高橋 克彦

 

白妖鬼 ★★★★
赴任地の陸奥で免官された陰陽師・弓削是雄。突然の免官に都で何か起こったのでは…と、京へ向かう途中で烏天狗に襲われる。また各地に赴任していた陰陽師たちも何者かに殺されていた。是雄は蝦夷の子供や土蜘蛛の女頭領たちとともに真相を調べ始めるが、都では陽成帝が譲位していたのだった…。
陰陽師といえば夢枕獏氏の「陰陽師」を読んでるせいか「安倍晴明」が真っ先に浮かぶけれど、陰陽師は晴明一人ではない。この弓削是雄もなかなか優秀な陰陽師だ。いや、物の本によれば、弓削是男の方が晴明よりも優れていた…という話もあるらしい。ともあれ、優秀な陰陽師は術はもちろんのこと、「はったり」をかますのも上手いらしい(笑)。獏氏の晴明が静ならこちら是雄は動の陰陽師。わたしはゆるゆるとした晴明&博雅コンビの方が好きだけど、こっちも冒険活劇風で面白かった。「陰陽師?。うさんくさくて読む気が起きない」って人にオススメ。なんといっても淡麻呂と芙蓉丸ちゃんが可愛いし、髑髏鬼も笑わせてくれるのだ。
それにしても…やっぱり怖いのは「鬼」ではなく心に鬼をすまわせる「人」の方なんだよな。
(bonさまにお借りしました。ありがとう♪)

 

 

火怨<北の耀星アテルイ> ★★★★
8世紀後半。大仏建立のため金を確保せんと、金山を抱える蝦夷の地に朝廷軍が侵攻。遷都を控え、負けられない朝廷と「黄金など要らない。ただ人間として認めてもらうことと、ふるさとの自然と家族を守りたい」蝦夷との争いは小競り合いから大きな戦いへと発展しつつあった。そんな中、蝦夷の期待と希望を担う1人の若者が現れる。彼もまたふるさとや家族を愛し、そして子孫に残す未来の蝦夷を頭に描いていた。その若者の名は阿弖流為(アテルイ)…。
本好きのネット友だちが何人も絶賛し、号泣したという噂の本。どれだけ泣けるか…と、楽しみだったのだけれど、それほど泣けなかった。といって、感動しなかったわけではない。ただ朝廷と蝦夷の戦いでどちらが勝利したのかは歴史が示しているので、心構えが出来てしまっていたのだ。しかし、その争いの幕の引き方は教科書には載っていない。「坂上田村麻呂が蝦夷を平定」という一文で済まされている。この教科書に載っていない部分をこの作品は描いている。この本の通りなのだとしたら、あまりにも無能でバカな人間が当時の日本を治めていたということになる。自分たちが思うように出来ない民族や国(蝦夷だけでなく熊襲や土蜘蛛等々)は潰してしまえ、などと平気で言う。それは現在の日本、いや地球全体がそこから進歩していないように感じた時点で更に泣けなくなってしまったのだ。そんな中、一番涙が流れたのは取実と猛比古、伊佐西古。そして伊佐西古と刺し違えた朝廷軍の御園の最期。命と引き換えに守るものはやはり人間としての尊厳なのだ。
それにしても阿弖流為はもちろん、いい男がわんさかと出てくる。阿弖流為はあまりにも立派すぎて、逆に引いてしまったくらい。参謀格の母礼(モレ)や、一度は裏切ったものの、阿弖流為の人柄に惚れ直し最後まで側に居続けた側近の飛良手(ヒラテ)が気に入りました。朝廷軍側の田村麻呂や御園も捨てがたい。阿弖流為と田村麻呂はお互いには何の恨みも憎しみもない、真の「宿命のライバル」と言っていいだろう。この男たちの縁は敵味方、時空を超えて生き続けていて欲しい…と、願わずにはいられない。