劣化ウラン弾:その人体への影響

 2001年
2004年11月改定

 

ウラン238と6フッ化ウラン

 ウランという元素には238,235という二つの同位元素があります.天然ウラン原料の大部分(99.3%)はウラン238,残りが235になっています.このうち,原子力発電や核兵器に使われるのはウラン235です.

 ウラン生産工場では,原料を精錬してウラン235の濃度を高めます.こうして作られたのが濃縮ウランです.濃縮ウランの多くは軽水炉型原発の核燃料として用いられます.この場合,核燃料のウラン235の濃度は5%未満です.いっぽう,原爆用のウランは,はるかに精錬度が高く,ウラン235の濃度が90%以上になるまで濃縮されます.

 劣化ウラン(DU)はウランの精錬過程で生じる副産物です.天然ウランから235を抽出したあとのいわば絞り粕ですが,まったくゼロというわけではありません.精錬過程で実際に出来るのは,フッ素とウランが結合した6フッ化ウランという物質です.これを材料として,チタンとモリブデンとの合金を作ります.これが劣化ウラン弾と呼ばれているものです.

 

劣化ウラン弾の「長所」

 劣化ウラン弾といっても,見たところは普通の砲弾と変わりはありません.違うのは砲弾の弾芯です.戦車の鉄甲を貫通する貫通弾はタングステンという金属で作られてきました.この従来の貫通弾と比べると,DU弾は三つの特徴があります.

 まず比重が重く,貫通力が高くなります.もうひとつは,DU弾が1,100度を越すと発火する性質があり,あたった戦車の中を焼き尽くすという効果を持っていることです.そして最大の長所は,値段が安いということです.なにせ,売るほうからすれば,のしをつけても持っていってもらいたい代物ですから.

 現在では,米軍のさまざまな部署にDU弾が配備されています.M1A1という型の戦車の120ミリ砲,AV8Bハリアー攻撃機の25ミリ機関砲、A10対地攻撃機の30ミリ機関砲、対艦ミサイル迎撃用の「ファランクス」20ミリ機関砲などです.

 湾岸戦争で主に使用されたのは,A10攻撃機の機関砲で,イラク軍戦車の装甲を撃ち抜いて多大な損害を与えましたが,このときの地上作戦に参加した兵士から「湾岸症候群」が多発しています.

 

DUの毒性が明らかに

 これまで6フッ化ウランは非分裂性であり,人体に影響はないとされて来ました.

 ケンタッキー州パドゥカに,ウラン235の製造工場である合衆国エネルギー省の研究施設(Paducah Gaseous Diffusion Plant)があります.そこで製造にかかわる職員のあいだに呼吸器疾患が多発していることが,以前から報告されていました。米政府は,これまで長いこと,ウラン精練の副産物が人体に与える影響を否定してきました.しかし2000年1月29日,彼らはついに,その人体への影響を認める発表を行ないました.これにより,製造にかかわる従業員のあいだに白血病、ホジキン病、前立腺ガン、腎臓ガン、肝臓ガン、唾腺ガン、肺ガンの罹患率が有意に高いことが明らかになりました.

 今回の発表は,ウラン製造過程における主要な副産物である6ふっ化ウランが,健康や環境に対して悪影響を与えていることを裏付けるものです.そのことは,6ふっ化ウランから作られるDUが,同じように人体に影響を与える危険性があることを裏付けています.

 

マンハッタン計画

 実は,このことはすでにマンハッタン計画の時代から知られていたことなのです.第二次大戦中に,原爆開発のために組織されたのがマンハッタン委員会でした.この委員会に動員された高名な科学者たちのなかには、「ウランは大気及び土壌の汚染剤として利用出来る」ことを示唆したものもいました.

 1943年10月30日の委員会メモランダムによれば,この日,「S-1実施委員会」という委員会のなかの小委員会から,マンハッタン計画の責任者グローブス将軍あてに,一通の手紙が送られました.その手紙は「放射性物質の兵器としての利用」と題されていました.そこには、「ウランの吸引によって,数時間から数日のうちに気管支に炎症が発生する」と報告されていました.

 これはまさに,湾岸戦争症候群と同じです.湾岸戦争中の「砂漠の嵐」作戦において,敵の戦車を破壊するために,大量の劣化ウランが用いられました.戦闘終了後に現地を制圧した米軍兵士は,DUを吸引し,まったく同様の症状を呈しました.

 手紙は続きます.「(ウランから放射された)ベータ線は,汚染された水、食糧、空気により消化器官に入り込む.空気から吸引されたものは鼻や咽喉頭、気管支の粘膜などに付着し、次に飲み込まれる。その効果は気管支におけるのと同様な局所的な炎症である。胃、盲腸、直腸では,摂取されたものが,どこよりも長期にわたって残留する.このため消化器系統の臓器が最も深刻な影響を受ける。放射線被爆による一般的症状を示すことなく、消化器官に致死性の潰瘍、穿孔が発生することも考えられる」

 このように,劣化ウランを吸引または摂食した人が、下痢などの激しい発作に襲われることが報告されています。かつて1943年に小委員会報告で予見された健康障害のほとんどは、「砂漠の嵐」作戦で劣化ウランの被爆を受けた兵士において観察されているのです.

 軍は劣化ウラン汚染の危険性の存在を1943年以来ずっと知っていたのです.「劣化ウラン・低放射性物質の危険への対処」という米軍の公式文書があります.ここには「食物及び水は,汚染によって消費に適さないものとなる」とはっきり書いてあります. 軍は43年の小委員会報告をしっかりと認識していたことになります.

