〜未来をみつめて。〜

 平成12年3月18日(土)。あたしの勤める中学校区をあげて、熊本県阿蘇郡久木野村(くぎのそん)に、三千二百七十本もの広葉樹を植林しました。

  さて、なんでまた植樹?・・・ちょっとばかり堅い話をしなくてはなりません。

  ちょっとおませな子どもだったあたしは、小学校中学年の頃から「公害問題」だの、「自然のなかの人間」だのという本や話題に結構敏感でした。
  大学の教養の講義の中で、「環境」という総合科目を受講したのが確か3年の時。卒業単位とは何も関係なく、ただ自分の興味のおもむくままに選んだ授業。半年だったか、1年間だったか、もう記憶が定かではありません。周囲の友人で受講した人は皆無。一人で密かに(?)出席していました。
  内容についても詳しく覚えているわけではありません。教授の顔も忘れてしまいました。ただ、その講義の中で、「川が果たす、自然へのはたらき」とでも言うような内容に、目からウロコ、の思いがしました。

などなど、言われてみれば当たり前のことですが、気づかないならば見過ごしてしまうような内容でした。

  だから、何よ?森とどんな関係があるのさ?

  ・・・さて、 ここ数年、やっと「森を育てる」意義が論じられるようになってきました。映画「もののけ姫」の中でも、「人と森が共存する道はないのか?」という問いが投げかけられていました。原生林には、人が侵すことの出来ない、神聖な自然の力が存在する、とあたしは感じています。しかし今、私たちが育てようとしているのは、長い人類の歴史の中で、人と共に育ち合ってきた「里山」なのです。里山の木は、広葉樹でなくてはなりません。秋になると葉を落とし、やがて腐葉土へと姿を変える広葉樹。その腐葉土の高い栄養分を含みながら、地下へとしみこんでいく水。その水が伏流水となり、或いはわき出して、川となり、海へと流れ込んでいきます。この大自然の栄養を糧として、下流の豊かな海では漁業が営まれてきたのです。実は、あたしの勤める中学校区でも、昔から海苔の養殖が盛んに行われてきました。
  ところが、経済性を重視した政策の結果、山はスギだらけになりました。スギの木が悪いとは言いません。程度の問題です。秋になっても葉を落とさないスギ山からは、豊富な栄養を得ることはできません。また、スギの根は地中浅く、多くの水を吸い上げてしまいます。なるほど、水害は起きにくくなったかも知れません。しかし、その分地下に浸透する水の量は減り、地下水の枯渇を招く結果となってしまったのです。たとえ、今はやりの「花粉の出ない杉」を植えたとしても、大きな自然の流れから考えると、問題の視点が違うように、あたしには思えます。

  そんなことをあたしが考えているなんて全然思っていなかった校長センセ。「地域の活性化」のために何かと奔走しておられましたが、ふと思いついたのが、「学校で森をつくろう」。学校外にそういう環境を作り、いろんな体験活動をするようしむければ、文部省が打ち出した「総合学習」もコワクないっ!!!そんな校長センセに、あたしは、「まさかスギ・ひのきを植えるんじゃないんでしょうね。だったら絶対反対ですよ。里山を作るんだったら考えてもいいですけど。」「ああ、そうね。スギはダメね。里山ね、ホントねぇ。」・・・燃えている校長先生に、多くの職員が釘をさしました。「あのねぇ、校長先生、簡単に考えるとでけんバイた。学校の職員は転勤のあっとですよ。今の職員が熱心にしたっちゃ、ぜ〜〜ったい、後から来たモンは恨むバイた。」「だいたい、下草刈りに行くのだって、バス代はいくらかかると思うとな?生徒の家はそぎゃん金、出さんバイ。学校予算にもそぎゃん余分の金はなか。」・・・それなら、と次に校長センセが動いたのは、「中学の森」ではなく、「町の森」にしてしまうこと。主催を中学校にするのではなく、地区のいろいろな機関や、中学校の育友会にしてしまい、中学校はそれに乗っかる。地区の人すべてに募金をつのり、それを運営の資金に充てる。・・・そんなにうまくいくものか!!
  ところが、夢見る校長センセはその情熱で、見事に説得して味方を集めてしまった。青少年協議会、漁業組合、自治会連合会・・・と、多くの猛者を論破。「これはやらねばなぁ。」という雰囲気を作り出してしまったのです。さっさと九州森林管理局(元営林局)にも出向き、「おい、久木野に1ヘクタール、場所のあっとげな。80年無料で借りらるる。ど、Sさん、今度の日曜日に下見に行くバイ。」(このSさんとは、あたしにMOをくれた、あのS氏のことです。)職員は、「よかね、S先生騙されンごつね。よーと校長センセに言うてきかせにゃんとよ。」・・・しかし、いったい何があったんだか、下見から帰ってきたS氏は、森事業の「事務局長」に決まってしまっていました。
 ここまで来てしまったら、一般職員の頭脳でもあり、植物に関しては右に出る者はいない、というY先生のひとこと。
「もう、そぎゃん人々を巻き込んでしまったら、やむる訳にはいかんとでっしょたい?決まったのなら、私は協力します。」
 私たちも、校長先生も、わかっていたのです。こういう事業は誰かがやらなければならない。でも、だれが猫の首に鈴をつけるんだ?十分に考えておかないと、こういう長期の計画は頓挫します。でも、校長センセのお人柄です。みんな、「やるっきゃないかなぁ」という気持ちになっていました。
  苗木の選定、準備はY先生。Y先生なしにはこの計画もうまくいかなかったでしょう。山桜、かえで、ヤマグリ、コナラなど、いかにも里山に付加価値をつけてくれそうな樹木です。

