コロンビア計画ともうひとつの枯葉剤ラウンドアップ
「使用上の注意」をよく読んでからお使いください!
モンサント社の「使用上の注意」 本製品は、直接の接触あるいは拡散を通じての接触を含め、危険性があるところで使用してはならない。本製品の使用にあたっては、防護手段を完備した操作者のみが散布地域にいることを許される。また10フィート以上の高さからの散布は飛散の恐れを増し,「非常にわずかな量でさえ隣接する地域の穀物にダメージを与える」 可能性がある.
コロンビア計画の経過
1999年、当時のクリントン大統領は、大規模な麻薬撲滅戦争の開始を宣言した。これは「コロンビア計画」と呼ばれるもので、総額13億ドルを支出し、2005年までの6年間にコロンビアの麻薬生産量を半分に減らすことをめざしている。その内容は、米軍がコロンビアに軍事介入を行い、コカインの原料であるコカの栽培地域を焼却するというものである。
しかし、「麻薬撲滅」という大儀名分を掲げているが、実際には、FARCやELNなど反政府武装ゲリラの相当が真の狙いであることは、今や明白になっている。また南部のコカの栽培地域に豊富な石油の埋蔵が確認されていること、隣国ベネズエラの政治的不安と緊張もからまって、米国の軍事、外交、経済的な権益を守るための戦略として位置づけられていることは間違いない。
枯葉剤
枯葉剤散布により腐ったバナナ
「グライフォセート」はアメリカに本社を置く農業関連産業の多国籍企業モンサント社の農薬である。1972年にジョン・フランツによって開発された。グライフォセートを含む除草剤「ラウンドアップ」は、モンサント社によれば、「世界で最も広く使われている除草剤」である。
モンサント社のグライフォセート販売額は、1990年代を通して毎年、およそ20%づつ拡大した。2001年現在、それは会社の総売上高の67%を占めるに至っている。
グライフォセートは代謝拮抗薬であり、植物細胞の物質代謝を妨げる。
除草剤としてのラウンドアップは、グライフォセートを界面活性剤であるPOEA(polyethoxylated tallowamine)に溶かすことで浸透性を高め、これに液体パラフィンを混ぜて粘着度を高めたものである。POEAはイギリスのICI社から、パラフィンはエクソン社から提供を受けている。
グライフォセートよりむしろPOEAの毒性を問題にする報告もある。
散布されたラウンドアップは植物の表面からその細胞に移行する。その数日後に植物は弱り黄変し、そして枯れる。
ラウンドアップは霧となって近くの畑、川、垣根に漂っていく。地上に落ちたラウンドアップは、長いあいだ土地の中に残る。
ラウンドアップは、有益な昆虫も殺す。それは鳥や動物のための生息地を一掃する。水に溶けたグライフォセートは、魚への遺伝子の損害を引き起こす。ピッツバーグ大学のチームによれば、両生類、特にカエルへの打撃は深刻である。また地中のミミズや菌糸を傷害し、土中の窒素固定を減少させる。
モンサント社は、「指示された用法に従う限り」、グライフォセート除草剤の人間の健康への危険は低いと主張している。しかし、グライフォセート製品を販売するモンサント社が、グライフォセートの健康に対する危険性を軽く見せようとすることは、少しも驚くべきことではない。
モンサント社のラウンドアップ使用にあたっての注意書
ラウンドアップは、どんな緑色植物でも枯らしてしまう。ラウンドアップは池、湖または河川のような場所で使用してはいけない。ラウンドアップはある種の水生生物に有害であり…
馬、牛、羊、ヤギ、ウサギ、亀、鳥のような草食動物は、ラウンドアップ使用後2週間は該当地域に入れないように勧める。また散布地域の果物や、ナッツ、ブドウなどは3週間は口に入れないことが望ましい。グライフォセート除草剤は遺伝子の損害をふくめ、人間の健康への影響をもたらす可能性がある。米環境保護局は、「吐き気、肺浮腫、肺炎、精神錯乱、脳細胞破壊が起こるおそれがある」と警告している。
そのほかにも、皮膚腫瘍、甲状腺の損害、貧血、頭痛、鼻出血、めまい、疲労、かゆみ、喘息、そして呼吸困難などの症状が報告されている。またグライフォセート除草剤と非ホジキン・リンパ腫の関連を示すいくつかの研究がある。
