メディアが報道しない

ハイチのキューバ医療団

 

T ハイチのキューバ医療団、その規模と活動

ハイチは1年前に大地震に襲われ、その後の復旧が難航する中で、10月末からコレラの大流行が始まっています。ハイチには多くの国から支援が送られていますが、実はその中で最大の役割を任っているのがキューバなのです。このことはあまり知られていないので、この際強調しておきたいと思います。

 

キューバのハイチへの医療支援は一朝一夕のものではありません。両国はウインドワース海峡を挟んだ隣国であり、12年前に医療協力で合意しました。それ以来、キューバから医療団が継続的に派遣されてきました。彼らはおもにプライマリ・ケアと産科医療を担っていましたが、白内障で盲目になった人に手術を施すなどの活動も行ってきました。

震災の前、すでにハイチには344人の医療チームが駐在していたのです。

震災の直後、その数は一気に増えました。災害医療のスペシャリスト集団である「ヘンリ・リーヴ医療旅団」が急派されました。ヘンリー・リーヴは19世紀キューバにおける第一次独立戦争の英雄です。アメリカ人であったことから国際連帯の象徴となっています。

ヘンリー・リーヴ: ブルックリン生まれの米国人。参戦当時は19歳(21ではない)だったが、すでにジョーダン将軍の率いる北軍に鼓手として加わり、南北戦争に参加していた。「やせっぽちでちび」のりーヴは、死ぬまでの7年間に400回の戦闘に参加し、負傷すること10度。キューバ人から「小さなイギリス人」(El Inglesito)の愛称を賜った。

この医療団は中国、インドネシア、パキスタンの地震のときにも出動し、救援活動をおこなってきました。どんな災害状況にも対応し、二次被害拡大のリスクを最小限に押さえるノウハウを身につけています。

ヘンリ・リーヴ医療旅団は3つの改良型病院、5つの前線病院、5つの診療センター、22のケア・ポストで医療を組織しました。医療団にはベネズエラ、チリ、スペイン、メキシコ、コロンビア、カナダからのスタッフと17人の修道女が加わりました。それらはベネズエラからの財政的支援を受けて運営されました。

キューバ医療団や国際赤十字、NGO医療チームなどの間をコーディネートした米州保健機構のミルタ・バラ博士は、キューバの医師たちの支援を「エクサレントでマーヴェラス」と激賞しています。「地震の直後、キューバ医療団が真っ先に駆けつけた。彼らは廃墟の中に医療設備を組み立て、残った病院を改造して、直ちに診療を開始した」

キューバの医師・看護婦その他のスタッフは手術室をフル稼働させ、毎日18時間ノンストップで働きました。

これとは別に理学療法士その他のリハビリ専門家70人が9つのリハビリセンターに派遣され、ハイチのスタッフとともに働いています。

キューバはハイチに破傷風ワクチン40万人分も贈りました。

 

U キューバの医療協力の歴史

キューバは貧しい発展途上国です。しかし医師、技術者、災害管理者など人的資源の富は豊かです。この小さいカリブ海の国が、西欧のはるかに金持ちの国と肩を並べ、健康管理と人道援助で世界的な役割を演じていますが、それを可能にしているのはこのためです。

キューバの医療チームはインド洋津波のときに重要な役割を演じました。2005年のパキスタン地震では世界最大の医師団を提供しました。

現在キューバの外務大臣であるブルーノ・ロドリゲスは、半年以上の間パキスタンの山間部に張り付き、医療団を率いました。

彼らはまた、2006年のインドネシアの地震のとき、各国の中でもっとも長い間にわたって被災者をケアしました。

当時のインドネシアの医療コーディネーターはこう語ります。

「キューバ医療団の診療スタイルはとてもフレンドリーだった。しかも医学的水準は非常に高かった。前線病院はまったく完璧だった。しかも無料だった。私たちの政府の財政的支援はまったく受けなかった。

私はキューバの医師が助けに来てくれようとは夢にも思わなかった。そのような貧しい国の人々が、こんな信じられないくらい遠い国まで来てくれたことに驚いた。

私たちはキューバの医療教育システムから学ばなければならない。彼らは難なく外傷や骨折患者をこなしていく。彼らはまずレントゲンを撮る。それからまっすぐ手術室に入る。そこには何の逡巡もない」

教育の面で特筆すべきことがあります。それはキューバがラテンアメリカやアフリカの貧しいが才能のある青年に医学教育の道をあけていることです。それが「ラテンアメリカ医学校」です。

これについては詳しい解説があるのでここでは省略しますが、今回のハイチ医療団にもアフリカとラテンアメリカの24の国から200人の医師が参加しています。そのうちの10人あまりは米国人でした。

 

メディアの沈黙

医師以外も含めたハイチにおけるキューバ医療チームの総勢は930人に上ります。それは現地で最大の医療派遣隊です。しかしキューバ医療団を取り上げたメディアはあまり多くありません。とくに西欧メディアは国際援助活動を報道する際に、事実上キューバを無視しています。

現地のコーディネーターは驚きを隠しません。「キューバ医療団の活躍がメディアにほとんど取り上げられなかったのは衝撃的である。キューバは数百人に医療チームを送ってきた。これは他のどの国よりも多い」

某有名国際通信社は支援提供国のリストを掲載しましたが、そこには「キューバ: 医師30人以上」とされています。本当の数字はキューバの医学校を卒業したハイチ人青年医師280人をふくめ350人以上なのです。

国際的に有名な「国境なき医師団」(MSF)と比べてみましょう。MSFは269の医療チームをハイチで活動させています。彼らの資金は非常に潤沢です。彼らはキューバのチームよりはるかに広範囲な医薬品を所有しています。

彼らは医療の外で活動しています。西欧のNGOはメディア担当の専門職員を雇っています。そして彼らが何をしているか世界に知ってもらうための活動をさかんに展開しています。

MSFの代表はしばしばテレビカメラの正面に座り、医療の優先度や医療のニーズについて議論しています。その間、メディア報道においてはキューバの医療チームは行方不明となっているのです。

メディアの専門家はこの背景をシニカルに表現しています。

「西欧のメディアは予期せぬところからの援助に対しては無関心でいるようにプログラムされている。ハイチでも事情は同じだ。西欧のメディアは人道NGOとの取引に慣れ親しんでしまい、いまや相互依存関係に陥っている」

しかしもっと深い理由があります。アメリカはキューバを経済封鎖するだけではなく、情報封鎖しています。医療や教育でのキューバの実績はアメリカ市民に知らされないよう注意深く操作されています。

映画「シッコ」を見て最も衝撃的だったのは、ほかの国では当たり前となっている社会保障制度が、アメリカでは社会主義でアカの考えだと思われていることでした。

「自由の国」といいながら、ここまで情報が統制されているのです。キューバの医師団と連帯する運動は、このような国際メディアの情報操作の壁を突き崩していく闘いでもあると思います。