ドキュメント 自衛隊機の北広島誤射事件 |
(A) 事件の概要
Ⅰ 発射に至るまで
Ⅱ 発射の瞬間
Ⅲ 現場の状況
Ⅳ 事故機の帰着
(B) 事故後の対応
Ⅰ 政府と防衛庁の対応
Ⅱ 地元自治体の抗議の声
Ⅲ 住民の怒り
Ⅳ 政党・団体の反応
(C) 問題の焦点が明確に
Ⅰ 怖ろしい技術的欠陥
Ⅱ 市街地の上空で射撃演習
Ⅲ 憲法9条を守る重要性
Ⅰ 発射に至るまで
北広島リハビリセンター(社会福祉法人・北海長正会)は,主にお年よりのリハビリを目的とした、通所・入所の施設である.同センターはJR北広島駅から3キロほどの富ヶ岡というところ。市街地そばの静かな丘陵地帯にある.北広島団地と呼ばれる住宅街も近い.
午前9時半 同センター体育館で15人の通所者がリハビリ運動を始めた。同センターに宿泊する入所者172人、入院患者18人は,この日の午前中は訓練メニューがなく,思い思いに過ごした。このうち十人前後の利用者が,日光浴のため施設の外に出て散歩をしていた。施設には約80人の職員も働いていた。午前10時46分 航空自衛隊83航空隊302飛行隊のF-4EJ機の4機編隊が,千歳基地を飛び立った。恵庭市桜森の島松空対地射爆撃場(正式には北海道大演習場島松地区弾着地)に向け、20ミリ機関砲と小型爆薬を使った爆撃訓練を行う予定だった。この飛行隊は、那覇に司令部を置く南西航空混成団に所属。18日から千歳基地を拠点に射爆撃訓練を行っていた。
F-4EJ機は二人乗り、一番機のパイロットが編隊長であった.編隊長の空自一尉(32歳)は,前席で操縦と武器の操作をしていた.
Ⅱ 発射の瞬間
10時55分ころ,飛行隊の一番機が演習場上空に突入.70ミリロケット弾一発を「ボムサークル」と呼ばれる標的に撃ち込んだ.その後、機体は北広島上空にまで達し、再びロケット弾を放つため右旋回を開始した.高度は約2,250m.
このとき,一番機から「訓練弾」が突然発射され、約2秒間射撃が続いた.
(注)これまでの報道で釈然としない点が二つある.ひとつは,機関砲の射程距離から逆算してみれば,明らかに演習場の境界を踏み越えて、立ち入り禁止となっている北広島の市街地近くまで侵入しているはずである.しかし、それが公表されていない点.もうひとつは「訓練弾」という表現である.そもそも訓練にのみ用いる「訓練弾」というものは存在しない.発射されたのは明らかに実弾そのもの、すなわち「通常弾頭」であり、ただ炸裂弾などの「特殊弾頭」ではないということだけだと思われるが….
Ⅲ 現場の状況
午前10時55分ごろ 北広島リハビリセンターでは突然すさまじい音が鳴り響いた.そのときベッドに横になっていた60歳の男性は「ガラスをハンマーでたたくような強い音がした後、バラバラと何かが落ちる音がした」と述べている。また59歳の女性利用者は「見たこともない白っぽい大きな光が窓から見えて、一瞬明るくなった」と語っている。その瞬間,空中に強いせん光が走った、という目撃情報もある.
理学療法士でセンターの係長である福良貴博さん(40)は,ただならぬ物音に驚いて,リハビリ訓練棟から駐車場に飛び出した。駐車場のアスファルトには二カ所、金属のようなものが突き刺さっていた.その先端は地上に四、五センチ突き出ていた。「初めは熱くて触れなかった。少ししてから抜いてみると、長さ十センチほどの砲弾だった。色はダークグレーで、先端は銀色だった」
福良さんは,ほかの職員と一緒に施設の周辺を急いで調べた。砲弾はセンター敷地内の南側に集中しており、アスファルトの路面に突き刺さったり、周辺に散乱していた。砲弾は同センターの屋上でも見つかり,敷地内から計十数発を確認した。
敷地内の駐車場に止めてあった一台の乗用車に,砲弾が命中していた.車のガラス窓は割れて粉々になっていた.砲弾は車のトランクを貫通し、中に置いてあったゴルフバッグに突き刺さっていた.他の砲弾は,バス用車庫の屋根や渡り廊下の鉄製の屋根を突き破っていた.リハビリ訓練棟の屋根にも弾がめり込んでいた。このとき屋外には十人ほどの入所者が日なたぼっこをしていた。職員が声をかけ急いで屋内に入った。
その後11時20分ごろ 連絡を受けた厚別署が出動.敷地内で計13発の着弾痕を確認した.このうち十一発の弾痕近くから砲弾を回収した。十一発以外の一発は職員が見つけたが、一発は砲弾を発見できずに終わった。またセンターに隣接した「サンパーク札幌ゴルフコース」からも一発が見つかった。
関係者の話を聞いた厚別署は、午後0時ころまでには自衛隊機による誤射事件との結論を出した.当初,厚別署はこの事故が、自衛隊法違反と航空法違反の疑いがあるとし,捜査の開始を示唆したが、その後急速にトーンダウンし,「空自の内部調査を見守ったうえで、刑事責任の有無を見極める方針」に変更した.