 事実,劣化ウラン弾が配備されたときから,「劣化ウラン弾のヨーロッパでの使用は許可しない」,「実戦以外では使用しない」ことになっていたそうです.しかし現実にはヨーロッパ(ユーゴ)でも使用されましたし,ビエケスや鳥島では,実戦ではなく演習も行なわれました.

この項は,@ウランと劣化ウランのすり替えがあります.手紙が指しているのは,原料ウランそのものです.劣化ウランの放射能はその60%程度です.
また,A「(ウランから放射された)ベータ線」というのも,現在の知識から言えば不正確です.劣化ウランの場合はほとんどがアルファ線による内部被曝です.ただし,記載された症状は完全に一致しています.このことからアルファ線にもベータ線やγ線と同様の効果があることが推測されます.

 

ウラン238の毒性

 ウラン238は半減期45億年の放射性元素です.ウラン238の放射能は主としてアルファ線です.アルファ線の実体はヘリウムの原子核です.ヘリウムは陽子2個と中性子2個で構成されています.残されたウラン238は,核子が4個減って元素名も変わります(トリウム234).

 アルファ線の透過力は大気中では僅か数センチに過ぎません.さまざまな分子や原子とぶつかって,急速にエネルギーを失ってしまうからです.従って体外被曝の危険性はあまり考える必要はありません.

 しかし、その分だけ,直近の組織が受けるエネルギーは巨大なものとなります.ウラン238を含んだ粉塵が体内に吸収されれば,強烈な体内被曝をもたらします.数ミリ周囲の細胞では,細胞内の遺伝子が激しい損傷を受けます.したがって発ガン性も極めて強いものとなります.

 これまでアルファ線の人体への影響はあまり研究されてきませんでした.しかし最近明らかにされた研究によると,人体への影響力は中性子線の2倍、ガンマ線の20倍とされています.

 DU弾が装甲を貫通する場合,弾頭に含まれた金属状のウランが燃え出します.燃えたウラン238は,微粒子状の八酸化三ウラン(U3O8)になります.この微粒子は大気中のチリなどに付着して、広範な放射能汚染を引き起こすことになります.

 このウラン238をふくむチリは,呼吸器,消化器,皮膚からとりこまれます.これらの9割は腎臓から尿に排泄されますが,残りは体内に沈着します.

 またウランは化学的毒性も強く,吸引すると鉛中毒と似た症状を起こすと言われています.

 

DUの人体への悪影響は確定済みである

 たしかに,さまざまな健康障害が劣化ウランの被爆によって生じたか否かを立証するのは困難です.それを口実にして,米軍や米政府はこれまで責任を回避して来ました.劣化ウランを吸ったり,口にしたり,傷口から吸収した人達に対して,合衆国の高官はその責任を否定し、治療を遅らせてきました.このように、劣化ウラン被爆の責任は不明確になってしまうことが多かったのです.

 とはいえ、「次のような疾患や症候では,DUとの関連を認めうる」という証拠が,今日までに蓄積してきています.反応性気道障害,神経障害、腎臓結石、発疹、視力の低下、夜盲、歯齦傷害、悪性リンパ腫、白血病、その他のガン、神経的・精神的障害、精液へのウランの混入、性的機能不全、消化吸収異常、子供の発育障害などがそれです.さらに恐ろしいことに,被爆の影響は,劣化ウランによる汚染が完全に除去された後も10年,20年,一生継続します.

 

「湾岸戦争症候群」はDUの人体傷害である

 2000年9月4日,パリで開かれたヨーロッパ核医学研究会の総会で,アサフ・デュラコビッチ博士が,湾岸症候群について発表しました.デュラコビッチ氏は合衆国軍医大佐の肩書きを持つ軍幹部でした.現在はワシントンのジョージタウン大学医学部核医学研究所に勤務しています.

 発表によると,湾岸戦争時に兵役についた退役軍人の多くが,腎臓などの疾患に苦しんでいるとのことです.その原因は,対戦車砲に用いられた劣化ウランの分子を吸引したことと推定されます.

 「いくつかの予測例によると320トンの劣化ウランが(1991年の)湾岸戦争で使用された.(私が診た)多くの患者はウラニウム吸引の臨床的結果である腎臓疾患および機能不全を生じている」と、デュラコビッチ氏は,総会に出席する前に報道陣に語りました.

 「劣化ウランは標的に命中後,衝撃により摂氏数千度以上の温度で気化する.ミクロ以下の放射性粉塵がペルシャ湾岸域には多量に存在している.これらの分子のうち吸引され肺に残留したものが、ガンを誘発し、あるいは血管に侵入して肝臓や骨髄に影響を及ぼす可能性がある」

 湾岸戦争直後、原因不明の「湾岸戦争症候群」が多くの退役軍人に発症していることが問題となりました.そして軍が非難の的となりました.この時期、デュラコビッチ氏は,合衆国当局から研究を中断するよう「政治的な圧力」を受けたそうです.しかし今では軍当局が,自ら調査を行っています.

 「湾岸戦争症候群の(主要な)原因が,ウラニウムによる汚染だと主張しているわけではない.しかし,退役軍人たちの身体に高レベルの劣化ウランが検出される以上、この方面の研究が強化されるべきだ」と彼は述べています.

湾岸戦争症候群の原因としては,これまで,神経ガスの予防剤である臭化ヒリドスチグミンや,ディートという殺虫剤の混用で生じた化学反応の相乗効果ではないか,とも言われて来ました.しかし劣化ウラン弾微の粉塵を吸引したことによる体内被曝が,最も症状を説明しやすいようです.