2008.9.30

ボリビアの国内対立激化と米国の陰謀

 

9月18日現在、ボリビアでは危険な事態が進行しています。一つはこれまで反政府の立場を強めてきた東部地方が、政府機関を襲うなどの実力行動に訴え始めたことであり、もう一つは、その背後にアメリカがいると見たモラレス政権が、ラパス駐在のゴールドバーグ米大使を国外追放したことです。

暴動の方は、一定の騒ぎの後沈静化する可能性もありますが、もっとも過激な県知事が治安紊乱の疑いで拘束されるなど、流動的な要素も残されています。

事態の経過を見ると、東部の反政府行動をあおり組織していたのがゴ大使だったことは間違いないようで、ボリビアのチョケワンカ外相も、ゴ大使の追放がただちに米国との断交を意味するものではないと強調しています。

以下に、@東部地方の反政府活動がどのように進展してきたのか、Aゴールドバーグとその背後の米政府がどのように反政府活動とかかわってきたか、を述べてみたいと思います。

 

T 東部地方の反政府活動

(A) ボリビアという国

ボリビアはインカ帝国の一部でしたが、16世紀の半ばころにスペイン人ピサロにより征服されました。ちょうどその頃、アンデス山中のポトシというところに巨大な銀山が発見され、最盛期には世界の銀生産量の半分をまかなうほどでしたが、その後資源の枯渇とともにボリビアの国力も衰えてゆきました。

現在では錫鉱山が主要産業となっていますが、GDPや国民所得などは南米でも1,2を争う貧困国となっています。

この国では白人が少なく、アイマラ族とケチュア族という先住民が国民の圧倒的多数を占めていますが、彼らはずっと政治の枠外におかれてきました。その人たちが、2000年の「水戦争」という市民運動を機に立ち上がり、ついに2005年の大統領選挙では初の先住民大統領を実現させます。

*水戦争: アメリカのエンロン社がボリビアの水道公社を買い取り、法外な水道料値上げを吹っかけた。これに怒った市民が立ち上がり、抗議行動やゼネストを繰り返すなかで、水道を国の手に取り戻した。この闘いのなかで農民と市民との共闘が強まり、コチャバンバ農民組合の指導者エボ・モラレスが全国的な注目を浴びるようになった。

この国は、アンデス山脈に囲まれた高原地帯と東部の平原地帯からなっていますが、最近では東部での農業生産が盛んになり、政府や外国資本の投下により大規模な商品作物の生産が行われるようになっています。

ボリビアでは1952年に革命が起こり、農地解放が行われましたが、そのときも東部平原地方の農地は農地改革の対象から除外されました。それはこの地方が商品作物を作って外貨を獲得することを期待されたからです。そして大規模農業の発展のために、手厚い保護と積極的な開発が行われました。外資も積極的に導入されました。

それらの農業経営を支えるのは白人富裕層であり、彼らはこの地方の政治も牛耳っています。いっぽうで、土地と職業を求めて、多くの人たちが高地から低地へと移動しています。

(B) 三日月同盟の結成

 2003年、ボリビア全土を巻き込む巨大な反政府闘争が発生しました。第二次ガス戦争といわれます。国民の大多数は天然ガスを国有化して、その収益を国民のために使うようもとめました。

この反政府闘争には東部4県も積極的にかかわりました。しかしその狙いは、国民の願いとは別のところにありました。彼らは身勝手な中央政府に対して「自治」を唱えましたが、実のところは「自治」の名の下に、天然ガスや石油などの資源を独り占めしようと狙ったのです。

ボリビアの石油や天然ガスは、その大半がこれら東部4県にかたまっています。これらの県の政治ボスは自らが白人金持ち階級の代表であると同時に、これらの資源の「所有者」でもありました。といっても自らに資源を開発する能力もこれを管理する能力もありませんから、外国資本に寄生してそのおこぼれに預かろうとするだけの話です。

2005年、反政府闘争に勝利したモラレス政権は天然ガス資源の国有化を宣言します。そしてそこから得られた利益を貧しい先住民に分配し、医療や教育、独自産業の育成に使おうとしました。これは外国資本の天然ガス会社のおこぼれに預かっていた東部の金持ちには大きな打撃となります。

もちろん国有化の対象とされた天然ガス会社、さらにその背後にいるアメリカにとっては、そもそも経営そのものがパァになってしまいますから、東部の資産家たちをあおって反対運動を始めたわけです。

