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プロジェクト XYZ
鹿児島市医師会職員・職域対抗戦の記録
それは凍てつくようなある朝のことだった。
朝の朝礼が終わりいつものように玄関脇の外でたばこを吸っていた森が言った。
「バレーをすっが!」
風が冷たかった。横でたばこを吸っていた下津は釣りが好きで磯釣りのシーズンインに思いを馳せていた。
下津はちらっと森を見た後しばらく無言の後つぶやいた。
「すっなら ひといでせえ!」
森は続けて言った。
「おいたっもよう、ちったぁバレーがでくごっなったし、バレーの経験のある人間は多かなかけ?」「職場ん対抗試合よぉ」
たばこの煙を上に噴き上げながら下津は言った。
「だいがすっとよ」
「南ぃ、さすっが」
さらに森は続けて言った。
「職場ん、親善大会っちゅうこっでよ〜、どっか体育館をおさえてよ〜、事務長ぃ許可をもらって予算をとっがなれば他んしも参加してくっち思うけどなぁ」
「そいでよ、おいと、おまいと、たけとよ〜、みなみとよ〜まきとよ〜・・・」
森の頭の中をいろんなアイデアが駆け回る。
[そいと、医局にも声をかければ、チームはでくっかも」
「本会もよ、検査センターも永吉がおっでわい」
下津は思った。
「バレーにも慣れてきたしね、まぁ試合もしろごちゃらいね。そんならやってみろかい、おもしっとかかもしれん」と
続けて森が言った。「そいでよ、西本がよ〜、宇都先生とチームを作ってくっはいやっで、あそこには勝とごたらいね。鮫せんせいんとこはそげなぁ無かし」
下津は意を決したような低い声で言った。
「すっなら勝たんと意味がね〜ぞ」
「よし、みなみぃいうて書面をまわすっが」「そいでよ、まきと、たけと、かさ課長に声をかけっせぇ、ちったぁ練習もせんとなぁ」
男たちの挑戦が始まった。
南は早速、話をまとめた。こういったことの根回し、段取りには人一倍たけていた。
職場の皆に案内を出した。
案の定、西本は宇都、野間口、板元をまとめてチーム「オレンジアタッカーズ」を作ってきた。これまでの練習試合から彼らの実力は十分承知していた。最強の陣容だった。対して男たちはチーム「よこはば」を結成した。全部で6チームがエントリーした。会長の鮫島は福島と組んでお笑い路線できた。中央事務局も経験者は少なく、永吉は室屋を引き込んで出てきたが経験者は女性が多い。オペ室も経験者が多いが女性のみだ。顔ぶれからして敵はオレンジのみだった。だが、男たちも過去の経験はなくここ2〜3年練習しただけのメンバーだった。
男達の試練が始まった。
男たちは仕事が終わると地下室に行き、壁に向かって両手を高く上げタイミングを合わせてぴょんぴょん飛び上がるのだった。
それを見たまわりの人々はなにやってんか、はじめ理解できなかった。二人のお尻の格好から何やら練習してるようには見えたらしい。(クレヨンしんちゃんの踊りの練習ではない)が、真剣そうな二人の様子に誰も声はかけられず気づかぬ振りをした。
「ないっ、しちょったろかい?」。正しくブロックの練習に他ならなかった。
男達にはどうしても超えないといけない壁があった。宇都と野間口のアタックをブロックすることだった。アタックの高さ・強さといい、バレーの経験といい、戦術といい、男たちには何ひとつ勝るものはなかった。彼らへの挑戦は無謀と言うほか無かった。
オレンジは密かにある場所で練習(特訓)を積んでいるとの噂がたった。彼らの強さは誰もが認めるところであり、彼ら自身優勝を公言することをはばからなかった。どのチームも優勝はオレンジだと認めるところであり、オレンジに立ち向かって優勝をねらうという意気込みははじめからなかった。
男たちは考えた。勝つとすれば、あのアタックをブロックすることだと。幸い、森は180cmを越える巨漢であった。
だが、南はそんな二人をよそに大会の運営のことで頭はいっぱいだった。たけもまきもぴょんぴょんどころではなかったのだ。男たちに運が向くとは思えなかった。
1994年3月、大会ははじまった。
男たちは密かに「敵はオレンジ!」と考えていた。幸いオレンジとの対決は最終5試合目だった。男たちは誓った。「よしなんとか、最終試合まではミスせんよう頑張ろう!」と。
だが、男たちの気負いは裏目に出た。勝てるはずだった3試合目の検査センターの室屋、永吉に不覚にも完敗してしまった。男たちはがっくり肩を落とした。
オレンジは初戦から失セット0の快進撃を続けていた。どことも勝負にならなかった。
男たちは絶望の淵に立たされた。だが、オレンジとの戦いを前にすごすごと引き下がるわけにはいかなかった。地下室での壁に向かってぴょんぴょんぴょんが無駄になる、南の苦労が無駄になる。
その後を何とかしのぎ最終戦を迎えた。男たちの顔には緊張があった。だがもう絶望の表情はなかった。「なんとかここに勝ちたい」いつしか皆の気持ちが一つになっていった。
対するオレンジはここまで難なく4連勝し、ここまでの楽勝ゲームに余裕の表情を浮かべていた。みんなの顔には笑みがこぼれていた。
試合がはじまった。男たちは必死だった。チームが一丸となって戦った。「何とか、ボールに食らいつくぞぉ」。ここに来てレシーブがアタックがトスが決まる!。男たちは完全に波に乗った。
オレンジは慌てた。みんなの顔から笑みが消えた。西本はチームの気を引き締めようと声を盛んに出し、リズムを作ろうとした。宇都と野間口は力でねじ伏せようとした。だがオレンジは出だしを油断し、つまずいた。
男たちにも余裕はなかった。次はとられるかも知れない。森と下津はチームに気合を入れた。気を抜いたらやられるぞ!!