Ⅳ 事故機の帰着
11時18分 誤射に気づいた訓練隊機は、ただちに訓練を中止して千歳基地に帰着した。ただちに機体の調査が開始された.その結果、一番機に搭載した機関砲弾200発のうち188発が放たれていた。わずか2秒での出来事である.
当事者の編隊長は、マスターアームスイッチ(武器発射システムの主電源)を入れ、ロケットを撃つスイッチは操作したものの、操縦かんにある20ミリ弾の引き金(トリガー)は一切操作していないと主張した。
(B) 事故後の対応 Ⅰ 政府と防衛庁の対応
①事故直後の反応
もっともすばやい反応を示したのは、北広島市役所だった.
午後0時20分 北広島市の本禄哲英市長は、千歳の空自第二航空団に電話連絡をとった.そして岩崎茂司令に抗議の意思を表明した。市長は早急な事故原因の調査と、原因が判明するまでの訓練中止を求めた.しかし満足な回答は得られなかった.事態があまりにも深刻なためだったと思われる.
防衛庁は,午後になって長官のコメントを発表した.「搭載している20mm機関砲から訓練弾200発弱が不時発射され、その一部が射撃場の外部に落下した」という,熟慮の結果であろう独特の言いまわしが、その後生きつづけることになる.当面の方針として、「航空自衛隊機全機について弾薬・ミサイル等を搭載しての訓練を全て中止」すること,「調査のための専門の隊員を既に現地に派遣しており、不時発射の原因等を含め徹底した調査をすみやかに行って参る」ことがあげられた.
長官コメントを発表した記者会見には官僚トップの佐藤謙事務次官があたった.佐藤事務次官は,陳謝したうえで「なぜ(このような事件が)起きたのか信じられない。深刻に受け止めている」と述べ、原因究明に全力を挙げる考えを示した.事件が防衛庁に与えた衝撃の大きさが,ひしひしと伝わってくる.
これを受けた航空幕僚監部は堀空幕監察官を議長とする事故調査委員会を置き、メンバー14人を現地に派遣することを決めた.一行は夜9時のANA機で羽田を立ち、千歳に向かった.調査団には防衛庁最高幹部の一人,平沢政務官が同行した.調査が開始されたのは、日付が変わった26日深夜のことだった.
26日午前0時40分 調査委は、千歳基地の格納庫に入り、誤射機の調査を開始した.機関砲の発射には、マスター・アーム・スイッチを入れる必要がある.このため、初日は,電気系統やコンピューターシステムに異常がなかったかを,重点的に調査した。とくに,機関砲の引き金を引けば録画が始まることになっている機内ビデオの状況に関心が集まった.
またパイロット本人や編成飛行していた僚員から,事故当時の飛行ルートや機内の状況などを詳しく聴いた。パイロットの心身の健康状態に異常がなかったかも調査した。
F4EJの機関砲
③ 砲弾の捜索
市民にとって、発射された約200発のうち15発しか見つかっていないということは、非常な不安である.このため大量の兵員を動員した捜索活動が、夜明けを待って開始された.
約三百人が、前日に訓練弾一発が見つかった同市富ケ岡の「サンパーク札幌ゴルフコース」周辺で着弾がないかあらためて調べた。着弾痕とみられる穴五カ所が見つかり、うち二カ所を掘ったが訓練弾は見つかっていない。
午後からは,千歳基地の500人に加え、陸上自衛隊員500人も加わり,リハビリセンターの周辺約三・六平方キロmの地域を捜索した.このとき、リハビリセンター西側に隣接するNTT所有地で5カ所の着弾痕を確認、うち4カ所から訓練弾が見つかった。南側隣接地でも1発を発見.これで発見された訓練弾は18発になった。
27日,最大規模の空自、陸自合わせて1200人が動員され、砲弾の捜索が行なわれた.しかし新たな砲弾の発見はなく,これを機に捜索は縮小されることとなった.
砲弾そのものに二次災害の危険はなく、捜索の終了はやむをえないものではある.しかし,わずか1割の発見にとどまったということは、着弾した砲弾が反挑する可能性が極めて高いことを示している.したがって被害が及ぶ範囲は、はるかに広く想定されなければならないことになる.これも今度の事件の深刻さを示すポイントである.
④防衛庁トップの動き
26日,中谷長官は三度にわたりコメントを出している.自衛隊出身者らしく,かなり明快な見解が表明されている.
最初は閣議後の記者会見.「現時点では予見や先入観を入れずに、人的、物的両面から原因を調べている。単にパイロットの言うことをうのみにせず、厳しい見地で調査したい.事故原因を究明した後、いかなる方式で訓練を行うかを部隊内で検討したい」と述べた。
ついで,防衛庁幹部会では、「射撃に当たっての安全管理手順の徹底のみならず、手順そのものの見直しにも取り組んでもらいたい」と述べ、1)全戦闘機の射撃系統の点検、2)訓練の運用面の問題点―など、あらゆる対策を検討するよう指示した.
