雪乃 紗衣

 

彩雲国物語 はじまりの風は紅く ★★★
彩雲国の名家・紅家に生まれた秀麗(しゅうれい)。しかし、実際はお金に困りお嬢様自らが食い扶持を求めて仕事に奔走していた。ところがある日、秀麗に持ち込まれた仕事の報酬はなんと金500両!。飛びついた仕事の内容は、即位以来まったく仕事をしない「バカ殿主上」の教育係。しかもその期間中は貴妃として後宮に入らなければならなかった…。
何人かの方に勧めていただいてたので、今更ながら手にとってみた。…よくも悪くも「ティーンズ向け」だな、という印象。わたしが今まで読んできたティーンズ向けの小説を全部足して割ったような印象。設定は「十二国記」、キャラクターは「なんて素敵にジャパネスク」…等々。特にこの2作が大好きなわたしとしてはフクザツ。正直言って、文章がつたない。世界観が大雑把。とってつけたような展開。「十二国記」の足元にも及ばない。…「そういうお前は何様?」と言われれば「すいません」と言うしかないのだけれど。
秀麗から主人公としての魅力が伝わってこなかった。名家のお嬢様でありながら貧乏であるがゆえにフットワークが軽いところが秀麗のいいところのはずなのに、周りに助けられるだけで終わってしまったのがもったいない。ひたすら周りの人物(見目麗しい男がわんさか)に読む側も助けられた、という感じ。しかも、このいい男軍団、ちょいと出来すぎ。見た目もよし、頭もいい、腕も立つ。静蘭(せいらん)の素性なんて早い段階でバレるし、劉輝(りゅうき)の真の姿もしかり。ここいらがいかにもティーンズ向けという感じがする。でもいい男好きとしてはやっぱり見逃せないので、この先が面白くなることを願ってシリーズ制覇をすることにしたのだった。

 

 

彩雲国物語 黄金の約束 ★★★
女性は国試(国家公務員試験)が受けられない彩雲国。しかし、秀麗は官吏になりたいという夢を持ちながら勉強を続けていた。そんな時、外朝(役所)での臨時働きの声がかかる。家の前で拾った年齢不詳のクマ男・燕青(えんせい)とともに秀麗は女人禁制の外朝へ入るため男装し、仕事を始めるが…。
前作では守られるだけだった秀麗が少しずつ本領を見せ始める。外朝を走り回る姿にこちらも元気付けられる。走り回る中で出会った人々が今後の秀麗の「人生の糧」となっていくはずだ。
今回新たに「いい男軍団」にクマ男・燕青が加入。静蘭とは旧知の仲で、あの頑なな静蘭が「いい具合」に乱されていくところが侮れない。ただ、今回のわたしのイチオシは「怪人仮面男」でしょう(笑)。「おじさん」との迷コンビ具合もツボでした。そんな選り取り見取りのいい男たちの中にあって、「秀麗大好き♪」劉輝の影がちょいと薄くなってしまった。今後、劉輝はもっともっと苦悩することになるんだろうな…と、思うと不憫でならない。

 

 

彩雲国物語 花は紫宮に咲く ★★★★
彩雲国物語シリーズ第3弾。幼い頃からの夢を叶え、国試に及第し官吏としての一歩を踏み出した秀麗。しかし、官吏となった秀麗に対してどこかよそよそしい街の人々の姿に傷つき、外朝でもあからさまな女人差別につい下を向いてしまいそうになる。そんな中、史上最年少で及第した影月(えいげつ)とともに厳しい教官に与えられた「新人研修」に励む…。
本作で秀麗がはっきりと今までの「守られる側」から「守る側」へと立ち位置を変えたことが、本人にも読者にも示される。とはいえ、まだまだ本作では守られてることが多いのだけれど…。しかし、次回以降は本作での「女人いじめ」以上に厳しい試練が待ち受けているのだろうし、それを覚悟して「かの地」へ旅立つ秀麗はもちろん、送り出す劉輝の胸は張り裂けんばかり。そして静蘭もいよいよ覚悟を決めて宝剣を手に握る。←には劉輝と静蘭の暗黙の思いなどを想像してさすがにシビれた(笑)。あとは珍しく絳攸(こうゆう)が悶々としているのを察知した楸瑛(しゅうえい)の意外と細やかな気遣いや父様や2人のおじさん、仮面男たちの「遠くから見守る」姿、食えないじじい3人組(?)のやりとりなど、相変わらずの荒さの中にも読ませどころがあって、今後に期待。

