「人民民主主義」(インド共産党=マルクス主義機関紙)
Vol. XXV No. 52
December 30,2001

ブラジルの新たな道

Sitaram Yechury  

 

2001年12月9日から12日まで、リオデジャネイロ市でブラジル共産党(PCdoB)の第10回全国大会が開かれた。ブラジル全州から850人の代表が参加した。27カ国から32の代表団が列席した。この大会に参加したインド共産党(マルクス主義)代表団の報告。ルーラ当選前の記事であることに留意されたい。

 

拡大戦線の形成

PCdoBは1985年に合法性を獲得したばかりである。それ以前は反動的独裁政権により一切の共産主義者の運動が禁止されていた。合法化以降の15年間で、この党はこの国で最大の共産主義組織に成長した。この成果は、すべてのブラジル左翼・愛国勢力が団結を強めるための活発な仲介役となることによって達成された。

このことは大会の特別セッションでますます明らかになった。そこにはブラジルのすべての野党指導者が出席し、来るべき2002年大統領選挙で、広範な戦線を形成するという共通の目標を宣言した。

この拡大戦線は、当面の目的としてIMF支配に追随する勢力を打倒することをあげている。その政策プログラムには、「ネオリベラル経済政策の押し付けがブラジルの豊かな資源を搾取し破滅の淵に追い込んでいる」と述べられている。

特別セッションの壇上には、これら政党のほかに、農民・学生・労働運動リーダーも列席していた。

ブラジルにおいてはさまざまな運動体が単一の連合体に結集している。したがってその指導部は異なった政治勢力の競争の場となっている。たとえば学生運動においては、高校生・大学生の全国レベルの連合組織の指導部はPCdoBのメンバーがイニシアチブを握っている。

またPCdoBは、現在国会に10人のメンバーを送り込んでいる。そして一人の市長、2人の副市長を持っている。

ブラジルはおよそ1億5000万人の人口を抱えており、その80%が都市に住んでいる。サンパウロは世界第三の都市となっている。

大会前の議論には約38,000人の党員が参加したと報告された。27の州のうち26州で州大会が開催され、自治体単位の集会も903ヶ所で開催された。これらの自治体はブラジルの人口の75パーセント以上をカバーする。

党員の基準は(我々同様に)かなり厳しいが、合法化以来、党員数は毎年15%づつ伸びている。党は日刊紙、理論的な週刊誌、イデオロギー問題と対象とする季刊誌を発行している。その文献販売売り上げは、前大会以降、毎年50%の伸びを示している。

 

「ブレイク・アウエイ」計画

大会での主要な議論は、ブラジルのための「もうひとつの政治・経済的道筋」を描き出すことにあった。

特別セッションに出席したルーラは断言した。「野党はこれまでになく統一しており、一致している。2002年の選挙では歴史的勝利を収めることになるだろう」 そして「我々は、選挙に勝つだけでなく、ブラジルを支配する準備を開始しなくてはならない」と述べた。

ルーラは「ネオリベラル=反動連合が打倒されなければ、ブラジルはアルゼンチンの運命をたどることになる」と警告した。そして「数日以内にアルゼンチンは崩壊状態に陥り、一種の内戦状況に入るだろう」と予言した。このアルゼンチンに関する予言は、その後はっきりと立証された。

新しくPCdoB委員長に選ばれたレナート・レベロは、拡大戦線のための「改革計画」の概略を説明した。彼はこの計画を「解放計画」と表現した。解放(break away)とはネオリベラリズムと対外債務の呪縛を解き放つことである。

レベロ委員長は「どの野党も、単独では帝国主義よりの政権を打ち破ることはできない。どうしても拡大戦線を強化する必要がある」と強調した。

ブラジルでは、人口の三分の一にあたる5千万の人々が貧困生活を送っている、人口の70%が「市場経済」の外側にはじき出されている。大会に出席した代議員は、ネオリベラリズムがブラジルにいかなる荒廃をもたらしているかを情熱的に語った。

1988年、インドに2年先駆けて、ブラジルはIMFの改革プログラムを全面的に受け入れた。結果は複写したかと思うほど類似している。

88年以前582社を数えた国営企業など公共部門は、系統的に分解された。2001年までに電力部門が民営化された。その価値は343億ドルとされる。データ通信部門も民営化された。264億ドルとされる。金融部門は180億ドルに相当する。そのほかにも重要産業、基幹農業部門が民営化されている。

