紹介1 インドの民衆運動
世界社会フォーラムのホームページから
今日,インドは世界最大の人口を抱える国です.現代インドのイメージはしばしば貧困・低開発などに象徴されますが,それはインドという巨大な国を表すイメージの一面に過ぎません.
インドに貧困や低開発というイメージを押し付けるのは,経済第一主義と帝国主義的グローバリゼーションの見方です.インドには帝国主義に対する抵抗の考えがあります.インドの国民は多様なイデオロギー・路線・要求を持っています.しかし現在世界中に押し付けられているネオリベラリズムに対抗するという点では一致しています.
インドには言語・宗教・社会・文化の驚くべき多様性があります.したがってそのあいだには常に強い緊張が存在しています.それは混乱を生むこともあります.しかしそれらが統一の方向に進めば,その多様性は創造力をはらむものでもあります.
反動勢力は常にこの統一を破壊する方向に動いてきました.進歩勢力は複雑な経過をたどりながらも,この統一を少しづつ強化する方向に努力しています.
インドで産業の発展が遅れた理由
もともとインドに産業がなかったわけではありません.それらは英国植民地時代に破壊されたのです.
独立後,インドは強力な公共部門を建設することで産業発展を図りました.化学,電力,鉄鋼,輸送,石炭,繊維,金融などの基幹産業は強い国家統制の下に置かれました.輸入は高関税と量的輸入規制で制限され,国内産業の発展が図られました.これらは他のアジア諸国の多くが,産業育成に無策であったのとは対照的でした.
これらの産業政策により,国内産業は急速に拡大しました.発達した労働組合は,帝国主義者によるグローバル化を防ぐのに大きな役割を演じました.
しかし1980年代に入って,対外投資を受け入れるため,それまでの産業政策は大きく転換しました.世銀・IMFの融資条件は経済マクロを大きく規制するようになりました.
特に91年以降,LPGと呼ばれる経済構造の変革が急速に進行しました.LPGというのは自由化(Liberalization),民営化(Privatization),世界化(Globalization)の頭文字をとったものです.こうしてインド経済は,世界市場経済の中に投げ込まれることとなりました.
長年,農民と消費者を保護してきた助成金システム・農産物の価格保証・食糧配給制度は解体されつつあります.
これらの矛盾は最下層カーストであるダーリットにしわ寄せされ,封建制度の残滓である筈のカースト制度がむしろ強化される結果となっています.
正確に言えばダーリットはカースト社会の外に排除され,かつて不可触賎民(アンタッチャブル)と呼ばれていた人たちです.
さまざまな運動の統一
人口10億のインドで4人に一人はダーリットと呼ばれる貧困者たちです.ダーリットは,自由化によって苦しめられている伝統的な職人,農村部の貧困者の主要な出身階層です.ダーリットの権利は憲法に保障されていますが,社会からの非人間的な排除,資源からの排除で苦しまなければならない状況は変わっていません.
そうである以上,ダーリットの運動はますます発展せざるを得ません.
この国の女性も,進んだものと遅れたものの双方から被害を受けている階層です.この国の多くの人々が生活に苦しんでいるからこそ,女性にそれがしわ寄せされているのです.
だからこの国の女性運動は,たんに性差別の問題を取り上げるのではなく,政治の革新を中心課題として離さないのです.そして異なるタイプの運動を幅広く統一する柔軟さを失わないのです.
コミューナリズム(宗派主義)は,グローバリズムと並んで,インド社会が闘わなければならない重大な問題となっています.
インドの民衆運動の中には,これまでお互いに関係を持つことを警戒するセクト主義が見られました.しかしそれはもはや消滅しています.そしてこれらの共通の敵と共同して闘うようになってきています.
ガンジー主義者,社会主義者,共産主義者,さまざまな社会運動,ダーリット組織がともに立ちあがりつつあります.それはただ選挙のときだけではなく,日常の市民活動の中でさえそうなのです.
最近グジャラト州で起きたイスラム教徒の大量虐殺事件は,市民社会を衝撃となって走りました.宗教ファシストの虐殺犯と,その背後にいるBJP政権とに対抗するため,そして世俗主義(セクラリズム)を守り支えるために,多くの組織が立ちあがりつつあります.
ムンバイ世界フォーラムは,このような多様性を内にふくんだ統一の力を誇示することになるでしょう.
我々はこのフォーラムで,世界的なレベルだけではなく国民的レベルでも,民衆運動の直面する課題と統一のための実践について,豊富なヒントを提供することができるでしょう.