“生存のためのサミット”ワシントン宣言

IPPNW第15回世界会議 ワシントンDC 2002年5月

 

IPPNWの第15回世界総会は,「生き残りのためのサミット」と題して,2002年5月3日から5日まで,ワシントンDCで開かれました.約400人医師・医学生・支持者が結集しました.
米国におけるIPPNWの国内組織である「社会的責任のための医師会議」もその成功のために力を尽くしました.以下はその大会宣言の全文です.

 

 

核の脅威は続いている

私たち,第15回世界会議の参加者は,昔の人類の敵だった飢え・疫病・貧困・戦争が,いまも毎年,数百万の命を脅かし続けていることを想起します.いまはそれに新しい急性の脅威が加わっています.

それは大量破壊兵器、地雷、携帯兵器,世界的な環境破壊です.それらはグローバルな不平等によってもたらされ,南の半分と北の半分のあいだの格差を固定しています.

私たちの世界はますます相互の依存を強めています.そして人類が直面する重大な脅威はすべて,国境を越えた問題となっています.

どんな強国であっても,ただひとつの国で対応できる問題ではありません.これらの脅威は、国際的な協力,国際機関の強化,公正で平等な経済秩序,そして国際法のもとでの支配をもとめています.

核戦争の危険性は、人類の生存を脅し続けています.

私たち医師は,たった一発の核爆発でも,計り知れない犠牲をもたらすことを分っています.それは,地球上のどんな都市の医療施設でも対応できない数の犠牲者です.

核兵器の使用は道徳的に擁護できません.

国際司法裁判所は核の使用と核による脅迫を違法であると宣言しました.

しかしいまだに,核兵器は多くの国で軍事戦略に組みこまれたままです.そして核兵器の使用の可能性も,常時存在しています.とくに長年にわたるインドとパキスタンの紛争では,核使用の可能性が低下していません.それもこれまでと同じままです.

核戦争は、止められなければなりません.核兵器は、廃止されなければなりません.

テロは軍事的手段で解決できない

わたしたちは9月11日に起きた恐ろしい,不合理な事件を断固として糾弾します.それは最近起きた多くのテロ活動のなかでも,最も劇的なものでした.これに限らず,今やテロリズムは多くの場所において日常生活を脅すものとなっています.とくにイスラエルとパレスチナにおいてはそうです.

このような出来事が,危険な軍事的行動を正当化するために用いられるのは恐ろしいことです.いまや,絶え間なく続く軍事行動が,世界を永久的な戦争の足下に置こうとしています.

医療に携わるものとして,憂慮する地球市民として,わたしたちは軍事的な解決に頼ることを拒否します.テロに対しても,武器の拡散に対しても,戦争は小手先の解決でしかありません.

わたしたちは,とくに一方的な先制攻撃について,それが良い行動だとは信じません.それは平和と安全を望む世界の人々にとって,法に則ったものとは言えません.

暴力の応酬,それが言葉によるものであろうと行動によるものであろうと,健康を侵食します.この暴力のサイクルは,非暴力という対応をつらぬくことによって打破されなければなりません.

いまや人類の苦悩となっている,この恐ろしい問題には,軍事によらない解決策があるはずです.わたしたちは,それを探る必要を断固として主張します.

国際的な手段のなかには対立を抑制し,戦争の脅威を防ぐ可能性を秘めた方法がたくさんあります.米国は,他の国々とともに軍備の増強を進めていますが,その一方で多くの建設的な可能性を切り捨てています.

差し迫った脅威としての小型戦術核兵器

いま世界は核の廃絶に向かって進もうとしています.しかし米国Nuclear Posture Review(NPR)は,核廃棄を目指す一切の動きに逆らっています.NPRは何千発の核兵器を米軍の戦略の永遠の主役に仕立て上げました.NPRは包括的核実験禁止条約その他の多国間協定を無視しています.

それは宇宙の軍事化を推進しています.それは非核国家に対する核兵器の使用を正当化しようともとめています.

そして戦術核兵器です.いま研究されている戦術核兵器は,通常兵器との境界線を道徳的にも法的にもあいまいにさせることを狙っています.

この境界線こそは核兵器が開発されて以来56年のあいだ,核兵器の使用に対する最も強力な防壁でした.この境界線は決してあいまいにされてはならないし,乗り越えられてはなりません.

小銃器と軽兵器

わたしたち32カ国から集まった医師は,国連憲章そして世界人権宣言を確認します.

わたしたちは戦争を放棄します.そして戦争と紛争を外交的・平和的に解決することをもとめます.

現代における人々の軍事的紛争は,どんなに慎重であろうと,意図的ではなかろうと,かならず,民間人の犠牲者をともなうことを特徴としています.

小銃器と軽兵器が世界的に拡散しています.それは多くの虐殺を引き起こしてきました.武力紛争においても国内での暴力についても,言葉に表せないほどです.

小銃器が目標とするのは,最も傷つきやすい人々です.経済的に抑えつけられ,政治的に不安定にされた人々です.

地雷禁止条約が採用されて以降,対人地雷で強要される犠牲は減少しました.しかし米国・ロシアなど鍵を握る国が,いまだに条約の批准を拒否しています.そのあいだにも,地雷は人々や家族,ひとつの社会全体の生活を荒廃に追い込んでいます.