我々がインドで見てきたのと同様、ブラジルにおいても、これらの民営化は生産能力のいかなる拡大にもつながらなかった。その代わりに利益の海外送還が増大した。90年代初め3億ドルだった海外送還は、2001年には70億ドルに達するものと予想されている。

 

帝国主義者の干渉

党大会は、IMFによるネオリベラリズムのしつけがブラジルの再植民地化をもたらすものでしかないとし、全力を挙げて2002年の総選挙でこれらの勢力を打ち破るよう呼びかけた。この呼びかけは、ブラジルのための新しい道(経済的・社会的・政治的)の案内役となるだろう。

党大会は同時に、帝国主義が全力を挙げてブラジル内政に干渉をしてくるだろうと警告した。それはほかのほとんどのラテンアメリカ諸国で試され済みのことである。それは今日の国際状況の変化の下でいっそう露骨なものとなるだろう。

テロリズム、戦争、景気後退は、資本主義とネオリベラリズムにもとづく経済グローバル化の容赦のない真の姿を反映したものである。

大会報告はアメリカ帝国主義がテロリズムと戦うための道徳的権威も政治的権威も持っていないと指摘する。そして、彼らが今日テロリストを非難する論理は、昨日まで国内外の進歩勢力を攻撃する際に用いた論理と同じであるという事実を指摘する。

そしてPCdoBは、昨日までアメリカがラテンアメリカに干渉してきたのと同じ論理で、明日はグローバルな規模で帝国主義的干渉を展開するだろうと予想する。

米国は米州自由貿易協定 (FTAA)を推進している。その際、世銀・IMF・WTOの指導するワシントン・コンセンサスが錦の御旗となっている。それは南米諸国の国家の主権を完全に否定し、帝国主義の全面支配を実現しようとするものである。

 

民主勢力は力を強めつつある

大会報告はこのような帝国主義の干渉に対し、力強い反対闘争が起こりつつあると指摘する。

「民主的反帝運動は、ラテンアメリカにおいてその力を合わせるようになっている。ベネズエラのボリーバル革命は反動的な支配階級と腐敗した諸機構に深刻な敗北をもたらした。コロンビアでの反乱の動きは強まりつつある。左翼勢力を結集した拡大戦線は、ウルグアイの主要な政治勢力に発展している。エクアドルでは先住民による革命が起こった。ペルーではフジモリ独裁が崩壊した。アルゼンチンは不安定な政府の下で深刻な経済的・社会的危機を経験している。そして労働者と大衆の闘争が拡大している。それは国をひっくり返すような巨大な運動に変わりつつある。ニカラグアのサンディニスタ戦線、エルサルバドルのファラブンド・マルティ戦線は、中央アメリカの重要な政治勢力になっている。メキシコでは先住民運動が高揚しており、左翼は力を固めつつある。カリブ海のマルティニクとグアダルーペではフランスからの独立運動が力を強めている。パナマではアメリカが運河から撤退し愛国的運動は大勝利を実現した…」

このような国際状況の評価は我々の党の立場と非常に近い。

大会での議論は、参加者を力づける革命的熱情、マルクス・レーニン主義の思想的確信によって特徴付けられていた。彼らは一致して社会民主主義のファッショナブルなスローガン(社会主義でも資本主義でもない第三の道)を、まったくのフィクションと非難した。

PCdoBは、社会民主主義を野党の政治運動のひとつの形態として特徴づけ、革命的変革の道のりの中には位置づけていない。

PCdoBは、革命党の基本として、組織原則の中心に民主主義的中央集権制をすえた。そしてイデオロギー闘争がますます重要になっていると指摘した。党のイデオロギー的基礎を固め、組織を強化し、自主独立の立場を踏み固めることの重要性が特に強調された。

PCdoBは、その80年の歴史からの結論として、「現代社会において共産党の役割は、他のいかなる組織によっても決して代替することはできない」と述べた。

大会は最後に、大きな感動のうちに、来たるべき選挙に勝利し、このブラジルに国家再建を目指す民主政権を打ち立てることを確認した。それは言い換えれば、ブラジルを間違いなしに新しい歴史への道に船出させることである。


かなり荒削りな文章で、出席者のメモをそのまま載せたような趣もある。逆に運動の理論的・実践的ポイントがストレートに表明されており、PCdoBを評価するうえでは意外に内容豊富な文章である。内政干渉にわたるような内容は触れられておらず、そちら方面に興味のある人にはちょっと物足りないかもしれない。