付録 シリン・エバディの言葉
世界社会フォーラム(ムンバイ)での発言から
皆さんはシリン・エバディをご存知でしょうか? 去年のノーベル平和賞受賞者で,イランの人権活動家です.CNNテレビのニュースで受賞の感想を述べていたあのおばさんです.あのおばさんがシリン・エバディという名前だったことさえほとんど記憶にないでしょう.まして彼女が何を考え何を実践してきたかなど,まったく報道されていません.
意外な受賞と思われるかもしれませんが,彼女の発言を聞けば思わず襟を正す気分になるでしょう.ムンバイでの発言の要約を紹介します.
「新しい世界は可能だ」と信じて,ここに集まった皆さん.私は信じています.グローバリゼーションを進めるとき,「人間」がその中央にいなければならないと.
グローバリゼーションが不平等の同義語であってはなりません.皆さん,15年前を振り返ってください.世界のうち54カ国では,1990年より生活水準は低くなっています.約12億人の人々が,一日1ドル以下の極端な貧困に置かれています.中でもアジアは最大の貧困人口が集中しています.世界で四千万人の人々がエイズに感染しています.何らの対策がとられなければ,10年後,その数は1億に達するといわれています.
自由と民主主義そして人権は,経済と離れて存在しているわけではありません.極端な貧困は,それ自体が人権の侵害です.人々の生存権は,保健・教育・食物・住宅その他あらゆる物を奪われたとき,同じように奪われるからです.
人々が極端な貧困にさらされるとき,さらなる人権侵害が生まれます.資源がなければ公平な裁判も,表現の自由も、公平な選挙も,絵に描いた餅でしかないからです.
女性は、人々が極端な貧困にさらされるとき,最初の犠牲者となります.世界中の多くの国で,女性は法律的にも実生活の上でも,差別にさらされています.野蛮で封建的なコミューナリズム(宗派主義)が,それを後押ししています.私たちは,私が男であろうと女であろうと,父権的な文化と闘わなくてはなりません.それは「世界の民主的なグローバリゼーション」にとって不可欠の課題です.
女性と子供たちは、また今日の戦争の最初の犠牲者でもあります.戦争犠牲者の9割は民間人ですが,その大部分を女性と子供たちが占めています.
皆さんはルワンダの悲劇を覚えているでしょうか.50万人が野蛮な方法で虐殺されたあの時からもう10年が経とうとしています.しかし今も紛争は続いています.国際的マスコミが報道しようとしまいと,それは続いているのです.コンゴでは八年間の内戦で300万人が殺されました.
ブッシュと世界の支配者たちは,そのような事実に目をそむける一方で,テロリストの脅威を声高に叫んでいます.
たしかに,法の支配のプロセスを尊重しテロリストの攻撃と戦うことは,合法的であり必要なことでもあります.しかし、私が強調したいのは,米国などいくつかの国が,「テロリズムに対する闘い」という装いの下で,国際人道法にそむく行動を繰り返している事実です.
私たちの隣国アフガニスタンの状況は毎日悪化しています.さまざまな留保をつけたとしても,アフガニスタンが国際法上の取り決めを無視して乱暴に侵略されたのは間違いのない事実です.民衆の怒りは,再び煮えたぎりつつあります.新しい内戦がいつ何時爆発するか,それはほとんど時間の問題です.
もうひとつの隣国イラクでも状況は同様です.イラクは乱暴に侵略されました.人々の怒りは統御不可能な水準までに達しています.その爆発を防ぐためには,できるだけ早く,実効的権力がイラクの人々に譲渡されなければなりません.
我がイランでも,状況こそ違え同じように人々の怒りが高まっています.特に青年を中心に,民主化をもとめる声が強まっています.しかしイスラム保守派はさまざまな手段でこれを抑圧しようとしています.ハタミ大統領の下でも状況は少しも良くなっていません.監獄にはいまだに多数の「良心の囚人」が収監されています.私自身も人権擁護活動を理由に,何度となく投獄されてきました.
皆さん,声を一つにしましょう.とりわけ,それぞれの国のそれぞれの現場で人権を擁護するために闘っている活動家を,国際的に保護する人々の連帯を強めましょう.