原著

いくつかの地域における先天障害と、ベトナム戦争時に米軍の散布した枯葉剤との関連について

Birth Deffects in Some Regions Were Sprayed Herbicides by US. Army in Wartime in Vietnam

グエン・ベト・ニャン(Nguyen Viet Nhan MD)

フエ医科大学、ベトナム

フエ医科大学の先生の書かれた研究論文です。札幌の「枯葉剤の会」から資料をいただきました。2003年発表のものです。原著は英文ですが、相当読みにくいものです。おそらく国内発表用の原稿で、ネイティブスピーカーのスーパーバイスを受けていないものと思われます。とりあえず訳しましたが、文章の細かいところで間違いがあるかもしれません。グエン・ベト・ニャンさんは、フエ医科大学のOffice of Genetic counselling and disabled children (OGCDC)の教授で、この教室はhttp://www.ogcdc.orgというホームページを持っています。このページには英語版もありますので一度ご覧ください。

 

1962年から1971年まで、米空軍はおよそ1900万ガロンの枯葉剤をベトナムに散布した。それらのうち、すくなくとも1100万ガロンがエージェント・オレンジであった。

ベトナムにおける枯葉剤作戦には、二つの軍事目的があった。それは、@草木を枯れさせて監視が行き届くようにすること、そしてA敵の食料生産を破壊することである。

ダイオキシン(2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin)は、通常TCDDあるいはダイオキシンと呼ばれる。それはさまざまな濃度で枯葉剤の中に混入している。エージェント・オレンジだけではなくピンク、パープル、グリーンにも数種類の化学物質が含まれており、動物実験では毒性を持つことが報告されている。

1994年から1998年にかけて、カナダのバンクーバーにあるハットフィールド・コンサルタント社とベトナム政府は、ハノイに「10-80共同研究委員会」を設置した。委員会はベトナムの環境中のダイオキシン濃度を確定するなどの研究に取り組んだ。

委員会は以下のような結論を得た。

@ダイオキシンに汚染された土壌が一ヶ所から発見された。そこはアルオイ(Aluoi)渓谷のア・ソー(A So)という部落の中だった。ここには以前米軍の小さな空軍基地と滑走路があったため、このダイオキシンはエージェント・オレンジに由来するものと推定された。

Aエージェント・オレンジに関連したダイオキシン汚染が同じ地区で発見された。そこはアルオイ渓谷の元空軍基地の近くの養魚池で、草魚(Grass Carp)から微量のダイオキシンが検出された。その量は人間の最大許容摂取量に迫るものだった。そこがカナダその他の西側諸国であれば、摂取禁止となる可能性があるレベルである。

B空軍基地地域では、食物連鎖のパターンにエージェントオレンジが侵入していることが発見された。土壌、養魚池の沈降泥、養殖された魚、アヒル、そして人間である。(図1、とあるが、コピーが不良で意味不明)

これは、米軍が枯葉剤の散布をやめて30年たった後でも、ベトナムが未だにその影響を受けていることを意味する。だからこそ、戦争中に枯葉剤を浴びたこの地域で、次の世代として今を生きている人々に何が起きているか、我々は知りたいのである。

 

OGCDCのホームページから

 

 

我々は後ろ向きコホート研究により、枯葉剤への暴露と先天障害発生との関連を調査した。調査対象地域は、中部ベトナムのクアントリ県カムロ(Camlo)で、戦時中に枯葉剤を浴びた両親とその子供たちを調査した。カムロはベトナムの中でも最も濃厚に枯葉剤を散布された地域として知られている。

対象地域としてフエ(Hue)を選んだ。ここも中部ベトナムの町であるが、戦時中に枯葉剤の散布は受けていない。

この研究において、曝露群はカムロ地区の0歳から14歳の子供すべてを対象とした。全体で19,83人である。そして非曝露群もフエの同年齢の子供すべてである。こちらは全体で74,753人である。

近代的医療技術の欠乏、弱体な保健システムなどにより精確な診断が制限されるため、我々はある種の先天障害のみをこの研究の対象とせざるを得なかった。

これらの先天障害は次の五つのクライテリアに基づいて選ばれた。@だれでも診断できる、Aありふれた障害である、B早期死亡をもたらさない、C後天的原因が否定できる、D“なんとか症候群”を含まない(ダウンは含む)。疾病分類はICD-10に基づいた。

