AALA最近の動き 05年9月版

T ドイツ左翼党の前進をどう見るか

ドイツで総選挙が行なわれ、左翼党が躍進した。私は、最初その意義をよく理解できなかった。

ご承知のようにこの国の選挙制度には5%足切り条項があって、4.9%でも議席はゼロとなる。

左翼党の実質的な主体である民主社会党(PDS)は、98年の選挙では5%を上回り36議席を持っていたが、

02年総選挙ではわずかの得票減で5%を下回り、小選挙区での当選2議席に減少してしまった。

敗因は、ギジ党首が公務で稼いだマイレージを私用に使ったのがバレて、議員を辞職というケチな話である。

したがってもう一度選挙をやれば、またPDSは30、40の議席くらいは獲得できるだろうと思っていた。

それにラフォンテーヌら旧社民党左派の票を加えれば、数だけから言えばこのくらいの数は予想できない数ではない。

ただ、選挙というのには勢いが必要である。今回の小泉など勢いだけで勝ったようなものだ。

それがなければ、二つがくっついてもかえってマイナスになる場合もあるから、やはり善戦というべきだろう。

 

しかし、ここ数日の新聞を読むと、左翼党前進の意義はたんなる議席数の問題ではないようだ。

私の見るところ、意義は二つある。

まず第一に、旧西独地区で4.9%の得票を獲得したことの意義がたいへん大きい。

これは西独だけでも、比例議席を獲得できるまでに力が強まったということである。

今回の選挙を評価する上で最大のポイントは、この旧西独部5%をめぐるものであろう。

 

これがPDSの力によるものなのか、ラフォンテーヌら旧社民党左派の力によるものなのか。

旧西独部における反PDSのアレルギー感情は、かなり消失したと見てよいのか。

ラフォンテーヌ派は、PDSと結びつくことにより議席を獲得できたわけで、それはそれで良いとして、

旧西独部での得票率については、PDSとの連合が良い結果となったのか、かえって悪かったのか。

PDS=ラフォンテーヌ連合は持続・発展可能か、それはネオリベラリズムに抗議する国民の受け皿となりうるのか。

 

もうひとつは、ドイツの進路をめぐる三つの対抗軸が示されたことである。

そして左翼党が左翼や旧東独だけではなく、国民の圧倒的多数を代表しうる政党として登場したことである。

支配層は社会民主党とキリスト教民主同盟の対決を大々的に宣伝した。

しかし選挙はこの対抗軸が欺瞞的なものでしかないことを明らかにした。

そして大企業本位の政治か国民本位の政治かという、真の対抗軸を浮かび上がらせた。

そして国民に負担を強いる両党に強い批判を浴びせた。両党をあわせた得票率は8%近い減少を示した。

 

選挙の結果を通じて、今もうひとつの対抗軸が浮かび上がってきている。

それは社会民主党とキリスト教民主同盟がともに進もうとしている「アングロサクソン型資本主義」か、

ドイツの戦後復興以来の伝統である「ライン型資本主義」を新たな形で発展させる道か、という対抗軸である。

ライン型資本主義については「赤旗」に掲載された山田俊英記者の解説が参考になる。

「社会的市場経済」は第二次大戦後、西ドイツ建国の際、基本法(憲法)に盛り込まれた経済社会の原則です。市場経済の中で政府・労働組合・資本家が合意を作りながら公正な社会を形成していく考え方です。一般にはドイツの大河の名をとって「ライン型資本主義」とも呼ばれてきました。

元々この考えを基本法に書き込んだのは、CDUのアデナウアー元首相ら保守の政治家たちでした。保守政党も市場万能主義を採らないのがドイツ政治の特徴です。…(選挙後)シュピーゲル紙はCDUが後退した大きな要因として、同党の政策の下で「ライン型資本主義」が「抑えつけられほこりをかぶった」ことをあげました。

今回の選挙の出口調査で、左翼党の支持層には微妙なものがある。たとえば旧東独部での支持率は25%、失業者の支持率も25%である。これに対し労働者の支持率は12%で、全体から見れば決して低くはないが、強力な支持を受けているともいえない。

二大政党がこぞって、新自由主義改革に向かって驀進している今、「社会的市場経済」の原則を守り、これを民主的な方向で発展させようとする政党は唯一左翼党のみとなっている。その背後には失業者や労働者だけではなく、公正な社会を守りたいという圧倒的多数の国民の声がある筈だ。

山田記者によれば、両党とも言葉の上では「社会的市場経済」の原則を守ると言っているという。ここは日本との大きな違いである。

我々の経験からすれば、躍進の後には一段と強い逆風が吹くことになるだろう。その中で圧倒的多数の国民の声を背景に、21世紀の進路をめぐる対抗軸をどれだけ鮮明にしていけるか。

日本とドイツが変われば、世界は変わると思う。そのことは多くの人々も共感すると思う。左翼党の今後の動きに期待したいところである。