午後からは参院で外交防衛委員会が開かれた.共産党の小泉親司議員が誤射問題に関して質問に立った.小泉氏は「(射爆場は)恵庭、北広島、千歳という新興都市の中間にある。設置場所見直しも含め、再発防止策を取るべきだ」と追及.答弁に立った中谷長官は,「指摘には大事な問題があると認識している。今後、真摯(しんし)に検討しなければならない」と述べ、事故の再発防止策として、訓練区域の変更も含めて検討する考えを明らかにした。
現地に飛んだ平沢防衛政務官は,道内対応の陣頭指揮をとり,精力的な行動を続けた.北広島市ほか、恵庭市役所や千歳市役所も訪問、陳謝した。しかしその発言は,東京における幹部対応とは相当ニュアンスを異にしていた.北広島での市議会全員協議会への出席を拒否したのは,道民の目には傲慢な態度と映った.
午後からは千歳基地内にとどまったまま記者会見を行ない,機関砲などの発射を伴わない飛行訓練の再開について「若干の間、見合わせる」と述べたものの、技術水準を維持する必要があることから、「住民に十分説明した上で再開したい」との考えを示した。一方、発射訓練は「誤発射の原因が究明されて、同じ事故が起きないことが保証されるまでは中止する」と述べた。
平沢政務官は,この後基地の滑走路で、今回事故を起こした戦闘機が所属する、沖縄の第八三航空隊の隊員約百人の前で訓示し、事故防止の徹底を訴えた。事態の重大性の認識が在京幹部とは異なっている.おそらく事故の持つ技術面での深刻さ,それが与える影響をどう防ぐのか,といったことに考えに引きずられていたのではないか.この時点での彼のスタンスは,完全に内向きになっていたと思われる.
⑤神妙姿勢の後退
27日に入ると,自衛隊の神妙な姿勢にも若干の変化が出てきた.
この日午前の記者会見で,中谷長官は,今後の島松での訓練について「我が国の防衛上、航空自衛隊の戦闘機乗員の能力を向上させる訓練、また射撃をする訓練というものは、必要不可欠だ」とし,「現在は射撃訓練を中止しておりますが、今後の射撃の在り方につきましては、地元のご納得が頂けるよう最大限努力をする」と述べた.
この会見の最中に,沖縄の北谷町での米兵による婦女暴行事件の第一報が飛び込んだ.まさに日米安保条約の本質をさらけ出すような記者会見となった.
この会見で中谷長官が「訓練弾の回収につきましても、全力を挙げて取り組む」と語ったのと,ほぼ時を同じくして,航空幕僚監部は,未発見の弾の捜索を、週明けにも打ち切る方針を固めた。誤射された弾は、ほとんど見つかっていないが、空幕は民家の近くに残された弾はすでになく、未発見弾にも危険性はないと判断したものである.
空自第二航空団は、捜索人員の確保のため、すべての飛行訓練を中止していたが,捜索を打ち切り次第、弾薬を搭載しない飛行訓練を再開する,と発表した.約四十機のF15戦闘機が所属する二空団は、防衛庁が全機について弾薬を積んだ訓練を中止しているため、弾薬を使わない海上での空対空戦闘訓練などにとどめる。
翌30日,帯広の陸上自衛隊第五師団は、然別演習場(鹿追町)での空包による射撃訓練を明日から再開する、と発表した。同師団は,士幌町の農家に重機関銃弾一発が着弾した事故により,訓練を中止していた.その原因を「跳弾」と断定.士幌町が空包に限って訓練を認める回答書を出したためで、同演習場での射撃訓練は62日ぶりとなる。
三日坊主というが,自衛隊の神妙姿勢は,わずか2日で終わった.
北広島市では、市長の抗議声明の後緊急市議会が開かれた.市役所には市民から「一体何が起きたのか」「うちは大丈夫か」といった電話での問い合わせが殺到した.夕方になって、市と市議会は連名で,訓練中止を求める文書を作成.ただちに第二航空団に送付した。
札幌市も「ゆゆしき問題と受け止め」調査を開始したほか、行政部長が電話で第二航空団に抗議した.恵庭、千歳,苫小牧の近隣各市は、事故に抗議し訓練の自粛を求めた.また北広島、千歳、恵庭の三市は,共同で東京の本庁に要請行動を行なうことで合意した.極めてすばやい対応である.
翌26日午前10時 小林三夫北広島市助役、東川孝千歳市長、永田正則恵庭助役の三者が,そろって防衛庁航空幕僚監部を訪問した.三人はともに公務で東京出張中であったが、急きょ行動をともにすることとなった.一行は「あってはならない事故。住民の不安を取り除くため、原因が分かったものについては明らかにしてほしい」と申し入れた.自衛隊側も、すでに訓練を中止していることを明らかにし、「住民の不安を取り除くため、(原因について)事実と判明したものは途中でも明らかにしたい」と述べた.
