紹介3 フォーラムの雰囲気

「社会主義労働者」紙のルポ「ただひとつの敵との無数の闘い」より

 

どこまでも続く旗の波とその旗の下の無数の群集が,会場内の道路のすべてに満ちあふれました.ムンバイの第4回世界社会フォーラムが始まったのです.

人類の1/4が住むというこの亜大陸から,何百もの住民組織がこの会場に結集しています.至る所で人々はシュプレヒコールを叫び,歌い,踊っています.会場中に精気がみなぎっています.

地元ムンバイの労働者数千が行進しています.そのなかには建設労働者、船乗り、金属労働者、銀行、保険労働者の旗があります.女性労働者もたくさんいます.彼らの表情には,インドで最も重要な産業・金融のセンターで組織された労働者の誇りが浮かんでいます.


もちろん、世界社会フォーラムにもいくつかの問題がありました.それがまったく新しい運動であり,とてつもなく大規模なイベントである以上当然のことです.

フォーラムは,数千の大規模集会,数百の中規模セッション,百名以下の懇談会の三つに分類されていました.大規模集会のためには最大5千の椅子を配置する5つの大ホールがあてられました.しかしそれらの集会のほとんどは,数百の参加者しか結集できませんでした.指定されたスピーカーは発言時間を守らず,その結果フロアとのディスカッションのための時間はほとんど与えられませんでした.

しかしテント小屋で持たれた中小規模のセッションは,これらの弱点を補って余りあるものでした.

会場の一角には,200〜300人の入るテント小屋が100軒近くあります.道の両側に立ち並ぶテント小屋を一つ一つ見ていきましょう.ここのテントでは,インドの労働者階級の9割が労働基本権が保障されないまま働かされている現状が告発され,彼らの人権をいかに守っていくべきかが討論されています.

その隣のテントでは,演者が結婚持参金の支払いと家庭内暴力について厳しく糾弾しています.道の向かい側のテントは入り口まで人があふれています.インドとパキスタンとあいだに平和を実現するために何が必要か,議論が戦わされています.

テント通りを歩いて,メーンストリートに出ようとする角のテント小屋も大盛況でした.このセッションのテーマは「グローバリゼーション,それといかに戦うか」でした.

大通りに出ると,もうそこはいつ終わるとも知れないパレードでした.それぞれの行列は彼ら自身の特定の要求を,フォーラムの運動に刻み込もうと必死です.


会場の声をいくつか拾ってみました.

1.IQBAL UDDIN パキスタン

我々パキスタン人とインド人とは、50年以上も,お互いに憎みあうように教えられてきました.しかしこの憎しみや恐れを植えつけてきたのは,我々の支配者たちです.パキスタンの普通の人々は、インド人を敵とはみなしていません.

世界社会フォーラムは、我々が一緒になることを助けてくれました。パキスタンの代表団は、インドの人たちによって歓迎されたのです。

2.SANJEEVANI KHER ジャーナリスト、ムンバイ

南アジアでは、コミューナリズム(地方主義)が最も大きい危険を成しています。

一昨年,何千ものイスラム教徒がヒンズーの過激派によって殺されました.この事実を全てのインド人は恥ずかしく思わなければなりません.しかし、ここムンバイのメディアは、それを恥じるどころか火に油を注ぐような報道を繰り返しています.彼らはそうして、インド人同士を「分割して支配する」戦術をとっているのです。

私は、WSFを通じて地方主義と宗教原理主義に新しい抗議が生み出されることを望むし,それは可能でしょう.

3.SAIDUR RAHMAN バングラデシュ代表団の一員

いまバングラデシュでは,自由にイラク戦争のような問題について語ることはできない状況になっています.だからここに来ることは、解放されたような気分です。

WSFは私に促しました.戻って、真の民主主義バングラデシュのために戦うように.

4.MANESH SARVGOD アンベードカル学生協会委員長

カースト制度は,我がBJP政府によって,支配のためのひとつの兵器として使われています。

彼らは言います,我々が不浄であると.

