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心肺蘇生のABC
Kimoto Satoshi Alpine Climbing School
心肺蘇生は、突然意識がなくなり、呼吸も心臓も止まってしまったというような場合に必要かつ有効な救命措置である。この知識や技術は山登りとは関係なく、誰もが知識として、技術として身につけていなければならないものだろう。
僕たちはふつう誰かの呼吸や心臓が突然止まってしまうなんて考えないし、考えられるものではない。しかし、それはまったくありえないことではない。それは溺水、感電、脳卒中、心筋梗塞などで容易に起こりうるものだからだ。
もし身近にいる人が意識がなくなり突然倒れたとしたら、ただ黙ってそれを見ているしかないのだろうか。ある人はすぐに救急車を呼ぶと答えるかもしれない。しかし、呼吸や心臓が止まってしまったとしたら、ことは一刻を争う状況である。たとえ、あなたが救急車を呼んだとしても、救急車が到着するまで時間がかかる。その間平均七分程度だが、知識や技術がなければ、ただ目の前で黙って見ていることしかできない。心停止状態では脳に酸素が行き届かない。このあとたとえ息を吹き返したとしても、酸欠にさらされた脳は大きなダメージを受け、障害が残ることもある。
それが第三者ではなく、わが子だったらどうだろう。何とか助けてやりたい、何とか助かって欲しい――。そう思うに違いない。そんなときに必要なのが心肺蘇生という知識と技術です。目の前の人を助けるのはあなたにしかできないのです。
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呼吸を司るのは口や鼻と肺につながる気管です。この気管が何かの拍子に詰まってしまうことがあります。そのために呼吸ができなくなってしまうのですが、呼吸ができない原因は大きく分けて二つあります。一つはのどにものが詰まってしまった場合です。これは空気の通り道である気管にものが詰まって起きます。お年寄りがよく詰まらせるもちや肉片、こどもがよく詰まらせるアメや異物などがこれに当てはまります。普通はむせって咳き込んで吐き出してしまうのですが、そんな力が弱くなったお年寄りやそんな力が弱い子供はよく詰まらせてしまいます。そんな場合は少々乱暴ですが、逆さづりにして背中をたたくのがどうやらいちばんの方法のようです。
呼吸ができないもう一つの原因は「舌根沈下」と呼ばれるものです。舌根とは舌を動かす筋肉のことで、これは気管のすぐ前、のどにあります。この筋肉が意識を失ったときに緩み、のどを塞いでしまうのです。元気なときにはこんなことは決して起きませんが、溺れたり感電したり、脳卒中で倒れたりして意識をなくしたときは必ず起きます。
意識をなくす、つまり「失神」は、脳に十分な血流が保てなくなって起きるのが普通です。これは一時的に意識障害を起こした状態です。この場合は、すぐに意識があるかないか、十分な呼吸をしているかどうか、循環のサインがあるかどうかを確認します。呼吸は耳をすまして呼吸時の音を確認したり胸の動きを見て判断します。循環のサインは心音を聞いたり脈を見ます。脈を診るのは頚動脈がいいと思います。
意識を失った人が呼吸もしていなければ心臓も動いていないという場合は直ちに心肺蘇生を行います。
そこでまずやらねばならないのが気道の確保(気道の開放)、つまり呼吸ができるよう気道があるのどを塞いでいる舌根を取り除くことです。
舌根は舌を動かす筋肉のことで、この筋肉は下あごの骨にくっついています。そこで下あごを顔側へ引っ張り上げてやります。口に手の指を入れて下あごを顔の方へ持ち上げます。この簡単な作業が心肺蘇生の基本中の基本です。誰かが意識を失って突然倒れたときは、その人を仰向けにしてあごを持ち上げます。少々乱暴ですが急を要する作業ですからきれいごとを言っている場合ではありません。乱暴でも何でも助かれば御の字です。
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さて、気道を確保しただけでその人は自発呼吸を始めたでしょうか。つぎの段階ではその点が問題になります。その人が受けた衝撃の強さによっては気道を確保しただけでは呼吸が戻らないことがあります。呼吸が始まったかどうかはその人の胸の動きを見。耳を済ませていれば簡単にわかります。
