ハチャパーに参加してくれた皆さん，ありがとう ハリケーン・ミッチてどんな物？
私たちは北海道アジア・アフリカ・ラテンアメリカ連帯委員会といいます．
これからハリケーン・ミッチについて説明します．ハリケーンというのはカリブ海から南部アメリカにかけて発生する台風の仲間です．インド洋からオーストラリア北部にかけて発生するのがサイクロンです．ハリケーンというのは英語読みで，スペイン語ではウラカーンといいます．
ミッチというのは女性の名前です．デカイ台風には女性の名前をつけるのが向こうの決まりになっています．日本でも戦後アメリカが占領していた頃は，ジェーン台風とかキティー台風とか名づけていました．なにか不謹慎な気がしたものです．
ハリケーンも台風と同じで年中発生していますが，やはりデカイのは10月頃と決まっているようです．なかでも今度のミッチは観測史上第4位という最大級のものです．なにせ中心付近の最大風速８０メートル(時速180キロ)というから，日本の台風の常識を超えています．しかもこのミッチ，風が売りではなくて豪雨型のハリケーンだったといいますからただ者ではありません．
このミッチはカリブ海岸から上陸して，見事に中米諸国の心臓部を串刺しにしています．串刺しというより，初めて針を持ったお姉ちゃんの裁縫の練習みたいにクニャクニャ，ネチネチといたぶっている様子が分かります．
このミッチ，10月26日から29日まで停滞し，いったん出ていったかと思ったら何とUターン．ユカタン半島からメキシコ湾に抜けたのが11月3日．この日までなんと9日間も長居してくれたのです．なんとしつこい女でしょう！
どのくらいの被害をこのミッチがもたらしたか，案内のチラシに書いてあります．でもちょっとエッチな写真ばかり見て，ウラの(ほんとはこちらがオモテなんだけど)ページを読まなかった人のために，もう一度数字をお知らせします．
【被害状況】
：死者＝６６００人／行方不明者＝８０５２人／被災者＝１３９万３６６９人／負傷者＝１万１９９８人／避難施設生活者＝４万１８９２人
：住宅家屋の破損の除く総被害額は３０億ドル
≪ニカラグア≫ 【被害状況】
：死者＝２８６３人／行方不明者＝８８５人／被災者＝３６万人８２６１人／避難施設生活者＝６万５２７１人
：住宅家屋の破損の除く総被害額は１５億ドル
≪グアテマラ≫ 【被害状況】
：死者 ＝２２８人／行方不明者＝６３人／被災者＝３１万人
：住宅家屋の破損の除く総被害額は５億ドル
≪エルサルバドル≫ 【被害状況】
：死者＝１７５人／行方不明者＝６５人／被災者＝８万人４００５人
：住宅家屋の破損の除く総被害額は１億３千万ドル
「中米」ってどんなところ？
正式にいうと中央アメリカ，大きくいうとメキシコからパナマまでの地域を指していいます．しかし普通メキシコはメキシコなので，メキシコより南の国々を中米と呼んでいます．
多分全部の国の名前をきちっと言える人は，日本人ではそういないでしょう．グアテマラ，エルサルバドル，ホンジュラス，ニカラグア，コスタリカ，パナマ，それにベリーズという国です．全部あわせても日本とあまり変わりないくらい狭い地域で，一番小さいエルサルバドルは四国くらいの広さしかありません．
住んでいる人は原住民が１／３，白人が１割くらいでしょうか，残りはメスティソと呼ばれる混血です．この割合は国ごとに少しづつ異なり，エルサルバドルでは，ほとんどすべてメスティソとなっています．カリブ海岸には黒人と混血したサンボと呼ばれる人たちが住んでいます．
産業はほとんど農業のみです．昔は金や銀も少し採れたのですが（たとえばホンジュラスの首都テグシカルパは銀山で栄えた町)，いまでは廃坑となっています．特産物はコーヒー，綿花，砂糖，バナナ，牛肉などです．しかし今ではそれもさびれ，一番の収入源はアメリカに亡命した人たちからの仕送りになっています．あとはお定まりのコカインです．グアテマラでは軍隊がコカインの流通を一手に仕切っていて，最大の収入源になっています．
中米の政治
みなさんはゼロゼロセブンやスパイ大作戦などの映画で，よく中米の独裁者の国が舞台になっているのを知っているでしょう．ハリウッド映画が全盛だった頃，中米の国はみな独裁国家でした．
