ミッチ後の中米
―援助国に要請されることー
1999.1
オックスファム・マナグア
この文章はオックスファムのマナグア支部で発行しているホームページの一部を翻訳したものです.
はじめに
ハリケーン・ミッチは少なくとも十年以上の歴史的後退と40億ドルの被害を残した.被災国は国際的な援助なしにはまっ
たく復興できない状況にある.援助の額が復興の可能性を直接規定している.これらの国の進む道は二つしかない.ひとつ
は広範な貧困,社会の不平等,環境汚染の広がる国である.もうひとつは社会的にも環境面からも持続的発展が可能な新し
いモデルを作り出すことである.
オックスファムは長期にわたる挑戦を可能にするために対外債務の棒引きと十分な援助が不可欠であると主張する.
具体的には
ホンジュラスおよびニカラグアに対し債務支払いの即時停止を実行すること
世界銀行,米州開発銀行,国際通貨基金,パリ・クラブの代表からなるプロジェクト・チームを結成し,債権放棄と
復興援助に関する時刻表を早急に作成すること.
被災国の国家復旧計画に積極的に関与し,広範な社会的諸階層が参加できるよう援助すること.
復興は長期にわたると予想されるため,被災国と援助国の関係を密接にすべく調整機構を創設すること.援助は
出来る限り無償とすること.
ホンジュラスおよびニカラグアの破滅的状況にかんがみて,IMFの融資条件が過度にきびしくなっている.全般的
に再検討を加えること.
援助が国家の社会的平等,貧困者の生活苦の軽減,環境の保全に役立つものとなるよう,援助国および被災国
が共同の努力を払うこと.
人的被害
ミッチ以前,すでに中米諸国は西半球でもっとも貧しい国だった.97年,ホンジュラス人の260万,ニカラグア人の210万が
貧困線以下の生活を送っていた.
洪水,高波,土砂崩れの三大被害が一万人以上の命を奪い,二百万以上の人から家を奪った.
オックスファム現地スタッフの報告によれば,家を失った家族は粗末な避難所に押し込まれ,食料不足が蔓延し,水道システ
ムは壊れたままである.人々は最愛の人や我が家を失っただけではなく,日々の生活の糧も失った.食料および輸出産品を
含め農産物の8割が失われた.
オックスファムの協力者モデスタ・オルダンは語る.「われわれはすべてを失った.学校,病院,警察署….井戸は残っても水
は汚染されている.清潔な水を確保するためにポンプが必要だ.すべてが死んだ.緑は消えた.草木はまるで焼き尽くされた
ように立ち枯れている」
各国で食料・水の腐敗によりコレラが発生し始めた.それとともに死亡者数も増加しつつある.
緊急支援から長期の再建へ
国際社会―政府,国際機関,NGOは今回の事態にいっせいに反応した.
しかしこれらの援助にもかかわらず,被災地における生活条件は依然劣悪なままである.これからも緊急支援が引き続き必
要である.
緊急対応を続ける一方で,長期の復旧と再建が目標とされるべきである.これには援助国と被災国との多角的,重層的なア
プローチが必要となる.もっとも大事なことは,与えられた援助が人々のあいだに行き届かずに債務の支払いに当てられる
ようなことがないよう,債務問題の早急な解決を行うことである.また有償援助が新たな債務の発生とならないよう,無償援助
を中心に計画を立てることが必要である.
再建計画が適切かつ持続的なものとなるためには,援助がとくに地方に厚く行き渡るよう配慮することが大切である.再建
が都市レベルにとどまっていてはならない.とくにニカラグアでは貧困者の3/4が地方に生活している.ミッチにより移転を余
儀なくされた人々にとっては,故郷を離れて危険な,ごみごみした土地に生活の場所を見つけてもそれはゴールではない.そ
れはただ次の嵐で吹き飛ばされてしまうものでしかない.
多くの農民が借金のかたに土地を奪われようとしている.彼らを救済するためには地方金融機関の債権放棄が必要である.
これら貧農から土地を奪わないで済ますためには,不毛の土地をふたたび沃野とするための資金援助が必要である.
環境保護の一番の基礎は農業の確立である.農民が豊かになれば土地と環境は守り育てられる.農民が貧しければ彼らは土
地から略奪し,自然は荒廃する.
今や明らかなように,被災国はミッチ以前の水準に戻るだけではだめである.それ以上に進まなければ,国土の荒廃は間違
いなく進行する.そのための資源は国内にはない.どうしても海外からの援助が必要である.
債務問題
ミッチ以前でさえ中米諸国は対外債務の重圧にあえいでいた.98年4月末現在で,ニカラグアの債務は61億ドルを超えてい
た.国民一人当たりの債務は1,300ドル,これは世界最高である.97年度の債務支払いは2億5千万ドル,これは国庫収入
の半分以上である.それは教育費および医療費を合わせた支出の2.5倍に達する.
ニカラグア人口の半数以上が貧困線以下の水準にある.児童の4割が栄養不良状態にある.その内半分は毎日の食事にも
事欠いている.ホンジュラスも同様な状況である.5歳以下の幼児の4割が栄養不良状態にある.
過重債務貧困国(HIPC)への対応はあまりに小さく,あまりに遅い
ニカラグア,ホンジュラス両国は過重債務貧困国(HIPC)41カ国に含まれている.IMF/世銀のHIPC対策はこれらの国の
債務を持続返済が可能なレベルに下げようとするものである.
ミッチ以前でさえ,ニカラグア,ホンジュラス両国にとってHIPC対策の枠組みは不十分なものであった.両国が計画の恩恵
を受けるのは「次の世紀に入った後いつか」ということである.この計画が円滑に施行したとしても,ニカラグアが援助対象
となるのは早くとも2002年,ホンジュラスは2004年である.
しかもそれにはIMFのコンディショニングを満たすことが前提となっている.ニカラグアは99年までにIMFの条件を満たすと
約束していた.ホンジュラスはいまだにコンディショニングそのものを受け入れていない.もしこれを受け入れるなら,国内に
は破滅的な経済崩壊が出現し,人間生存のための基本的条件すら守れなくなるような事態が予想されるからである.
ミッチ以前の経済・社会状況
98.12 オックスファム資料より
1997 |
ニカラグア |
ホンジュラス |
債務残高 |
61億ドル |
41億ドル |
債務償還/国家収入 |
52% |
30% |
債務償還/輸出額 |
39% |
27% |
人口 |
430万 |
560万 |
貧困人口(ミッチ前) |
210万(50%) |
260万(47%) |
ホームレス人口(推定) |
50万 |
200万 |
各国の援助受け入れ状況
国連・人道問題協調事務所(OCHA)調べ 99年1月21日現在
国名 |
要請援助額 |
受領済み援助額 |
充足率 |
ホンジュラス |
8,294万ドル |
4,237万ドル |
51% |
ニカラグア |
3,821万ドル |
648万ドル |
17% |
エルサルバドル |
1,620万ドル |
10万ドル |
7% |
グアテマラ |
1,426万ドル |
15万ドル |
10% |
ベリーズ |
85万ドル |
5万ドル |
6% |