手嶋 龍一

 

ウルトラ・ダラー ★★★
昭和43年12月、1人の若い彫刻職人が姿を消した。それから30年以上の年月が流れ、世界で「北」製と思われる精巧な偽100ドル札「ウルトラ・ダラー」が発見される。イギリスBBC特派員という仮の姿で諜報活動を続けるスティーブン・ブラッドレーが日本の外交当局やアメリカ諜報機関とともに真実を追う。そこに見え隠れするのは「北」ではなく別の大国…?。
正直、期待はずれだった。スパイ小説が好きなのだけれど、これはわたしの好みではなかった。数年前、日本にスーパーKという偽100ドル札が出回ったのは記憶に新しいし、拉致された人の中にはこういう手に職を持つ人や専門知識を持つ人もいただろう…というところには興味を覚えたし、おそらく実在の人物をモデルにしたのであろう登場人物もいて、「面白くなる要素」がてんこもりなのに、ちょっと「盛りすぎて」しまったのかな…と、思う。なにより主人公であるスティーブンにまったく魅力を感じなかった。脇役の官房副長官の高遠希恵に人間的魅力を感じた。ストーリーも結局のところ、何が言いたいのかがわからなかった。最初に拉致された若者はその後どうなったのか、行く末が知りたかったのにその後何も語られなかったり(想像はつくけど)、「うまくいきすぎ」の諜報活動にまったく手に汗を握ることなく、最後までだらだら〜と、すすんでしまったし、最後の最後は「えっ、これって恋愛小説だったの?!」と、思わせるシーンが出てきて、興ざめしてしまった。場面転換もめまぐるしく、「没頭して読む」派のわたしには読みづらかった。