同じ26日午前、北広島では,市議会がその総意を表明するため、全員協議会を開いた.会議に先立ち、市議会側は自衛隊に対し,直接説明に来て、市民への誠意を示してほしいと申し入れた.しかし自衛隊側は「報道されている内容以外に公開できるものはなにもない。説明員を派遣することもむずかしい」と協議会への出席を拒否した。
全員協議会では「出席拒否の態度には怒り心頭に発する。まず最初にきちんと説明するのが義務だ」との怒りの発言を皮切りに、「編隊訓練になると、いつも空域をはみ出している」,「弾は五キロも飛ぶ。市内のどこにでも起こる事故」と体験に基づく抗議が相次いだ。
仮称「北広島市基地対策調査特別委員会」を設置する意向を固めた。基地や演習に関する問題、事故での住民補償などを調査する。共産党の中野議員は、基地撤去まで踏み込んだ特別委員会の設置を求めた.
同じころ,千歳市の鈴木修助役と、恵庭市の近藤信吉収入役は,千歳基地を訪れ、二空団の岩崎茂司令に、事故原因の究明と当面の訓練中止を求める緊急要請書を提出した。
北海道庁も強い抗議の姿勢を示した.翌日の道議会で共産党萩原議員の質問に答えた堀知事は,「極めて遺憾で、あってはならないことだ」と批判した。そして「自衛隊機による誤射事故に関する連絡本部」を設置すると発表した.28日には堀知事が現地入りし,リハビリセンターを視察した後,北広島市役所で本禄哲英市長と会い、道の対応などを説明した。
堀知事は視察後、「現場を見て本当に恐ろしさを感じる。今回の事故はあってはならないもの。(島松射爆撃場は)近くに住宅地もあり、訓練のあり方を見直すよう防衛庁に申し入れをしたい」と述べた。
Ⅲ 住民の怒り
①北広島市民の反応
F4EJ(自衛隊のホームページより) 着弾個所西側の西地区連合町内会(896世帯)と、東側の北広島団地第四住区自治連合会(1466世帯)は,緊急の役員会を開いた。誤射事故に対する地域住民側の意見や対応をまとめるため開催したもの。
このうち,西地区連合町内会の役員会には、役員ら十五人が出席。空自第二航空団に対し、1)島松射爆撃場での訓練の完全中止、2)住民対象の事故の経過説明の開催―を求めることをきめた.住民側から訓練中止を求める動きが出たのは初めて。
出席者からは「空自の飛行機が上空を飛んでいる限り不安は消えない。演習はやめてほしい」「誤射の原因が機械にあるなら、事故は再び起きる可能性がある」など不安の声が相次いだ。
北広島団地第四住区自治連合会の役員会には十人が出席。「人間に被害が及ばなかったのは偶然」「飛行機の射撃訓練があることすら知らなかった。くわしい説明が必要」などの意見が出され、空自側が経過説明や謝罪をするよう、要請することを決定した。
ここで誤射事件に対する市民の反応を,新聞から拾ってみたい.
リハビリセンターの駐車場と道路一本隔てた向かいに住む主婦東海林静子さん(72)は,「ドーンというガス爆発のような音がした後、ビリビリという音がした。演習には慣れているが、まさか銃弾が降ってくるなんて思いもしなかった。私自身、病気で訪問看護を受けている身で、思うように動けない。もし自分に降りかかってきたらと思うと、恐ろしい…」と絶句した。
近くの民家の主婦(53)も「十一時ごろ何かすごい音がした。自衛隊の演習とは全然違うドスーンというものすごい音だった。飛行機が落ちたのかと思った。もし実弾ならとんでもない。一歩間違えたら直撃を受けていたかもしれない。恐怖感が沸いてきた。考えられない」と不安そうな声で話していた。
数百メートルのところに住む田村智幸さん(32)=畑作農業=も怒りました。「こわいですよ。すぐ近くに北広島団地があります。もし団地だと大惨事になっているところでした。勝手に弾が出るのかと思うとおっかない」(赤旗)
森さん宅上空には、本来こないはずの自衛隊機が頻繁にやってきます。「ヘリの編隊が低く飛ぶので、操縦している人の頭が見えます」 リハビリセンターから歩いて十分。弾丸が発見されたゴルフ場はすぐ近くです。「事故当日は午後から二度、自衛隊が訪ねてきました。迷惑しているとはっきりいいました。考えると腹が立ちます。演習をなくしてほしい。ここは道営の住宅です。私たちが勝手に演習場のそばに住んだわけではありません」
航空自衛隊千歳基地は、北広島市との申し合わせで、飛行範囲を国道36号以西と決めていました。国道36号の東側百メートルに住む女性(72)は「飛行機がくるとテレビも電話も聞こえない。そりゃあひどいもんです。低空で上を飛ぶから恐怖を感じます。いつも真上や東の方に飛んでいったりしてる。国道の西側なんてうそですよ」と怒ります。
②然別誤射事件の被害者,鈴木さんの感想
ことし四月に北海道の陸上自衛隊然別(しかりべつ)演習場から一二・七ミリ重機関銃でビニールハウスが銃撃された士幌町の農家、鈴木健治さん(47)は、つぎのように語りました。
ニュースを見て、ほんとに驚きました。あってはならないことが、またも起こった。福祉施設が誤って銃撃されるとは、恐ろしいことです。ないはずのことがたびたび起こるのは、自衛隊が起こした誤射事件を、これまで加害者の自衛隊が調査しただけで真相がうやむやにされてきたからです。
うちのビニールハウスの支柱には重機関銃の銃弾が突き刺さっていたんです。なのに自衛隊は、演習場で撃った弾が三キロメートルほど跳ね返ってとぶ「跳弾」などといってすまそうとしています。跳弾にしては銃弾の先端がきれいで、自衛隊の説明には不信感があります。専門家が参加した第三者機関で科学的に調査し、原因をきちんと調べてほしい。そういう徹底調査ができていないから、自衛隊による誤射事件があとをたたない。原因を究明するまで演習を中止してほしい。
③米軍機低空飛行のおまけ
この日の午後2時半ころ 火に油を注ぐような出来事があった.戦闘機とみられる小型ジェット機二機が小樽市上空を低空で通過したのである.二機は札幌方面から小樽市東部の朝里地区上空にごう音を発しながら飛来し、北西の日本海方面に飛び去った。物的被害はなかったが、「子供がごう音に驚いて泣き出した」,「昨日は自衛隊機の誤射事件があったばかりで、今度は飛行機が墜落したかと思った」などの声が小樽市や報道機関に相次いだ。
札幌防衛施設局によると同日、北海道上空を飛行した自衛隊戦闘機はない。米軍三沢基地(青森県)の活動を調べている「三沢基地監視グループ」の伊藤裕希代表は、「自衛隊機は低空飛行訓練は行わないので、米軍のF16戦闘機に間違いない」と話している。米軍三沢基地は北海道新聞の取材に「コメントはできない」としている。
Ⅳ 政党・団体の反応
国政の場でも,道議会でも,もっともすばやく反応し,正確な方針を出したのは共産党だった.事実上,共産党の独壇場だった.