それが７０年代，８０年代に民衆の激しい戦いの中で打倒され，ｷｭｰﾊﾞ型の国家が誕生しようとしました．アメリカはそれが気に入らなくて軍事干渉したのです．
軍隊が民衆を次々に虐殺し，農村を焼き払いました．国際アムネスティやさまざまな人権組織が軍事政権を非難した結果，ついに軍隊は政権を手放し，少しづつ民主化が進んでいます．
ニカラグアでもグアテマラでもエルサルバドルでも，十万以上の人が殺されました．ミッチよりひどい被害です．国は荒れ果て，いたるところに地雷が埋められ，経済復興は遅れています．今度の被害も天災とばかりは言えません．
中米の文化・スポーツ
堅いところでノーベル文学賞からいきます．グアテマラの文学者ミゲル・アンヘル・アストリアスという人が１９７０年度のノーベル文学賞を獲得しています．この人の代表作｢大統領閣下｣は，２０世紀初頭に実際にグアテマラ大統領だった人物を描いた作品です．この男，片っ端から政敵を暗殺した末，最後には議会から｢狂人｣の烙印を押され失脚するという，｢事実は小説より奇なり｣を地でいく人物です．
もう一つの代表作｢緑の法王｣は，グアテマラに一大バナナ帝国を作り上げたアメリカ人の虚実織り交ぜた伝記です．これもまさに｢事実は小説より奇なり｣です．
でも荒唐無稽といえば，このアストリアスの息子がグアテマラの統一ゲリラ組織「ＵＲＮＧ」の最高指導者だというくらいすごいこともないでしょう．
今夜のパーティーに参加された皆さんには，やはり中米の音楽を紹介しなければならないでしょう．ここがちょっと辛いのですが，あまり中米独特の音楽というものはありません．ほとんどがメキシコ直輸入か，あるいはアメリカ直輸入です．有名なグアテマラのジャンボ・マンドリンもスペインを経由して入ってきたものです．
聞き物というと，ひとつはニカラグアの革命を謳ったシンガソング・ライターのメヒア・ゴドイ兄弟，もうひとつはカリブ海沿いの黒人系が歌うレゲエやカリプソです．今夜は一応テープなんかも持ってきましたので興味ある方はお求めください．
ラテンアメリカで例外的に野球が盛んなのが，キューバ，ベネズエラ，そして中米です．ニカラグアには大リーグで名を挙げた名選手が何人もいます．ニカラグア革命を描いた｢アンダーグラウンド｣という映画で手榴弾を投げた瞬間に殺された野球選手のシーンはとても印象的でした．
どんな援助が必要か
当初，物資の援助が活発に行われました．しかしそんな当面の救援活動だけでは持たないことがはっきりしてきました．事態はまさに国家そのものが破産しかねないところまできています．
その理由は，中米諸国がハリケーンの前から抱えていた過剰債務にあります．十年にわたる内戦のあいだ，各国政府は戦費調達のために膨大な借金を重ねていました．戦火で荒れ果てた国土の再建にはさらに大きな資金が必要です．しかしもうお金を貸してくれる国はなくて，逆に借金返せと迫る国ばかりです．
いま被災国から求められているのは，国家再建に向けた中・長期的な資金援助です．そして当面は膨大の債務返済の延期，債務そのものの棒引きです．米州諸国機構は「債務問題の解決こそもっとも大事な援助｣と強調します．しかしアメリカの代理機関であるＩＭＦはこの提案を断固拒否します．
こうした中，フランスのシラク大統領がみずから中米諸国を訪れ，債務の棒引きを約束したことは衝撃的でした．それまで物資援助のみに絞って債務問題へ連動させるのを拒否してきたアメリカが，突如援助額を一挙アップ，ヒラリー・クリントン米大統領夫人が中米入りしました．ヒラリーはテントで被災者と毛布を分け合って寝るなどのパーフォーマンスを演じてみせます．
もう一つ注目を集めているのがキューバです．キューバ政府は中米諸国に医療チーム二千人を派遣しました．当初キューバの援助受け入れを拒んでいたニカラグアも，世論に押され受け入れを認めました(もっとも現地では｢医師免許を提示しなければ診療はだめ｣などとずいぶん嫌がらせを受けているようですが）．
ご存知のようにキューバは大変な経済状況にあります．とても人様に援助できるような身分ではありません．それなのに自分の身を切ってでもがんばってしまうのです．偉いと思うか馬鹿と思うか，人さまざまだと思いますが，その意気は見上げたものだと感心します．