四つの県はボリビアの東部を北から南へ三日月のような形で連なっているため、この反対同盟は「三日月同盟」と呼ばれるようになりました。これらの県では、知事を先頭に「自治権拡大」のキャンペーンを張りました。そして政府が認めないまま「住民投票」を強行し、石油・ガス資源に対する管理権を政府の手から奪おうとしました。

第一次、第二次のガス戦争が外国企業の国有化をめぐる争いであったのに対し、これは「県有化」をめぐる第三次ガス戦争であるともいえます。

しかし、国際環境を見れば、ことはガス資源の取り分をめぐる争いの域にとどまるものではありません。モラレス政権はネオリベラリズム政策に反対し、弱者の立場に立った政治を実現しようとしています。そのためにアメリカの経済支配と対決し、南米諸国との連帯のなかで新たな発展の道を探ろうとしています。

この「戦争」は、南米諸国連合(UNASUR)も全面的にかかわっています。だから、直接にはモラレス政権対三日月同盟の対決ですが、大きく見るとアメリカ対南米連合の対決という性格も持っています。

 

U アメリカは両派の対立にどうかかわってきたか

アメリカはボリビアを一貫して属国扱いしてきました。気に入らない政府が出現すると軍事クーデターで打倒するということを繰り返してきました。80年代からは、コカイン問題で散々干渉してきました。

この国にはあまり資源がなく、アメリカにとっては魅力が少ない国ですが、東部平原には石油や天然ガスの資源があり、大豆や綿などの商業作物も生産されるので、この地域にはせっせと投資を行ってきました。

つまりアメリカにとってはボリビアという国などどうでも良く、西部の高地に住む先住民などはむしろわずらわしい存在です。その国にいきなり民主的・民族的な政府が出来て、国家と資源の主権を宣言するなど、もってのほかの事態です。おまけにその指導者がコカ栽培農民の指導者出身とあっては、到底許せるものではありません。

しかし、昨今の南米の動きを見れば、アメリカが「東部の自治」という名の分離主義など成立しようもないことを分からないはずはありません。「東部の自治」は所詮、一時の方便にしか過ぎません。これをネタに中央政府に揺さぶりをかけ、情勢を「不安定化」させることが狙いです。

いつもの手ですから、連中の動きは手に取るように分かります。資本家ストを打って、ラパスへの道を全面封鎖させ、兵糧攻めにしながら、至る所で警察や軍と衝突劇を繰り返し、これをメディアで大々的に取り上げさせ、「不穏な情勢」を作り上げます。時が熟せば、手兵の「アメリカ学校」卒業の将軍たちがクーデターでモラレス政府を蹴散らすという段取りです。

*アメリカ学校(School of Americas): アメリカ国内にあるラテンアメリカ各国軍幹部の養成学校です。軍エリートを集め、対左翼弾圧マニュアルを施します。ここの卒業生は、各国でクーデターを起こし、民主的政治家や活動家に徹底的な弾圧を加えました。

この筋書きに沿ってゴールドバーグが何をやってきたか、それはいまだ定かではありません。

ただサンチアゴで行われたUNASURの緊急首脳会議で、モラレスが演説の最中に振りかざした写真は、陰謀の規模と広がりを示唆するに十分です。モラレスの説明によれば、その写真は昨年サンタクルスの市内で撮られたものでした。写っているのはもちろんゴールドバーグですが、彼と並んでいる人物のひとりは、コロンビアの準軍事組織(パラミリタリー)の幹部でした(どこかに写真の実物があると良いのですが)

コロンビアのパラミリタリーはその野蛮さで有名です。間違いなく、すでに数万のコロンビア人を殺しています。国際人権組織はもとより、コロンビア政府そのものさえ、公式にはその解体を宣言せざるを得なくなっている存在です。

彼らをサンタクルスに引き入れて何をやらせるか、それが政府派に対するテロ、暗殺であり、政府系の施設に対する破壊活動であることは間違いないでしょう。それしか出来ない連中ですから。反政府派幹部といってもサンタクルスの田舎紳士連中です。こんなやばい連中を使いこなすような度胸も力も知恵も、まずないと思います。誰がコロンビアの傭兵を引き入れ、指図しているかはあまりにも明らかです。