彼らは,我々が良い職を期待することができないように望んでいます.彼らは高等教育から我々を排除しようとしています.時に彼らは,小学校からすら我々を排除しようとします。

我々はここWSFで,我々と並んで戦うパートナーを見つけました。私はここで、労働組合の人々に会うことができました.彼らは我々の主張を支持してくれました.

5.STANLEY SIMPSON グローバリゼーションに反対する太平洋ネットワーク

多くの人々は、フィジーが小さなパラダイスの国であると思っているでしょう.しかし我々もイラク戦争の影響を受けているのです.

米国は私の国に来て、傭兵をリクルートしました。イラクでの警備員に使うためです.

彼らは知っています.我が人民が貧しくて、お金に誘惑されやすいのを。だから彼らは,かつてフィジーを核実験場としたし,今は安くてつぶしの利く労働力の供給地にしようとしているのです.

6.MICHAEL WARSHAWSKY イスラエルの平和活動家

パレスチナは今日,反戦争と反世界化運動の象徴となっています.なぜならパレスチナは,人民への抑圧の象徴であると同時に,人民による抵抗の象徴でもあるからです。

人々は、いまパレスチナの旗を掲げて行進しています.何世代も前の人々が,ベトナムの旗を掲げた同じ道の上で…


10万人の参加した開会式を除けば,今度のフォーラム中最大のセッションが「グローバリゼーションと経済・社会保障」だったでしょう.5千人以上の聴衆が2時間半にわたり,演者の話に耳を傾けました.

最初の演者はジョセフ・スティグリッツ.ノーベル賞を受賞した経済学者です.世界銀行の副頭取の地位にありながら国際通貨基金(IMF)政策を批判し,事実上解任された経歴の持ち主です.

次にエジプトのサミール・アミンとインドのプラバト・パトナイク.いずれも反資本主義の立場をとる経済学者です.さらに南アフリカのトレヴァー・ングワネとインドネシアのジタノキ・サリー.ふたりは労働運動の指導者です.

5人の演者全員が,IMFによって強要され各国政府によって受け入れられたネオリベラリズムの政策に対して痛烈な批評を展開しました.ただし,当然のことではありますが,それに対する対案の提示ではそれぞれが異なっていました.

スティグリッツは貿易の自由化に賛成し,市場経済を支持する立場を示しました.同時に最も貧しいものが保護され,生活水準が向上するために一定の政府の介入が不可欠だとして,国家による民主的統制と所得再配分機能の強化を訴えました.

パトナイクは,新自由主義ではなくまさに資本主義そのものが誤っているのだと主張し,スティグリッツと真っ向から対立しました.そして財政マクロのみならず産業構造まで踏み込んだ政府の強力なイニシアチブが必要だと強調しました.

サミール・アミンはネオリベラリズムが拡大する背景として,資本主義の全般的危機が繰り返され,人民との矛盾を激化する構造調整政策が支配階級の必然となっているとし,ブッシュの戦争挑発姿勢もたんなる個人的資質の問題ではないと強調しました.そして世界がアリ地獄的な危機から脱出するためには,「南の闘う諸国家」がより有機的に結びついた新たな同盟を結成しなければならないと訴えました.

トレヴァー・ングワネとジタノキ・サリーはともに,自らの闘いは世界の貧しい地域における貧しい人々の闘いではなく,世界を支配する資本家たちとの共同の一部なのだと訴えました.それは多国籍企業の指導者として他国の産業を動かし,資金の投下や移動を決定する人々です.そして彼らが所属する先進国で政府を動かし政策を決定している人々です.

トレヴァーは,「いま私たちが必要としているのは,まさにブッシュの戦争に反対する運動のような,急進的な直接的な国際的統一行動だ.そして資本主義の利益とパワーを生み出している労働者の国際的な団結だ」と訴えました.

ディタは,資本家によるグローバリゼーションが,広大な第三世界の諸地域でいかに戦争,恐怖のコミューナリズム,民族・宗教をめぐる争いを作り出していったかをのべ,それらすべてに新しい貧困の増大が関与していることを明らかにしました.そして,もとめられているのは経済政策上のオルタナティブではなく,まさに政治的なオルタナティブ=社会主義であると強調しました.