔ける男は人間であれ、豚であれ総じてカッコいいものなのだ。
(K's Roomのkeiさまよりお借りしました。ありがとう♪)

 

 

エトロフ発緊急電 ★★★
日米開戦直前、一人の日系人がアメリカ軍のスパイとして日本へ入国。彼の任務は日本軍の動きを探ること…すなわち奇襲攻撃に関する情報をいち早く本国へ知らせること。スパイ活動に気づいた憲兵の目をかいくぐり、たどりついた択捉島で見たものとは…?。
佐々木氏の「第二次世界大戦三部作」第二弾ということで、前作のような冒険活劇を期待していたらちょっと裏切られた(苦笑)。諜報という隠微で過酷な世界を描いたものだ。私自身、諜報だの秘密部隊だの、地下活動だの…といった、小説は好きな部類なのだけれど、本作はちょっと馴染めなかった。だからといって、この作品が面白くなかったと言うわけではない。憲兵から逃れようとするシーンでは手に汗を握る場面も多く、開戦前夜の緊迫感には圧倒された。ただ、主人公が日系人でありながら日本人ではなく、そして日本軍ではなくアメリカ軍のスパイということで、主人公に肩入れできず距離を置いてしまった…というか、共感できなかった。本人言うところの「アナーキー主義者」よりも、南京大虐殺で恋人を失ったアメリカ人宣教師や強制連行されてきた朝鮮人、そして択捉の駅逓の女主人たちの方に心身ともに痛みを感じ、「人間らしさ」を感じ、そちらの物語に興味をおぼえたのだった。ただ、こういう時代でなければ出会わなかったであろう人たちが出会い、その後の未来に深い悲しみを感じるとともに、どこか希望も抱かせるラストに少し安堵した。
(K's Roomのkeiさまよりお借りしました。ありがとう♪)

 

 

ストックホルムの密使 ★★★★
1945年、敗色濃厚の日本へ向けて駐スウェーデン海軍武官・大和田大佐から終戦における冷静な分析と連合国側が企む恐るべき情報を携えた二人の密使が放たれる。密使の名は日本から見捨てられた「森四郎」と祖国ポーランドを失った「コワルスキ」…。
「第二次世界大戦三部作」の最終作。詐欺師で無国籍者の森が大和田武官の熱意と武官夫人の静子に「日本」を見て密使となることを決意したあたりから、ゾクゾクするほど面白かった。「エトロフ…」では消化不良だった諜報モノ好きの血が騒いだ(笑)。実際には諜報戦ではなく、情報を伝えるためだけに「敵中」をかいくぐっていくのだけれど、その緊迫感こそわたしが求めていたものなのだ。もちろん、前二作に劣らない…むしろ前二作よりも「正統派大戦本」(?)としてのカラーが濃く、特に終戦工作についてはわたしも興味をそそられたので、そっちのほうに興味がある人にとっては本作のほうが「大戦モノ」としては面白く感じると思う。それにしても終戦にいたる経緯は読んでいて、ツライやら情けないやら。あのとき決断していればあんなことも、こんなことも起きなかったのに…「if」を言い出せばキリがないのはわかっていても、そう思わずにはいられなかった。そして「戦争」あるいは「戦時」は人を狂わせるものなのだ…と、自分なりに行き着いたときに無性に悲しくなった。だからこそ、終戦を迎えた夕暮れの空に山脇たちとともにゼロ戦を見たとき「これで終わったんだ…」と、心の底から安堵したのであった。
(K's Roomのkeiさまよりお借りしました。ありがとう♪)