これは人道的に見て許しがたい悲劇です.

地球環境の悪化

地球気候の変化は,核戦争と同様に,健康に影響をおよぼし,人類の生存そのものにとって脅威となっています.

米国は世界のエネルギーの25%を消費しています.そして世界の炭素排出物の20%を作り出しています.それにもかかわらず,米国はこの脅威を解決しようとする国際的努力に背を向けています.

同時に,いくつかの新しいテクノロジーが新たな健康への脅威を作り出しています.そして有毒な化学物質も増えています.それは食物連鎖のなかで生物学的にますます濃縮されています.これらは人間にとっても動物にとっても,その健康な生活を徐々に蝕んでいくことになるでしょう.

科学と医療にかかわる倫理綱領が打ち立てられるべきです.それは予防の原則に基づくものでなくてはなりません.なぜなら,さまざまな兵器やバイオテクノロジーのもたらす結果は予測不能なところがあるからです.科学と医療にかかわる倫理綱領こそが,人類と生きとし生けるものを,それらの結果から保護することとなるでしょう.

さまざまな兵器やバイオテクノロジーは,平和と安全,そしてわたしたち全体の健康に対して,威圧的に攻撃的に向かい合っています.それらは一体となって,わたしたちの生存そのものを脅かしています.

それらを一つ一つバラバラに解決していても効果はありません.しかしわたしたちには,科学的な目と医学的な知恵があります.何かを作り出す力があり,国際的な協力機関があり,これまでに築き上げた道徳的・法的な規範があります.それらを用いるならば,人類全てのためにゆたかで持続可能な生活を作り出すことができます.

貧富の差の拡大

世界における富めるものと貧しき者の格差はますます広がっています.それは地球上の争いという火に注がれる危険な油となっています.それは縮小されなければなりません.

そのためには,先進国が国際発展への拠出を増大させ,援助を増加し,債務奴隷状態におちいった発展途上国の支払い義務を軽減することが求められます.

世界の国際金融メカニズムは,もっと改革され民主化されなければなりません.そしてもっとクリーンで効果的なテクノロジーが導入・推進されなければなりません.

わたしたちの目標

わたしたちは,医療に専門家としてかかわる全ての仲間に呼びかけます.世界の国々に,その指導者たちに,そしてこの地球の全ての人々に呼びかけます.以下の目標に向かって,わたちたちとともに,倦まずたゆまずに前進していこうと.

*全ての国家が核兵器の使用と所有を放棄すること.とりわけ核保有宣言国の核兵器を放棄すること.そしてNPTの第六章に定められた法的制限を達成し,核兵器合意(conventions)に賛同し,交渉に参加し,合意を尊重すること.

*すべての国家と集団による生物・化学兵器合意(conventions)を遵守し,その強化に力を注ぐこと.必要な場合は,効果的な検証メカニズムを作り実施すること.

*小火器がもたらした死亡・負傷について,医療専門家による正確なデータを集め,報告するシステムを作り上げること.利用可能なら政府側の記録や医療組織からの記録も集めること.そして小火器による犠牲を防ぐために,同僚や政策立案者への教育を進めること.政府に対し研究者がデータにアクセスする権利を保障させること.武器売買に関する合意を実現し,武器の移転に関する国際的な枠組み合意を作り上げること.

(以下の段落は2002年4月現在の状況をもとに記述されていることに注意.…としてもそこには受け入れにくいニュアンスがある:訳者)

*中東は依然として,世界でもっとも混乱した状況のまま取り残されています.そこでは双方の過激派による衝突が続いており,状況は戦争の瀬戸際にまで至っています.

わたしたちはそのことを理解したうえで,イスラエル軍の占領と両者による紛争を終結させるようもとめます.そして1967年6月4日時点の境界線を守り,イスラエル人とパレスチナ人が許しあい,肩を寄せ合い生活していけるように,条約が締結されることをもとめます.

この(併合された)地域の医師たちの代表は,緊急の要求をまとめ,アンタリャ(Antalya)宣言として発表しました.和平実現という目標のためにも,わたしたちはこの宣言を承認し,強く支持します.

*地雷禁止条約を全世界に継承し広げること.地雷の掃討を加速すること.そして犠牲者のリハビリ計画に長期に資金を提供すること.そして人類の野蛮さを示すこの不名誉な一ページを一刻も早く閉じること.

*京都プロトコールの批准,そしてより大胆な手段もふくめた地球環境保護のための行動.さらにストックホルム合意の批准.持続的な有機汚染物質(POPs)の禁止.これ以上の有害物質を禁止するメカニズムの開発も視野に置くこと.

*ここワシントンにおける「生き残りのためのサミット」から,わたしたちは宣言します.多くの国から,多くの文化と多くの信条をもって集まったわたしたちは,医学・科学の訓練を積み,ヒューマニズムを身につけています.そして生涯をかけて首尾一貫した闘いのために身を捧げています.

 

宣言することはひとつ,わたしたちは個人としてそして組織として,私たちの天体の生き残りと人類の生存のために,わたしたちの命とエネルギーすべてを捧げます.