下あごを持ち上げて10秒たっても呼吸が戻らない場合は、「口対口の人工呼吸」をします。やり方は簡単です。さっきと同じように気道を確保することが必要ですから、人差し指から薬指までの三本の指で下あごを顔の方へ押し上げます。自分の口は相手の口をすっぽりくわえ込みます。あいた手は鼻でつまんで大きく息を吹き込みます。吹き込む量は思い悩む必要はありません。相手が誰であっても相手の「胸を膨らます」のがポイントです。これはあくまで口対口であって、唇対唇ではありません。相手のほっぺたを膨らます暗いでは呼吸にはなりません。
まずは四回ゆっくり吹き込みましょう。
ここまでできたらこんどは心臓の動きを見ることが必要になります。心臓は動いているでしょうか。心臓が動いているかどうかは脈を診ます。脈は首筋で診ることができます。ここで少しでも脈が振れれば一安心です。頑張って人工呼吸を続けてください。
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さて、これまで慌てていて救急車を呼ぶことができなかった場合は一刻も早く連絡してください。
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ところが、ここまでの段階で心臓が動いていないとすると一大事です。心臓が動かないということは血流がないということです。血流がなくなれば脳に酸素と栄養がいきません。脳は酸素とブドウ糖の不足に極端に弱く、四分ほどで回復できないほど大きなダメージを受けてしまいます。五分もあれば窒息死するというのはそういうことです。この場合は一刻も早く血液を送り出すことが必要になります。
止まった心臓は血液を送り出すことができません。そんな場合でも何とか血液を体中に送り出してあげなければなりません。その働きをするのが「心臓マッサージ」です。心臓には血液が詰まっているのでこれを圧迫して強引に血液を送り出すのです。
心臓を圧迫する場合、普通心臓を背骨と胸骨の間に挟んで、岩場心臓を押しつぶします。心臓から血液を押し出すと肺から自然に新たな血液が流れ込んできます。心臓マッサージの理屈はそんなことです。
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心臓マッサージの基本はうどんやそばをこねるようなものと言えばいいでしょうか。のど仏とみぞおちの真ん中に両手を当てて下側の手の手首の付け根の小指側の部分で強く押します。肩は相手の真上に持ってきて、両肘はしっかり伸ばして真下に向かって押します。一秒間に一回より早く、一分間に百回くらいのペースです。一定のリズムで行います。
一人で心臓マッサージをやるときは十五回押したら、二回息を吹き込むというペースで行います。誰かが手伝ってくれるなら五回押したら一回吹きこむというペースです。
心臓マッサージは誰かの体を使って練習してはいけません。動いている心臓に無理な力をかけると心臓が止まってしまいます。心肺蘇生のABCは、気道確保→人工呼吸→心臓摩サージの順です。Cの段階まで進んでも諦めずに頑張りましょう。
最新の研究では心臓マッサージだけでも同等かそれ以上の効果があることが分かってきました。病院外の場所でこういう状況に陥った患者の統計をとったところ、心臓マッサージだけを受けた人と心臓マッサージと人工呼吸の両方を受けた人を比べると、心臓マッサージだけの方が回復具合が良好な人の割合が多かったそうです。これは、一般の人では人工呼吸に不慣れなため、難しく、ためらったり処置に手間取ったりする時間的なロスが大きいためのようです。たとえあなたの頭の中が真っ白になって何をしていいのか分からなくなったとしても、少なくとも心臓マッサージだけは試みましょう。
自己紹介(木本哲登山および登攀歴)……山学同志会在籍一年目に培った技術を基礎として実行した初登攀〜第3登を中心にまとめた
木本哲プロフィール(「白夜の大岩壁・オルカ初登頂」のページから)……公開を取りやめています
僕のビッグ・ウォール・クライミング小史……公開を取りやめています。「目次」を参照してください
Satoshi Kimoto's World(木本哲の登攀と登山の世界)……海外の山もさまざまなところへ登りに出かけました
しぶとい山ヤになるために=山岳雑誌「岳人」に好評連載中……登山開始から山学同志会在籍一年目までの山行で学んだこと感じたこと
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