 

結果と考察

表1 両群間における発生率の検定

 

p Value

Relative Risk

口蓋裂

0.001

3.40

白内障

0.001

6.35

斜視

0.000

4.56

そけいヘルニア

0.000

7.97

陰嚢水腫

0.001

9.30

血管腫

0.000

4.45

内反足

0.000

4.23

多指症

0.000

3.38

表2 家族内複数発生率の比較・検定

 

カムロ

フエ

p Value

Relative Risk

3人以上

7家族(0.08%)

2家族(0.006%)

0.00

14.48

2人

39 (0.46%)

18 (0.051%)

0.00

8.97

合計

46 (0.54%)

20 (0.06%)

0.00

9.52

まずいくつかの先天障害についてカムロとフエを比較・検討する(表1および2)。一人以上の先天障害児を持つ家族の数は、以下の疾患において有意の差がある。

@口蓋裂(みつくち)、A先天性白内障、B斜視、Cそけいヘルニア(脱腸)、D陰嚢水腫、E血管腫(赤あざ、青あざ)、F内反足、G多指症。

また、一人以上の先天障害児を持つ家族の数においても、カムロとフエとのあいだには有意の差が認められた。人口に対する先天障害者の比率も、カムロにおいて有意に高かった。

これらの事実は、両親の枯葉剤被曝と、彼らの子供たちにおける先天障害の出現とのあいだに相関があることを示している。相対的危険度(Relative Risk)もまた、枯葉剤被曝とこれらの障害のあいだに正の相関があることを示唆している。

 

これらの問題を説明するのに、これまでいくつかの仮説が提唱されてきた。

@戦争において使用された枯葉剤は半減期の短いものであった。しかし、戦争のために用いた枯葉剤は本来の使用量をはるかに超えていた。このために枯葉剤は散布地域に暮らす人々に染色体の突然変異を引き起こすことが可能となった。この染色体の変異が胎児の成長に支障をきたし、先天障害を引き起こしたと考えられる。

しかし我々は枯葉剤のこのような効果について、まだ十分な基礎研究が行えていない。

Aこれらの枯葉剤はやがて自然環境のなかで効果を失ってしまった。しかしダイオキシンは未だに土壌中に存在している。そして食物連鎖を通じて人体に取り込まれ続けている。それらは脂肪組織に沈着し、精巣や卵巣に取り込まれるであろう。

ダイオキシンはこれらの臓器・組織から精液・精子・卵子に移行しうる。そして受精卵の発育に問題を生じ、先天障害となって帰結することもありうる。たしかに多くの実験結果では、ダイオキシンの生殖器に及ぼす影響はネガティブとされているが、果たしてそれは確かだろうか?

B以上の二つの仮説を踏まえて

もちろん、枯葉剤の被曝と先天障害の関連については、もっと多くのエビデンスが必要である。それなしにベトナム戦争のときに枯葉剤を浴びた両親と、その子供たちにおける先天障害の因果関係を云々することはできない。

最終的結論を得るためには、もっと多くの基礎研究、もっと多面的な分野の科学者の協力が必要である。しかしベトナムの障害児はその日まで待つことはできない。なぜ私が微力を尽くしてまで彼らの不幸を救おうとするか、その理由はここにある。

もうひとつの理由は米国内のベトナム戦争復員兵のことである。彼らがベトナムに滞在したのはわずかな期間に過ぎない。その間、彼らは良い食料を与えられていた。それにもかかわらず、いまや彼らもある種の病気にかかっている。

その原因が、戦時中に枯葉剤に暴露されたことにあるということは、米国国立科学アカデミーによって確認されている。それらの病気の中には、彼らの子供におけるある種の先天障害、脊椎二分症も含まれている。

ベトナム人はこの土地で、枯葉剤が振りまかれたこの土地で、これから長いあいだ住み続けていかなければならない。ベトナム人は受精卵が形成された瞬間から、この地で成長することを義務付けられている。彼らは汚染されたこの土壌から収穫された食料を食べ続けなければならない。

我々すべては人類の一員である。米国の復員兵に起きたことがベトナム人には起きないと、はたして言い切れるだろうか?