すでに、グライフォセートが一般に使用されるより低い濃度でも、ヒト胎盤JEG3細胞に有毒であることが明らかになっている(RichardS et al)。その機序としては、ラウンドアップに加えられたPOEAがアジュバント効果を発揮しているのではないかと推測されている。(Le Monde 12Mar.2005)
モンサント社は遺伝子操作によりラウンドアップに強い一連の作物を開発している。いわば二足のわらじである。ラウンドアップ抵抗性の作物は、いくらラウンドアップを吹き付けられようと平気である。その一方で、土の中の成分と栄養分をとるべく樹木と競争しているすべての生命が、根こそぎにされる。
私をふくめほとんどの臨床医は、このような発想には強烈な違和感を覚えるだろう。いまやMRSAをはじめとする多剤耐性菌の問題は深刻であり、抗生物質の節度ある使用がもとめられている。しかしそれにもかかわらずこのいたちごっこは続くであろう。
にもかかわらず、それは人間の智恵と自然の摂理との対話という側面を持っている。いっぽうモンサント社は、すべてを防ぐ盾とすべてをつらぬく矛を、ともに我が手に収めようとしている。それは神に取って代わろうとするサタンの思想であり、到底共感できるものではない。神は多様性の中にあるのであり、多様性を貫いてその真理を表すのである。現実にはラウンドアップ耐性の Fusariumという真菌が早くも出現しているようだ。グライフォセートで前処置された小麦は、同じくグライフォセート耐性のFusariumがもたらす「頭葉枯れ病」におかされバタバタと倒れている。
このFusariumという真菌、ラウンドアップ小麦をやっつけるだけなら良いのだが、人間にもアフラトキシン並みの強烈な毒性を持っているようである。モンサントはフサリウムをやっつける農薬を作って、それに耐えられる小麦を作ってまたぼろもうけするだろう。
また「ヒメムカシヨモギ」という雑草(ミシシッピ・デルタ地域では“雌馬の尾”と呼ばれている)も、ラウンドアップに対する耐性を獲得し、繁殖しはじめているという。ラウンドアップ神話は崩れ去りつつあるようである。
コロンビアでは、「指示された用法」を越えて、はるかに高濃度のラウンドアップが大量に空中散布されている。間違いなく被害を受けるのは、地元の人々とそれをとりまく環境である。
モンサント社は以上のような事実を知りながら、アメリカ政府にラウンドアップを売り続けている。そしてブッシュと共和党のために多額の政治献金を行なっている。
スパイスアップ・バージョン
もっと怖い話がある。コロンビアで実際に撒かれているのは、ラウンドアップ・ウルトラの「スパイス・アップ」版という、いかにも怖そうな薬品である。
どこがバージョン・アップしたかというと、「コスモ・フラックス 411 F」という別の有毒物質がラウンドアップに混ぜ入れられたことである。このことはオランダ人ジャーナリストのローイェンが暴露するまで秘密にされていた。
「コスモ・フラックス 411 F」もまた一種の界面活性剤である。これをラウンドアップと混合すると、除草剤の生物学的活性は4倍に高まる。そして曝露のレベルは農業に使用する際の常用量の104倍に達する(NiviaE)。これは反芻動物に急性中毒を出現させ、殺しさえできる量だという。
もうひとつの生物兵器 細菌性除草剤
2002年12月 フロリダ州選出の共和党下院議員ボブ・ミカは、破壊的な細菌兵器の封を開け、コロンビアで絨毯スプレー作戦を開始するよう呼びかけた。
これは遺伝的操作により造りだされた病原性菌類であり、メリーランド州ベルツビルの農業試験場で造りだされた。一つはFusarium oxysporumで、マリファナとコカに対して使われれ、もう一つはPleospora papveraceaで、ケシの撲滅に開発されたものである。どちらの菌も、無差別に植物を撲滅し、人体にも危害を及ぼす。
枯葉剤散布作戦
2000年9月、コロンビア南部、エクアドル国境近くのナリーニョ州で最初のグリフォサート散布が行われた。これは「マングローブ作戦」と呼ばれ、麻薬取り締まり警察の部隊が,飛行機からマメ畑に枯葉剤を散布した。この間、ゲリラの反撃を防ぐため,3機のブラックホーク型武装ヘリが警戒にあたった.