共産党北海道委員会は、堀達也道知事と第二航空団に▽原因究明と責任を明確にする▽飛行経路を明らかにする▽第二航空団に謝罪を求める▽島松空対地射撃場を撤去する、の四点を申し入れた。
藤井章治副知事との会談で,副知事は「今回の事件は北海道や航空自衛隊だけの問題ではない」と指摘し、原因究明と真相が明らかになるまで、訓練は中止すべきだ、とのべた。(赤旗)
28日には,現地で共産党、道労連などによる抗議集会が開かれる.緊急動員にもかかわらず百名以上が参加し、演習の中止と島松演習場の撤去を求めた.
他の政党は行政の後追いをしただけだった.議会での質問すらできなかった.民主党は中谷元防衛庁長官に対し、徹底的な原因究明と再発防止を申し入れた。民主党北海道と連合北海道の合同調査団は、徹底的な原因究明と再発防止などを同航空団に申し入れた.公明党道本部は同日、原因の早期究明などを同航空団に申し入れた。市民ネットワーク北海道も同日、実弾訓練全面禁止と全国演習場の撤去検討を求める申し入れ書を同航空団などに送付した.
社民党国会調査団は、空自第二航空団や島松空対地射爆撃場などを訪れた。調査団は同日、道庁で会見し「周囲に学校や福祉施設がある中での射爆撃場使用は無理があり、移転も考えるべきだ」との認識を示した。
(C) 問題の焦点が明確に Ⅰ 怖ろしい技術的欠陥
①事故調査委員会の中間報告
27日,航空幕僚監部の事故調査委員会は中間報告を発表した.
報告によれば,電気系統の故障が原因で機関砲が作動した可能性が高い。右旋回するために操縦かんを倒した際、誤電流が流れ自動的に発射されたと思われる。調査委員会は、操縦かんの不具合が故障によるものか、同型機に共通するシステムの欠陥によるものかについて、さらに調査を進めている。
同委員会によると、事故機の主電源であるマスターアームスイッチをオンにしたうえで、パイロットの供述にしたがって操縦かんを左右に倒してみた.そうすると,ある一定の位置で,引き金を引かなくても,機関砲の発射回路に電流が流れることが確認された。事故当時、当該機は右旋回しており、操縦桿を右に倒していたとみられる.しかし機関砲については、弾を装備しないで作動テストを繰り返したが、異常電流による誤作動は確認できなかった。
操縦席には記録用のビデオが備え付けられている.パイロットが機関砲の引き金を引くと,ビデオ撮影が始まり,ヘッド・アップ・ディスプレーと呼ばれる光学表示装置の画面を撮影することになっている。引き金を引いたことを示すマークも写し込まれる。しかし、事故機から回収したビデオテープには撮影記録がなく、機関砲の発射を示すマークも入っていなかった。同委員会はビデオに撮影記録がないことが「発射操作をしていないのに弾が出た」との操縦士の証言を裏付けたと見ている。
堀好成空幕監察官は「世界でこういう事例は聞いたことがなく、設計上の問題かどうかはさらに調べてみないと分からない。同形機共通の問題か、事故機固有の問題かは今後、調べていく」と説明した。
②中間報告にもとづく対応
航空自衛隊は全国の空自基地で、二○ミリ機関砲を搭載したF4戦闘機など五機種について、緊急の点検作業を始めた。翌日にはさらに,点検対象をすべての機関砲搭載機に拡大した.点検項目は武器の操作にかかわる油圧系統や、電気系統などのシステムが対象。さらに機体の整備方法の見直しも進めている。
千歳基地では、第二航空団に所属するF15戦闘機約四十機について点検を開始。また、今回誤射事故を起こした戦闘機が所属する沖縄の第83航空隊のF4EJ改戦闘機計六機も同基地内で点検を行っている.これらの機は点検が終わり次第、那覇へ帰る予定。事故機は引き続き、防衛庁・航空幕僚監部の事故調査委員会が調べている。