 

 

彩雲国物語 想いは遙かなる茶都へ ★★★
シリーズ第4弾。思わぬ抜擢&特別人事で茶州へ赴任することになった秀麗と影月。2人の補佐と護衛についた燕青と静蘭、そして貴妃時代の侍女だった香鈴(こうりん)の5人で州都を目指すが茶州は茶一族の横暴のために彩雲国一の不安定な地域だった…。
結論から言えば、今まで一応「一話完結」だった話が本作は次回に続くので、消化不良だ。まぁ、次回へのお楽しみではあるのだけれど。でも原因はそれだけではなく、一番の原因は秀麗の心がもやもやしているから。なんでそうなるの?…という感じ。まぁ、キケンなタイプであるがゆえに放っておけない、なぜか惹かれる…という気持ちはわかるんだけど(苦笑)。
そんなこんなで、今回もまた新たに登場人物が増えました。この先いったいどれくらいの人数になるんでしょうか?。といっても、今回はほとんど王都組は出ないので、人数的には今までと変わらないかな。そんな新たな登場人物のなかで千夜(せんや)と龍蓮(りゅうれん)は王都組をも凌駕するキャラ。この2人はいろんな意味で手ごわい。龍蓮は冷静に考えると楸瑛の弟なんだけど。うむむ…。
今回は燕青と静蘭の過去も少し明らかにされる。燕青もなかなか壮絶だけれど、静蘭の過去は底なし沼のよう。胸が痛いです。

 

 

彩雲国物語 漆黒の月の宴 ★★★
茶州州牧を拝命し、着任式の期限に間に合わせようと懸命に前へ進もうとする秀麗たち。しかし跡目争いのために秀麗と影月が持つ州牧の証である「州牧印」と「佩玉」が欲しい茶一族の度重なる妨害に遭い、思うように進めない。しかも千夜改め朔洵(さくじゅん)のキケンな香りに心を乱された秀麗は…。
前作からの「茶一族跡目争い編」(?)がここに完結。ま、跡目争いについてはメデタシ、メデタシなんだろうけど、それ以外のことでは秀麗はもちろん静蘭も読者もなんか納得できない。朔ちゃん(笑)はわたしとしては好きなタイプではあるだけに、秀麗のお子ちゃまぶりがどうにも鼻持ちならない。秀麗はどうも人を好きになることに何らかのトラウマがあるらしい…ということは、今までのシリーズからも察することが出来るんだけど、それならそれで朔ちゃんのことは気にしちゃいけないんでは?。王都には日々、秀麗への想いを募らせる劉輝もいるし、なにより一番身近にいる静蘭のことはどうするのよ〜。「二番目に好き」なんてズルい。そんなわけでモヤモヤしてます。救いは龍蓮。朔ちゃんもいいけど、龍蓮には今後もっと出て来て欲しいっ!。笛吹いて欲しいっ!(笑)。

 

 

彩雲国物語 朱にまじわれば紅 ★★★★
シリーズ番外編。秀麗が王の教育係として後宮へあがる前の宮城の府庫で起きた幽霊騒動。絳攸と楸瑛は幽霊が好物だという饅頭をエサにおびき出し、退治を試みるが…(「幽霊退治大作戦」)。
国試を目前に控えた秀麗が風邪をひいた。周りの男たちは大騒ぎ。あの人もこの人も先を競って秀麗のお見舞いに駆けつけるが…(「お見舞い戦線異常あり?」)。
…「笑い」という意味では本編以上に面白かった!。「鉄壁の理性」を誇る絳攸が真剣に幽霊退治を試みるところとか、おじさんの奮闘ぶりとか笑いのツボが満載。意外なところでは「女好き」の楸瑛が本当に思う人は誰なのかも明かされ、なるほど…と、ニヤリ。ま、仮面男には誰も適わないでしょうが(笑)。秀麗の亡くなったお母さんのことが少し明らかにされて、今後おそらくこの「お母さん」の存在が本編でもなんらかの形で絡んでくるのではないか…と、思われます。

