夢枕 獏

 

陰陽師シリーズ(短編:現在4作)
これは最近のあたしのお気に入りです。陰陽師…安倍晴明がブームとなっていますが、このシリーズはその安倍晴明と親友、源博雅が活躍。まだまだ日本にもののけや魑魅魍魎がはびこっていた平安時代の「不思議」ワールドを味わってみませんか?
尚、今年(平成13年)はこの作品を原作にしたドラマ化・映画化の予定です。

 

 

陰陽師〜生成り姫
陰陽師シリーズ、初の長編作。
初めての長編なのだけれど、短編シリーズの中にある『鉄輪』を読まれた人なら筋はおわかりかと…。これは『鉄輪』を長編に書き直したものです。…タイトルを見てわかってはいたんだけど、晴明さまにお会いしたい一心で(?)、読みました。
陰陽師シリーズを読んだことのない人のために、晴明と博雅の人となりを改めて紹介してあったりして、丁寧なのだけれど、短編を読み、テレビも映画も観てるあたしには「ここまでやらなくても…」という感じ。内容は『鉄輪』のヒロイン徳子と博雅の心情をもう少し細かく描写し、人が何故、鬼になるのかという経緯も掘り下げて書いてある。でも正直言って短編を既に読んでる人は読まなくてもいいかな…。初めての人にオススメします。
ただ、徳子の「思い」は存分に伝わってきて悲しくなります。

 

 

陰陽師〜龍笛ノ巻 ★★★
晴明のもとには今日も相変わらず怪異な事件が持ち込まれる。足に出来たできものの中から蛇がでてきたり(怪蛇)、宮中から妖の声が聞こえたり(飛仙)、年頃の姫君の虫好きに悩む貴族がいたり(むしめづる姫)…5編からなる短編集。
印象に残ったのは「むしめづる姫」。怪異なことは何も悪いことばかりではない。むしろ「あやしいもの」の方が人の本質を見抜いて、それ相応の態度を示してくれるのだ。
それにしても、鬼や悪霊を相手にするのに、晴明と博雅の二人が生み出すゆるゆるとした雰囲気は変わることなく、心地いい。その中に今回は晴明の師の息子で陰陽師、賀茂保憲が加わり、これがまたなんともいい雰囲気。勝手に保憲は晴明のライバルだと思い込んでたから「うわぁ、いい人だったんだ!」とビックリ。今までライバル視してて、ごめんなさい(笑)。そして晴明と保憲、陰陽師二人を虜にする博雅の笛の音…。実は博雅こそがいちばん陰陽師に向いてるのかもしれない。叶わぬこととわかっていても、いつかこの耳であの笛の音を聴いてみたい、と思うのであった。

 

 

陰陽師〜太極ノ巻 ★★★★

いつものように二人でゆるゆると酒を酌み交わす晴明と博雅のもとに虫好きの姫君・露子がやってきた。知り合いの僧が読経していると黄金色の虫が現れる。捕まえても朝になると消える虫の正体とは…(二百六十二匹の黄金虫)。
相変わらずゆるゆるとした時間が晴明と博雅のまわりには流れている。そこへ持ち込まれる事件によっては身辺慌しくなるのだけれど、事が片付けばまたゆるゆる。このゆる〜い空気が読者を癒してくれる。偉大なるワンパターン。ビバ!、ワンパターン。前作に登場した露子姫も再登場し、姫君とは思えない行動力と性格のよさに引き込まれる。晴明の「永遠のライバル」と言われる蘆屋道満ですらこの作品では「気のいいおっちゃん(じいさん?)」となり、時に読者をドキッとさせつつも、ゆるゆる世界に溶け込んでいる。毎回どこかで聞いたような話(昔話やおとぎ話?)があったりして、登場人物だけではなく、物語にも親しみが感じられるのがいいところ。獏さんにはこの先もゆるゆるとこの作品を作り続けていって欲しいと思う。