さらに自衛隊はスクランブル体制を見直す検討をはじめた。三沢基地と那覇基地には,誤射事故を起こした「F4EJ改」しか配備されておらず、緊急発進した場合に不測の事態が起こる可能性があるためだ.(赤旗)
F4戦闘機の整備・点検は、飛行前後に機体各部の作動状況を確認するほか、飛行百時間ごとに計測機器を使って整備。三年ごとにメーカーの三菱重工でオーバーホールを行っている。事故機が最後にオーバーホールを受けたのは99年1月。三菱重工の技術者も事故機が駐機している千歳基地に派遣して原因調査に当たっている。
防衛庁は、事故機が対地攻撃訓練をしていた島松射爆撃場について使用中止、移転も視野に検討を始めた.「事故原因が判明しただけでは済まない話」(幹部)として、安全確保策を再検討する方針.同庁内部では「住宅地が側まで広がっている状況では、今まで通りに弾薬を積んで訓練を行うことは難しい.これで大丈夫という案がなければ使用中止も考えざるを得ない」などの声も出ている。空自が使用できる射爆撃場はほかに三沢市の一カ所しかないため、代わりの訓練地を海上にすることも模索している。
Ⅱ 市街地の上空で射撃演習するという恐怖
①北広島の状況
訓練機の飛行ルート 誤射の想定図
富ケ岡は、同市最大の人口密集地域です。札幌市のベッドタウンとして人口が急増。12発が着弾した北広島リハビリセンター周辺には、住宅や学校、病院などが集中しています。同センターから東に約一キロしか離れていない道営北広島団地には、約九千世帯、約一万九千人が生活。団地内には、小学校が四、中学二、保育園と幼稚園がそれぞれ二つずつあります。団地に隣接する東部地区にも約一万四千人がおり、小学校二、中学と高校が各一、高等養護学校と大学もあります。(赤旗)
航空自衛隊千歳基地司令官と周辺自治体は1960年、自衛隊機の射爆撃演習に伴う騒音被害への対応をまとめた「協定書」を交わした.この協定では、飛行ルートを「国道36号線を越えない範囲」とする申し合わせをしました.しかし実際にはこの申し合わせは守られていません.(赤旗)
射爆撃場の周辺は人口が過密化し市民生活と軍事という非日常が紙一重になっている。攻撃目標の位置を移すなどの再検討が必要だ。火器の能力を考えると、演習場の周りに最低でも幅十キロ程度の安全地帯を設けるか射撃するエリアを狭めるべきだ.
島松での訓練は年間に計二週間ほどの頻度で行なわれている.日本の各地に配備されている戦闘機隊が次々と来て射撃訓練を行なう.二〇ミリ機関砲とロケット弾の射撃・投下訓練を繰り返す。火薬抜きの訓練弾で行なわれているが、貫通・殺傷能力には変わりない.三角形のコースを旋回しながら、射撃を繰り返すが、機体を旋回させる間に機首が民家の方角を向いてしまうのは避けられない.今回の誤射も、まさにその瞬間に起きた。事故後,視察した防衛庁幹部は,北海道新聞の取材に対しこう述べている.「あれだけ近くに住宅街が迫っているのに驚いた。住民に不安を感じさせない訓練のやり方を、追求しなくてはいけない」
②全国の状況
自衛隊の演習場は全国に70カ所以上。その周りに暮らす何十万人もの人々に、北広島市の事故の動揺と衝撃が広がっている。 広大な土地を必要とする演習場は、人家の少ない原野などにつくられている。射場の選定に明確な基準はない。 安全対策も射場区域内の着弾が前提であり、関係自治体などに訓練日程を知らせ注意を呼び掛けている。
戦闘機から地上を狙うための射爆撃場は全国に二カ所である.ひとつが島松、もうひとつは三沢の天ケ森空対地射爆撃場.福岡県内にあった射爆撃場は、地元の撤去要求で30年前に閉鎖された.