二セット目、オレンジにはまだ焦りがあった。不覚をとったことへの不満があった。次も力でねじ伏せようとした。相手はしぶとい。思うように決まらぬアタックにレシーブに焦りが積み重なって行く。接戦となった。根負けしたほうがとられる。宇都と野間口は思わぬ展開に自制心を失って行く。西本は流れを引き寄せようと必死にレシーブし、トスを上げる。ちょっとした流れで試合が味方にも敵にも傾くことを彼女は十分知っていた。
森も下津も武も南も牧も笠も、男たちはボールに食らいつく。流れをつかむとすれば、それは経験の差ではない、集中力の差だと彼らは気づいていた。「気を抜くなよ!」誰彼となく声が上がる。
息詰まる試合にまわりの声援も大きくなった。最終戦に、他の参加した選手みんなが集まり注目し、興奮し、男たちの一挙手一動に歓声があがる。こんな緊迫した接戦になろうとは誰も想像しなかった。どちらが勝ってもおかしくない。試合は進む。緊迫した見事な試合に皆が酔いしれた。
終了の笛が鳴った。大歓声が上がった。男たちは飛び上がって喜び抱きついた。会場は興奮のるつぼと化した。オレンジに勝った。
森が泣いた、下津も泣いた。チームの皆に熱いものがこみ上げてきた。誰の顔も誇らしげに輝いていた。努力が実った瞬間だった。
宇都や野間口、西本は唇を噛んだ。だが、悔いはなかった。精一杯やったのだ。
やがて試合を終えた両チームに笑顔があった。他のチームにも笑顔があった。
南の顔には別な意味での安堵の笑みがこぼれた。大会を成功させたのだ。
優勝はオレンジ。皆が盛大に拍手、祝福した。森と下津は充実感でいっぱいだった。優勝は逃したがお互いの健闘を称えねぎらった。
男たちの戦いは終わった。他のチームに希望を与えたのは確かだった。
この後、下津は中央事務局へ移動した。森、南、武らはチーム名を「ブラックジャック」と変え、6ヵ月後の第2回大会で「オレンジ」に競り勝ち念願の優勝をものにし雪辱をはらした。2強時代の始まりである。この2チームが事実上大会をリードし、お互いに最大のライバルと位置づけ火花を散らした。
第3回大会では「オレンジ」が猛烈な巻き返しで「ブラック」は完敗した。チーム「オレンジ」は再び頂点に輝いた。
さらに第4回大会では今度は「ブラック」が巻き返し優勝した。
中央事務局へ移った下津はその後、下位に甘んじていたが、「オレンジ」「ブラック」のデッドヒートを横目にいつか食い込んでやると時を待っていた。
その時は2年後にやってきた。移動で、センターの東と永吉、「ブラック」の牧がチームに加わり、大澤がいた。これに経験者の柳田を加え中央事務局の戦力は大幅にアップした。大澤は180cmを超える体格で、その風貌は試合前から相手を威圧した。下津はそれまでのチーム「ダイナミックス」を「ブルーハミング」と名を変え参戦。
幸か不幸か「オレンジ」はメンバーの移動でチームを結成できず、ライバルは「ブラック」のみだった。「ブルーハミング」は大会に旋風を巻き起こし、第5回、第6回大会を連覇し、みごと一時代を築いた。
第5回大会で、「オレンジ」の西本はくやしい思いをしていた。チームさえ結成できれば。今は散っている野間口ほか以前の仲間を呼び寄せて早く復活させたいと願った。復活できれば「ブルーハミング」には負けない!。が、第6回大会でも念願はかなわなかった。
彼女の念願がかなったのは1年後だった。第7回大会に宇都をOB参加として登録、野間口ほかを呼び寄せ名門「オレンジアタッカーズ」を復活させた。1年間の悔しさをばねに彼女はただならぬ思いだったが一年のブランクに一抹の不安もあった。だが、そのブランクを微塵も感じさせない活躍で「ブラック」を完破し、「ブルー」との接戦を征し、みごと優勝を勝ち取った。「オレンジ」の強さはいまだ健在と感無量であった。「オレンジ」は第8回大会ではさらに河内をも加え、他を圧倒する戦力で万全の体勢を敷き連覇し有終の美を飾った。

※大会は第8回をもって終了。参加メンバーの構成が難しくなったり老齢化?したりしたためと思われる。優勝には関係なかったチームもそれぞれに楽しいひと時を得たのは間違いなかった。予断だが、会長鮫島は名をくるくる変え「ゴーストバスターズ1.2」「ブービーズ」「ビューティスリム」「ランナウエイズ」といろいろ変化をつけたが結局、お笑い路線としか受け止めてもらえず相手を圧倒することはできなかった。検査室や放射線室、検査センター、看護学校もいろいろ名を変えてきたが、「楽しいバレー大会」の担い手として十分意味のある参加だった。
おわり