 

 

彩雲国物語 欠けゆく白銀の砂時計 ★★★
茶家のお家騒動も落ち着いたところで、秀麗と影月はこれからの茶州のためにある計画を立てる。新年の挨拶のために王都へ向かった秀麗が計画のための折衝を役所に掛け合う。一方、州都に残った影月はどこか様子がおかしく…。
次回以降へ続く話の序章というところ。この時点では「事件」はまだほとんど何も起きていない。そんな中での今回の読みどころはやはり秀麗のがんばり、かな。いくらなんでも「出来すぎ」のような気もするけど、今まで助けられることが多かった秀麗があんな「大勝負」に出るとは…。たまたま持って生まれたものに救われたような気もするけどね。ま、とにかく今回はまだこの先どうなるか展開が読めないので、次回以降に期待…という感じ。それにしても、龍蓮が「龍蓮」たる所以というか、「藍龍蓮」という名を持つ者は何者なのか…が、気になるわ〜。ただの「笛吹き龍蓮」でも充分インパクト大なのに!。

 

 

彩雲国物語 心は藍よりも深く ★★★★
王都でも「計画」のために相変わらず忙しく走り回る秀麗。そんなとき、茶州の山奥の村で奇病と「邪仙教」と称する宗教が蔓延しつつある、との文が届く。また影月に関する驚愕の事実を聞かされ…。
前作が起承転結の「起」とすると今作は「承」と「転」の前半部…というところ。前作に引き続き秀麗が頑張ってます。シリーズ7作目にしてはじめて「ウルウル」しました。今まで周りに恵まれすぎてる…と思ってたけれど、父様の存在だけはやはり別もの。この人の前では誰もが素直に心情を吐露してしまうのだ。ましてや「娘」ともなると…。
今作で、秀麗が一気に「成長」してしまって、どことなく違和感をおぼえるのだけれど、「火事場の馬鹿力」と思えば、許容範囲でしょう。そして一番、切なくなるのは劉輝の胸のうち。この人にこそ幸せになってほしい…と、思うのだけれど、秀麗が「その気」にならない限り、この人に幸せは来ないのでしょうか。

 

 

彩雲国物語 光降る碧の大地 ★★★
州内で流行する奇病は「女州牧」のせいだと噂が広まり、秀麗自身にも身の危険が迫る中、覚悟を決め茶州へ戻る秀麗。一方、影月は「タイムリミット」が近づきつつある中、失踪してしまう。秀麗と影月は茶州と民を守ることが出来るのか…。
「影月編」の起承転結の結。完結編です。めでたし、めでたし、といったところでしょうか。ページの関係もあるんだろうけど、もうちょっと書き込んで欲しかった。燕青と静蘭なんて「暗黙の了解」で済ませてしまう部分があって、読者としては納得いかなかった。ただ、医官たちの葛藤や奮闘ぶりにはぐっとくるものがあった。「医者」をめざす人はこういう葛藤と決意を経て医者になるんだろう。
影月くん、元々14歳にしては妙に達観したところがあったけれど、今回で「大人の男」になってしまいました。「あの人」にお説教するところにシビれました(笑)。
また、彩雲国建国の伝説のもととなっている「彩八仙」の謎もすこ〜しずつ見えてきたような気がします。そして忘れちゃいけない龍蓮。彼の「心の友」に対する思いがひしひしと伝わってきて、出番は少ないもののインパクト大です。
しかし…秀麗と影月の処分があまりにも差があるような気がするんだけれど、そこは初の「女官吏」としていやでも這い上がらなければならない彼女の責任と立場を理解した上での彼の決断だったのでしょう。