当局は作戦にあたって、現地の先住民を暴力的に追い出した.ナリーニョ州平和評議会のアルフォンソ・パハルドは,「約6千の農民が食料も持たずにエクアドル領内に逃げ込んでいる」と緊急報告している.
12月、6週間にわたりプトゥマヨ州で最初の本格的な枯葉剤散布作戦が展開された.85000ガロンにのぼると見積もられるグリホサート除草剤が,100フィートの高さから定期的に散布された.散布されたグリホサートの量は1エーカーあたり5リットルであり,通常の推奨量1リットルを大幅に上回る.当局は、この作戦で6万2千エーカーのコカが破壊されたと発表.
2004年、米国務省は「空中散布の総面積が33万ヘクタール以上に達した」と発表した。それらはすべてコカかケシの畑だったとされている。
米軍と契約した「ディンコープ・インターナショナル」社が、ラウンドアップの散布を実行している。ディンコープは88台の航空機を持ち、300人以上の人々を雇用している。飛行機は3000メートルの空中から枯葉剤を散布している。これはモンサント社の「使用上の注意」に完全に違反しており、枯葉剤の拡散の危険性を増大させている。
彼らがこのような高空から薬剤を散布するのは、ひとつには地上からのゲリラの攻撃を恐れているからである。もうひとつは山岳地帯特有の気象条件による。山岳地帯の気象は不安定である。谷間にはしばしば局所的に突風や乱気流が発生し、予測はきわめて困難である。
漫画のようなエピソード
ビッグウッドは以下の漫画のようなエピソードを報告している。
ボゴタのアメリカ大使館はコロンビアで空中散布のショーを企画した。大使館は、空中散布が食物収穫を害することなくコカ畑を壊滅させるところを見せ、有力な米上院議員の支持を獲得しようと狙っていた。彼らは衛星画像を用いて、ピンポイントの単位で正確に目標を定めた。
枯葉作戦に懐疑的な米上院議員が招待され、コカ畑を見下ろす山の中腹に陣取った。このショーには米上院議員と米大使、コロンビア国家警察の幹部などが臨席した。
しかし話は筋書き通りには行かなかった。注目のなか飛行機が薬剤の散布を始めると、たちまち風に乗ったラウンドアップの霧が参加者の頭上に降り注いだ。彼らはねっとりとした危険な液体によってずぶ濡れとなったという。
現地における被害報告
散布が行なわれた地方の医療機関は、皮膚と眼の刺激症状、発熱、腹痛、呼吸器症状が広範に見られたと報告している。フランスのフリーウィル・プロダクションが製作したビデオによれば、農民たちは「バナナにまで除草剤がまかれた。ユッカ芋も魚も全滅した」と証言している。
これらの被害を、最初に調査報告した一人がエルサ・ニビア(Elsa Nivia)である。彼女はコロンビア人農学者で、「農薬対策ネットワーク」のメンバーである。彼女が地元当局の報告を集計した研究によれば、2001年の最初の2つの月に、4,289人が皮膚または胃障害にかかっている。また約178,377匹の動物(牛、馬、ブタ、犬、カモ、雌鶏、そして、魚)が散布の影響で死んでいる。
枯葉剤散布作戦の効果
しかし枯葉剤作戦は、コカ生産の絶滅という本来の目的については全く効果をあげていない。 ジム・マクガバン下院議員は、コカの生産は減るどころか、11%も増えたと述べている。