③沖縄の場合
沖縄県金武町のキャンプ・ハンセンは本土に移転された155ミリりゅう弾砲の演習が実施されていた基地。県道104号を通行止めにして実施した砲撃演習は移転されたものの小火器による訓練は続いている。
これまで、被弾や砲弾の破片が落下する事故が相次いできた。88年には射撃場から約2キロ離れた民家やガソリンスタンドなどに9発のライフル弾が飛んできた。吉田町長は「一歩間違えば、住民が即死しかねない。演習する側はその認識を強くすべきだ」と話す。
沖縄本島の面積の約20%を自衛隊と米軍の施設が占める。基地の周囲に住宅密集地が多く、住民は危険と隣り合わせの生活を強いられている。
今月13日には米軍普天間飛行場近くの民家のわきに、ガスマスクなどが詰まった約10キロの袋2つが米軍ヘリから落下した。72年の本土復帰から昨年末までで、米軍機による墜落や落下物などの事故は149件。復帰前の59年には同県石川市の小学校に米軍機が墜落し児童ら17人が死亡した。
米軍普天間飛行場の代替基地の建設地とされる名護市でも、米軍キャンプ・シュワブから砲弾が市街地に飛び出し、車などを貫通する事故が相次いでいる。78年には演習中の米兵が集落に向けて機関銃を乱射し、民家から弾痕が見つかった。
「北海道の事件は対岸の火事ではない。沖縄は危険極まりない基地と隣り合わせの日常だ。戦後56年たっても何も変わらず、さらに基地が作られようとしている」
④三沢の場合
本州唯一の対地射爆撃場である青森県の三沢対地射爆撃場は、三沢市と六ケ所村にまたがり、陸地面積は約767万平方メートルにのぼる。4月3日には米軍のF16戦闘機が射爆撃場の沖合約1キロの海上に墜落した。五月には砲弾の熱が原因とみられる原野火災が発生し約四千平方メートルを焼いた。91年にはF16が機体不調のため射爆撃場沖に実弾を投棄した事故も起きている。
宮城県色麻町や大和町などにまたがる王城寺原演習場では、88年9月に、戦車が撃った実弾が境界から約700メートル離れた場外に飛び出した。砲弾は、林道の補修作業中だった9人の営林署員のすぐ近くで爆発した。
大分県の玖珠、九重、湯布院町にまたがる陸上自衛隊日出生台(ひじうだい)演習場は、約4950ヘクタールで西日本一の広さがある。97年5月には、陸上自衛隊が夜間に照明弾の発射訓練をしている際、照明弾の一部が演習場に隣接する玖珠町小野原地区の県道に落下した。
陸上自衛隊と米軍による共同演習が昨年まで2年連続で実施された陸上自衛隊あいば野演習場がある滋賀県今津町は「北海道北広島市での誤射事故を正式に確認できた段階で、演習場に何らかの申し入れをすることも考える」としている。
⑤然別演習場の事故
十勝管内士幌町では,四月末、農家に陸上自衛隊の重機関銃弾が着弾した.鹿追町の然別演習場で発射された銃弾が流れてきたものだった.
この事故で中止されていた射撃訓練は25日再開の予定だった.しかし北広島の知らせを聞いた住民は「誤射の状況を把握する必要がある」と町に申し入れた.二時間に及ぶ協議の末、結論は先送りになった。
とりあえずの感想的まとめ 米軍であれば、居なくなればそれで済むが、自衛隊の場合はそれほど簡単ではない.実弾訓練についても同じことだ.自衛隊賛成派、演習賛成派、そして近隣地域以外のすべての国民の含めて一致し得る要求を打ち出すことが必要だ.そういう意味で最大の要求は,「誤射」、「誤作動」の原因と対策がはっきりするまで,実弾射撃訓練を中止することだ.
同時に,このような欠陥商品を売り込んだものの責任をはっきりさせることだ.100%自衛隊の立場に立っても、こんなものは兵器とは言えない.
やや不穏当な言い方になるが,もし,事件がパイロットの操作ミスによる誤射事件であったら,少なくとも自衛隊側にとって,事態はこれほど深刻になることはなかっただろう.
事件を調べたら,そこに「お化け」がいた,ということが最大の衝撃である.自衛隊の主力戦闘機が何か得体の知れないウイルスに感染した,そして機関砲を暴発させて戦闘能力を失った,というSFもどきの事態が発生したのである.おそらくパイロットにとってこれ以上のストレスはないだろう.
わずか2秒間で200発を撃ち尽くす兵器は、それだけでも空恐ろしいものだ.しかも勝手に暴発する危険性があるとあっては、ブレーキの利かないスポーツカーのようなものである.一般社会なら、それだけでも発売禁止処分が当然だ.
しかも誤作動の原因として説明された内容が,ほとんど神秘的だ.恐らく、重大機密の暴露につながるのを防ぐための、何かのごまかしがあるだろう.これまでの説明では到底納得のいくものではない.
もうひとつは,島松演習場を射爆場として使用することを断念させることだ.フェイル・セイフ(間違っても安全)の観点が必要だ.演習機が、日常的に、指定された空域を大きくはみ出して訓練を行なっていることは、誰の目にも明らかだ.
島松が演習場として開設された当時とは、飛行機の性能がまったく異なっていると思われる.今日の超高速ジェット機には、指定された三角コースを飛ぶことが困難になっている可能性がある.そもそも、現在では,島松を射爆場として使用すること自体が,物理的に不可能になっているのである.
恐らくは第二航空団自身が最も良く,そのことを分かっていたはずである.もし分かっていなかったとすれば、その管制能力が問われる.三角コースを外れたことは,これまでにもパイロットから報告があったはずだからである.コースを外れる危険が十分にあることを知っていて,演習を続けていたなら、今回の事故は、未必の故意に属する犯罪である.
問題は、演習場の周辺に家が建ち始めたことにあるのではない.そもそも決められたコースを守ることは、それ自体訓練の重要な一環である.技術的に困難なら、現在の飛行機の性能にあわせてコースを変更すべきである.それが不可能なら、島松の使用は断念すべきである.これが,軍事科学的に見た常識ではないだろうか.
