もうひとつの「二千年問題」

グローバリズムの自己崩壊の可能性

2000年1月16日         


もうひとつの『二千年問題』とはなにか

 米国経済の復活がもてはやされています.同時に,それは99年度の経常赤字4千億ドルをもたらしています.この数字は,これまでの赤字とは水準が違い,“非連続的”なものと考えられています.これが金融政策上における『二千年問題』といわれているものです.

 現在の米国の好況が,海外からの大量の資金流入にもとづいていることは言うまでもありません.しかもその資金は,一般途上国のように公的融資や民間投資といった形ではなく,国債金融の自由化を通じて株式市場から流入してきているところに,これまでにない特徴があります.これがグローバリゼーションというシステムの特徴であり,その最大の受益者が米国になっているわけです.


株式本位制とグロ-バリズム

 このような状況は,米国自体が途上国化しつつあるとも言えます.
米国にとって深刻なのは,98年半ばより投資収益収支の赤字が定着し始めたことにあります.米国は債権国から債務国に変ったのです.ある意味ではこれが,株価の上昇と好景気を支えているのですが.

 ところが,これまでの債務国と異なる点があります.外国人である債権者の発言力がおよぶ直接融資ではなく,証券投資形態でマネーを調達できる方法が開発されたからです.まさにこれがグローバリズムと呼ばれる国際金融システムです.経済システムから見れば,それは金やドルなどの貨幣本位制に代わる株式本位制といってよいでしょう.

 この文章のネタを書いたアナリストの名文句を引用します.
株式という新しい貨幣を手にした米国が成長を持続していくには、グローバリズムが最もふさわしいイデオロギーである。グローバリズムが正当化されれば、経常赤字の問題から解放されるからである

 しかしこのシステムも,米国経済が立ち行かなくなれば,たちまち崩壊する危険をはらんでいます.『二千年問題』を主張するエコノミストたちは,その危険レベルを“非連続”と呼び,2000年という区切りと連動させているのです.


『二千年問題』はいまどうなっているか

 株式市場の中では,一般株式と国債とが利率とリスクのあいだで均衡を保っています.中央銀行(米国では連邦銀行=FRB,日本では日銀)は国債発行を通じて株式市場の調整をはかります.しかし経常赤字が続けば国債に対する信頼は薄れていきます.中央銀行は,その分国債の利回りを上げなければならなくなります.そして,その時期が近づいています.

 客観的に見れば,明らかに米国の対外資金繰りは逼迫しています.ユーロからの調達は頭打ちの状況にあります.

 年末から年始にかけて,予想外のタイミングで日銀のドル買いが実施されました.これは日本の景気が腰折れの懸念があるからと説明されています.しかし,その真相はドルのファイナンスが異常な経常赤字により逼迫しており,その緊急支援に回ったとみるべきです.まさに2000年対応です.

 米国債券利回りが,今年度中に"非連続"の領域に入ることは,マーケットの予想のなかに浸透しつつあります.そうなれば,インフレ懸念のあるなしにかかわらず、国債(30年もの)の利回りは7%を超えて上昇することになるでしょう.

 

米国国債の利率引上げは何をもたらすか


 株式の需給構造が一変します.
 これまで高成長を支えてきたのは,“大衆”による株式の売買でした.機関投資家が国債市場にまわってしまえば,その株式の売りの相手方がいなくなってしまうのです。そうなれば,株価がうんぬんというより,取引そのものがストップしてしまいます.金融大恐慌の悪夢の再現です.

 

狭まる連銀の選択肢

 中央銀行の本来の任務は,乱高下をくりかえす金融情勢から実体経済を保護することにあります.しかし,行きすぎた介入は金融経済そのものを傷つけ,結局は実体経済を破壊してしまうことになり兼ねません.中央銀行の操作にはマクロの視点が必要です.

 1月4日、グリーンスパンが連銀議長に再指名されました.今後4年間、グリーンスパンに米国,ひいては世界の金融・資本市場を託すということです.彼こそはミスター・グローバリズムと呼ぶべき人物です.この間の国際金融自由化を推進してきた立役者です.

 しかしいまや,グリーンスパンの選択肢は大幅に制限されつつあります.なぜなら7%へ向かう国債の利回りと4千億ドルを超える経常赤字は、別々に生じているのではないからです.

 これまで連銀は国債を増発し続けてきました.国債を増発し通貨供給の流動性を高めれば株価は上昇します.その株高にひきつけられて米国への資金流入も拡大します.しかし海外調達が増えれば,それに応じてドル資産は評価を下げます.金融インフレと資産デフレはコインの両面の関係にあります.

 この過程が進めば,長期金利は上昇せざるを得なくなります.この金融上の歪みは,結局実体経済へ波及せざるを得ません.

 「金融上の2000年問題」は,日本などの協力も得て,とりあえず実体経済へ大きな混乱を引き起こさずにすみました.しかしその無理が,金融経済に今後どのような影響をあたえるかは予断を許しません.

 

グローバリズムの行きつくところ

 米国の経常赤字が「非連続性の領域」に入ることは、重大な問題をはらんでいます.それは,たんにマーケットの価格調整が大規模に起きるということにとどまりません.

 一つは、世界経済の崩壊を許さないために,米国以外の赤字国の存在は許されなくなることです.これがグローバリズムの究極の姿です.

 グローバリズムの考え方をつきつめていけば当然ですが、資本効率の高い国にマネーが集まり,途上国は一切の赤字を許されず,存在そのものを否定されてしまうことになります.

 もう一つは,米国のみが経常赤字を垂れ流すことを許さざるをえないということです.そうなれば、まさにグローバリズムという,米国の経済的基礎を支えるシステムそのものの是非が問われることになります.

 

株式の混乱にとどまらない『歴史の危機』

 4千億ドルという数字は,世界の黒字国の貯蓄をすべてかき集めた額よりも上回っています.ここまで経常赤字が膨らむというのは、従来の延長線上では想定できないことが起きることを意味します.

 グローバリズムの最大の難関は黒字国の貯蓄にあります.黒字国においては,米国での株式運用と国内での貯蓄は一種の均衡状態にあるのであり,株式の不安が広がればいつ還流されてもおかしくない状況にあります.まさに一瞬先は暗闇です.

 債務国化した米国が生き残る道は,グローバリズムと株式本位制とを長期にわたって維持する以外にありません.しかしこの道が地獄へと続いていることも間違いなさそうです.


日本への影響

 対米直接投資の急増が,M&Aに象徴される株式本位制と歩調を合わせているのは、決して偶然ではありません.日本の国債の急上昇もたんなる偶然ではありません.日本の財政・金融政策は,好むと好まざるとにかかわらず,グローバリゼーションの中にすでに組み込まれていると見なければなりません。

 アメリカといえども,世界の黒字額の合計を上回る経常赤字を,これからもずっと続けることはできません.いずれ株価の大暴落となることは,火を見るより明らかです.そうなればグリーンスパン議長ができることは,株価のゆるやかな安定を図るしかありません.

 どのような戦略をとろうと,国際金融安定化戦略は黒字国が黒字をさらに増やす結果となります.そうなれば黒字国日本に対する金融緩和圧力が,ますます高まることも明らかです.

 日本がすすめているゼロ金利政策と積極財政政策は,国内の景気や財政事情の如何にかかわらず,ますます長期化せざるをえません。

 あるエコノミストは,2000年をはさむ『歴史の危機』がどうやらローマ帝国の崩壊やモンゴルの征服などと匹敵する超弩級のものになりそうだと,物騒な予言をしています.


この文章は,証券会社のホームページの資料をもとに編集したものです.