山崎 豊子

 

白い巨塔
国立浪速大学医学部第一外科助教授、財前五郎は次期教授選を勝ち抜くため舅の財前又一や鵜飼医学部長を抱きこみ様々な策略をめぐらせる。一方現教授の東はなにかと鼻につく、財前を嫌い、学外から移入させようと画策する。学内のみならず、医学界の利権がからんだ教授選のさなか、第一内科助教授里見のもとに胃を患った佐々木が診察を受けに来る。診察の結果、早期噴門ガンと判明し、里見は財前に執刀を依頼するが…。
現在リバイバルドラマ化されている「白い巨塔」の原作本。だいたいのストーリーは知っていたにも関わらず、内容の濃密さと筆致に圧倒された。人間の命を預かるはずの医師がなりふり構わず、己の私利私欲に奔走…暴走する様子に、背中によく磨かれたメスを当てられているかのような錯覚を起こしてしまった。あまりにも大きすぎる野望は留まることを知らず、逆にその先に取り返しのつかない大きな落とし穴が待っていることには気づくことが出来ない。作者は医師である主人公、財前に限らず読者ひとりひとりに人としてのモラルを問いかけているのだろう。
これだけアクの強い主人公も珍しいが、そんな財前の生き様とともに里見をはじめとする主な登場人物すべての生き様も対比させるように書かれているのが、印象的だった。
病理学教授の大河内の厳しい目がラスト間際でうっすらと光ったシーンはきっとこの先、何年も忘れることが出来ないだろう…と思うほど強烈なインパクトを残してくれた。