事故を防ぐには,技術の完璧さを求めることはもちろんだが,フェイル・セーフの発想ももとめられる.誤作動が発生したとしても,それが事故にまで発展するのを抑えるための,二重・三重の防御システムだ.今回の事故の場合,最終的なセーフティー・ネットは,十分な余裕を持った射爆場以外には有り得ない.
したがって,島松演習場の射爆場としての使用を断念することこそが,根本的な解決の道である.
■資料 自衛隊の過去の主な誤射事故
65・ 2 青森県三沢市の天ケ森射爆撃場で訓練中の航空自衛隊機が、本来の目標から1.5キロ離れた工事現場に、訓練弾84発を誤射。現場にいた約30人の建設作業員らは無事
81・ 9 同射爆場上空で訓練中の航空自衛隊機が誤射した訓練弾が民家の軒先5メートルの庭先に落下
85・ 5 静岡県御殿場市の陸上自衛隊東富士演習場で、演習中の戦車砲の実弾が場外に落下して破裂。着弾点から約500メートル離れた場所では営林署職員らが作業中だった
95・11 石川県能登半島沖で、訓練中の航空自衛隊のF15戦闘機がミサイルを誤射し、同僚機を撃墜
96・ 6 ハワイ近海での環太平洋合同演習(リムパック96)中、海上自衛隊護衛艦「ゆうぎり」が、高性能20ミリ機関砲の実射訓練中に米軍機を誤って撃墜
97・ 8 海上自衛隊護衛艦「まつゆき」が太平洋上の訓練射撃中、76ミリ対空艦砲が作動し、自艦の艦首を撃ち抜く
99・ 2 海上自衛隊護衛艦「はるな」が京都府舞鶴市の海自舞鶴基地で20ミリ機関砲の実弾を誤射。人家上空を実弾が飛んだ
主 張 自衛隊機誤射
人家の近くで射撃訓練は無謀 2001年6月27日(水)「しんぶん赤旗」
航空自衛隊の戦闘機が北海道の島松射撃場で訓練中、20ミリ機関砲を誤射し、近隣にある北広島市のリハビリセンターや特別養護老人ホームの屋上、駐車中のバス、乗用車などが被弾しました。
幸い死傷者はありませんでした。もし人が被弾していたら取り返しのつかない事になるところでした。
中谷防衛庁長官は「あってはならない事故」といい、小泉首相は「二度とおこらないようにしっかり点検して」とのべています。
当然のことですが、問題をもっと深刻にとらえるべきです。
なぜ対地攻撃訓練か
防衛庁の発表によると、ロケット砲の発射ボタンを押したら、機関砲の引き金を引かないのに、訓練弾が発射されたということです。
いったいなぜそんなことが起きたのか。機関砲の安全装置は本当にはずされてなかったのか。二百発積んでいた機関砲弾のうちなぜ百八十八発だけ発射されたのか。不明の部分が多く残されています。
これだけ大きな不安と被害を住民に与えた事故です。政府は原因究明とともに、事実関係を遅滞なくすべて明らかにしなければなりません。
問題は、団地や福祉施設がある近くに航空自衛隊の射撃場があり、そこで自衛隊機がロケット弾などを地上の標的に撃ち込む対地攻撃訓練をしているということです。
速度の速い戦闘機から撃ち込む訓練です。砲弾が演習場外に飛び出すなどという誤射は、絶対にないとは到底いえません。
これまでも、六五年には青森県三沢市の天ケ森射爆撃場で自衛隊機が近くの工事現場に訓練弾八十四発を誤射、八一年には同射爆撃場上空で誤射した訓練弾が民家の庭先に落下するなど、同様の事故はくり返し起きています。
軍事訓練に事故はつきものです。自衛隊だけでなく、米軍の訓練による事故も無数に起きており、大きな被害をもたらしているのが日本の現実です。
住民の頭上で超低空訓練する米軍機の墜落や破片落下は、住民の恐怖の的になっています。
米軍基地の七五%が集中する沖縄県では、被弾や砲弾落下などが絶えません。最近も、海兵隊の戦闘攻撃機が爆弾投下に失敗し、那覇空港近くの海上に投棄する事故が九六年に起きました。
今回の事故は、自衛隊であれ米軍であれ、基地周辺の住民がいかに危険と隣り合わせにあるかを改めて示したものです。
だいたい、住民が住んでいる近辺で危険な軍事訓練をくり返すのは異常なことです。そのことは、米軍がアメリカ本国では住民のいない砂漠などで射爆撃訓練などをしているのを見ても明らかです。
島松射撃場の周辺も、航空自衛隊が射撃訓練を始めた当時からは大きく変化し、いまは札幌市のベッドタウンになり住宅が増えています。
住民の安全を第一に
こんな所でロケット砲や機関砲を戦闘機から発射することがむちゃなのです。日本共産党の小泉親司参院議員が二十六日に国会で「設置の見直しを」と要求したのにたいし、防衛庁長官も「真摯(しんし)に検討する」と答えざるをえませんでした。
今回の事故は、日本の政治が、国民の生命、財産を守る立場に本当に立っているのかどうかという問題を、鋭く突きつけています。
「住民の安全が第一」というなら、住民と隣り合わせの危険な軍事訓練はもうやめるべきです。
2001年7月6日