 

 

彩雲国物語 藍より出でて青 ★★★★
シリーズ番外編第二弾。国試受験のために受験者がゾクゾクと王都にやってきた。その中にあの龍蓮も!。兄の楸瑛はもちろん、のちに「心の友」となる秀麗、影月も大迷惑!。下街の親分、胡蝶(こちょう)姐さんまで巻き込んで大騒動(「王都上陸!龍蓮台風})。
1年で茶州を離れることになった秀麗は最後に影月や香鈴と共に茶州を観光することになった。案内は秀麗を「心の友其の一」と慕う、あの龍蓮!。なにやらとんでもないことが起きそうな…(「心の友へ藍を込めて})。計4編。
…本編以上に楽しみな番外編は龍蓮ファン垂涎の1冊!(笑)。まぁ、あのハチャメチャぶりにはいろいろと理由もあるらしい…というのが兄・楸瑛との会話から想像がつく。やはり「藍龍蓮」という名には何か特別なものがあるらしい。今後、本編や番外編で「藍龍蓮」はかなり大きな位置を占めるのだろう。でも今しばらくは「笛吹き龍蓮」でいてほしい!。
4編目の超短編には「影月編」では出番の少なかった劉輝の想いが詰まっていて胸が締め付けられます。

 

 

彩雲国物語 紅梅は夜に香る ★★★
茶州州牧の任を解かれ王都へと帰ってきた秀麗。官位もなく、謹慎の身となっても自分の出来ることをしよう…と、街へ出ては人々の話を聞いていた。突然「結婚してほしい」と見知らぬ貴族のぼんぼんにプロポーズされ…。
「茶州編」が完結し、新たな展開になるであろう新作。王都組の面々の登場も多く、秀麗も読者も「帰ってきた」という実感が湧く。そして影月たちに比べて処分が厳しい…と、感じていた部分もちゃんと説明があって、やはりね…というところに落ち着いた。秀麗よりも彼のほうがツライだろう。さて、今回は一応、一話完結ではあるけれど、今後秀麗の身にふりかかる新たな事件(?)への幕開けともなっている。今回の新キャラは貴族のぼんぼんの「タンタン君」こと蘇芳(すおう)。やる気のないぐーたらな性格が秀麗と出会ったことによって少しずつ変わっていく。どうも頭は悪くなさそうなので、変わり方によっては今後「大化け」するのでは…。変わるといえば、静蘭も新たな決心をしたらしい。着々と秀麗と彼のために「人材」が揃いつつあるな…という印象。さて、秀麗は今後無事に官吏として復職出来るのでしょうか…。

 

 

彩雲国物語 緑風は刃のごとく ★★★
謹慎が解かれ、登城した秀麗。しかし「一ヶ月以内にどこかの部署に採用されなければ免職」という厳しいリストラ対象者リストにあげられていた。そんな自分のことだけでも手一杯のはずの秀麗なのに、他のリストラ対象者たちの面倒まで見ることになり…。
彩雲国の政治の裏側の厳しさを秀麗と読者にはじめて示した今作。…今までの作品は秀麗の「政治とはこうあってほしい」という理想を現実にするべく秀麗自身の努力とまわりの人物の助力でなんとかしてきたけれど、今回は「理想だけでは政治は成り立たない」という現実を突きつけられる。そしてそのためには「汚れ役」の存在も否定出来ない。これから物語がどう進んでいくのかわからないけれど、秀麗は理想と現実にかなり悩むことになるだろう。まぁ、タンタンくんがいるのでそう深刻にはならないかもしれないけど。
王都組の出番は少ないものの、楸瑛の葛藤や劉輝の決断などなど、見所(読みどころ)はきっちりと押さえておきましょう。縹家も政治に参加するようだし、いよいよ次回以降、彩八家筆頭の藍家も動き出すようです。