 そのうち、ウワサを聞きつけて、大口の寄付も出していただけるようになりました。数回の下準備を地区の大人たちで整えておいていただいて、さて、いよいよ中学生の出番です。1年生全員と、卒業直後の3年生の有志。そしてたくさんの地区の人たち。なかでも中学校男性保護者の会の会長さんのお世話の届くことには、大変感服いたしました。
大型バス4台+多くの自家用車を連ねて、久木野村めざして出発!!片道2時間近くかかりました。

    

  バスで到着。       植樹場所に歩きます。BGMは映画「八甲田山」でどうでしょうか。         
   
  バックには阿蘇の五岳が。             開会式。長い長いご挨拶が続きます。
    
いつものオーバーアクションの校長センセ        森林管理局(緑のジャンパー)の方々
    
「きちぃ〜〜。はよ開会式終わらんかなぁ!」    アピール。宣言は、うちのクラスのゆうやくんです。
おっと!ゆうやくんの後ろに野球監督スタイルで控えてるのが、ウワサのS氏です。
   
ディズニー映画「バグズライフ」のありさんみたい・・・。

   
一人だいたい15本くらいずつ植えます。結構斜面で、立つのにも一苦労です。
    
切り株などもあって、大変植えにくい所にチャレンジしてます。
・・・ゴメン、あたしの指が・・・。(右)

     

苗木には、一本一本添え竹をして、ひもでくくりつけます。下草刈りの時、間違って刈られないように、です。そのくらいまだ細くて弱々しい苗木です。・・・そして、一人が一枚ずつ、木の札に好きな言葉と名前を書き、自分の「お手植えの木」のそばに立てます。
これは、あたしの木です。「いつまでも青春」の下には名前が書いてあります。

 
うちのクラスが担当した地区の全景です。所々に木札があるでしょう? 
   
お仕事をした後は、やっぱ、「豚汁」でしょう!!(「せんせい、ありがとう」参照。)

  台の設営や段取りは、「男性保護者の会」のFさん中心。
今、教育に、父親の参加を促すことが緊急課題となっています。そのよき理解者が「男性保護者の会」なのです。
豚汁作りは、事務の先生方や、育友会役員のお母さん方が、前日から仕込みをしておられました。

   
後方の山で炎があがっているのがわかりますか?
阿蘇の春を告げる風物詩、「野焼き」です。

  野焼きもまた、自然と人間の共生のなかから生まれてきた知恵です。大変手間がかかるため、近年あまりおこなわれなくなっていたのですが、ここ数年、「復活させよう」という運動が盛んになってきました。昨年は、たしか、北野大さんが、「野焼きを守ろう」という講演に来られたように思います。

  

 春、といえば、異動の季節。くだんの校長センセ、御栄転で他の大規模校に行かれました。あんなに荒れていた学校を立て直した原動力の一人であったことは間違いありません。おっちょこっちょいな所があり、失敗もあったんですけど(^◇^;)、あたしたち職員をおだてて、励ますことに徹した学校運営をされました。人間的魅力にあふれた校長センセ。あたしも、大好きです。とても楽しい職員室と校長室の雰囲気は、今後も守り続けて行かねばなりませんね。
 尚、文中の熊本弁が理解不能の方は、ご遠慮なくメールでご質問下さい。(^。=)

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