大規模なコカのプランテーションは散布作戦の対象からは“目こぼし”されていると言われる。主要な打撃は、コカの木と一緒にタピオカや小麦など合法的な農作物を耕作している小農民に集中している。枯葉作戦はマジメな農家も襲い貧困に陥れた。その結果、麻薬栽培農家は逆に増えた。
過去20年間にわたって、ペルーやボリビアの、コカの麻薬地域にも除草剤がまかれたが、結果はまったく同じで、栽培地が移動しただけだった。
なお一時、グライフォセートに耐性を持つという「スーパーコカ」の出現が伝えられたが、いわゆる「ガセネタ」であったようだ。
代替作物問題
コロンビア計画の13億ドルの中、コカ代替作物への転換プログラムの資金はわずか8100万ドルにすぎない。
補助金の額は農家1戸当たり950ドル。代替作物を作っても、その輸送手段も道路も無い。5人家族で年に千ドル足らずではやっていけない。しかも現地農民によれば、その協定はまったく実行されていないという。誰かのふところに入っているのであろう。
ヨーロッパ連合が代替プログラムに2億ドルの資金提供を申し出でているが、枯葉剤の空中散布を止めることが条件である。
コカイン
コロンビアは、世界のコカイン生産の80%を生産している。それにかなりのヘロインを生産している。米国で消費されるヘロインの3割がコロンビアにより賄われている。
麻薬を生産している農民は、コカ・ペーストを1キロ1000ドルで売る。精製されたコカインは、アメリカの街頭でグラム単位でさばかれ、10万ドル以上の利益を上げる。2003年、コロンビアから輸出された500トンのコカインは小売価格にして1100億ドルの価値を持つ。そのうちコロンビアに入ってくるのは30億ドルだけである。
1997年の国連「麻薬に関する報告」によれば、麻薬取引は世界全体の貿易の約8%を占め、繊維産業の取引を上回っている。
麻薬問題は、本質的には米国の国内の社会問題である。コロンビア計画の真の狙いは左翼ゲリラに対する弾圧であり、「麻薬」は口実にすぎない。
追補 2006年7月
98年6月21日付けのニューヨーク・タイムズによれば、米政府は、ダウケミカル社の子会社ダウ・アグロサイエンス社製の“テプシウロン(Tebuthiuron)”という非常に強力な除草剤を使用する許可をコロンビア政府にもとめた。サンペル大統領(当時)は、米政府の圧力に屈して許可を与えた。(伊高「コロンビア内戦」より)
この“ティプシウロン”は触れたものほとんどすべてを殺害する非常に強力な化学物質とされる.広範囲に散布すれば、河川や湖水を汚染する可能性がある。
これより前、ダウ・アグロサイエンス社はコロンビアでの使用に声明を出して反対していた。声明は言う。
「広範囲のコカ根絶にこの薬剤を使うべきではない。Tebuthiuronは,コロンビアの作物にはいずれも使うに不向きであり,我々は,これが不法作物根絶に使われないことを希望する.これは,傾斜地で,降雨量が多く,残しておきたい植物や木が近くにあって,なおかつ理想的とは言い難い状況で使われるなら,非常に危険である」
さすがにエージェント・オレンジで懲りたダウ・ケミカルは、二の舞を踏むのを躊躇したのであろう。製造元による、声明まで出しての反対を押し切ってまで、コロンビアに使用を押し付けた米国政府もえらいものだが、そのまま受け入れたコロンビア政府の無責任さも、魔術的である。
この記事の出た後、コロンビア政府は,環境に対する憂慮を理由に,Tebuthiuron利用を拒否した.その後さすがにテプシウロンが使用されたという話は聞いていない。