参考資料

国際民間支援顧問団はハイチをどう見たか

2004年6月 

 

ハイチ国際民間支援顧問団(International Civilian Support Mission in Haiti 以下MICAH)は,1999年12月に国連総会(決議54/193)で創設された組織です.

この組織は,それまでのハイチ国際民間顧問団(International Civilian Mission in Haiti:MICVIH),国連民間警察顧問団(UN Civilian Police Mission in Haiti:MIPONUH)およびその他の国連の任務を包括的に引き継ぎ,2000年3月16日に現地業務を開始しました.

MICAHの活動は二回の事務総長報告(A/55/154)として発表されています.MICAHは2001年2月,わずか1年足らずで活動を停止します.活動停止にあたり,国連総会はもう一度ハイチ問題に関する決議を挙げています.

その活動期間は,国会議員選挙を契機とし,政治的対立が一気に激化する重大な時期に重なります.

ハイチの政治を見る目は,アリスティド派か米国=反政府派のどちらに立つかで,まったく違ってきます.極端な場合には,事実そのものが白黒逆になることもあります.したがって我々のように情報が限られる場合,うかつにものが言えないところもあります.

MICAHの報告は,中立の立場で現地の活動を続けたものとしての重みがあります.ただし,この間に強められた米国の軍部・極右による無法な干渉,それに操られた野党の硬直姿勢などは,恐らく意識的に無視されています.

国連とても,米国と表立って対決するわけには行きませんから,たしかに仲裁のやり方としては現実的であり,間違っているとは言えませんが….母親が兄弟ゲンカを止めるときに,理由などお構いなしに「とにかくお兄ちゃんが謝りなさい」といっている感じです.

以下はアメリカのハイチ関連Blogに載せられた抄録の紹介です.正確に知りたい方は国連のページへどうぞ.

 

第1回事務総長報告(2000年8月)より

…2000年5月の国会・地方議会選挙に続いて上院議員選挙の集計方法をめぐって議論が起きた.

その後,抗議行動に関連して一連の事態が発生した.中には暴力もあり,和解と話し合いの努力もあった.

…2,000年7月9日には下院での決選投票のみが行われたが,ここでも選挙の非正規性(Irregularity)がいくつか報告された.

報告は,MICAHに関して,特に不安定な政治状況を念頭に置きつつ,以下のように述べる.

ハイチ全国警察(PNH) の政治派閥化が,新たな憂慮の種となっている.

十分な統制力の欠如が,警察の監査制度を弱体化させている.監査制度は専門職としての倫理基準を確実なものとし,不品行,汚職,麻薬などの疑いを捜査するために必要である.(以下略)

 

報告の結論部分でのポイント

選挙の最初のラウンドの投票数は、有権者50パーセント以上であった;

選挙プロセスは、全体として暴力や脅迫の風潮、選挙組織の質の低さ,そして選挙法を無視した上院結果の計算方法によって損なわれた.

その結果は、政治的な危機の深まり,緊張と暴力の増加をもたらした.もし重要な集計問題が解決されずに上院が立ち上げられるなら,それは議会の民主的合法性に影を投げかけたかもしれない.そしてハイチ民衆がもとめている国際金融支援の再開を脅かしたかもしれない.

OAS選挙監視団と傘下のハイチ人監視グループ(CNO)による五月選挙の初期評価は,反対派の「広範かつ組織的な不正」という訴えを支持しない.

法の支配の原則は,何人かの警官や司法当局者の受動的姿勢,あるいは共謀とさえ言える態度によって傷つけられた.彼らはいわゆる大衆組織と呼ばれるメンバーが暴力的デモを行うのを目前にして座視した.その暴力は野党,ジャーナリスト,一般市民を目標としてふるわれた.

野党リーダーの何人かは大衆組織の攻撃に対して暴力でもって応えた.

政治過程において目的を達成するのに,街頭での暴力的強制力に依拠することは,将来に禍根を残す危険な前例となってしまう.

レポートはまた言及する:

国家警察は選挙当日,立派に役目を果たした.それにもかかわらず,投票終了後の出来事はその強い本質的党派性を示唆した.そしてそれが政治問題化しつつあることを示唆した.

今日,MICAHが未熟な民主的機構を支持するのは危険を伴う.政治的混乱と不寛容の雰囲気が高まれば,公共機関は圧力と脅威にさらされ.MICAHの支持能力も失われていく.

治安状況も問題となる.それはMICAHの顧問が力量を発揮する上で大きな障害となりうる.

MICAHの支援はハイチ現地における信頼できる仲介者の存在と結びついている.その仲介者は民衆の支持をあてにできる人物でなければならず,同時に国際社会の支持も得られる人物でなければならない.

 

 

第2回事務総長報告より

 

事務総長の第二報告(A/55/618)は,2000年7月17日以降の状況をカバーしています.レポートは特に下記について言及しています:

 

政治的な危機と選挙をめぐる危機は深まった;

新議会が立ち上げられた.選挙結果をめぐる議論は横に置かれた.

市民社会組織=民間企業グループ,教会勢力,労働組合,知識人たちは,反対派の唱える選挙の全面無効宣言を支持はしなかった.

しかしそれらすべては,当局に対し選挙の重大な不正規性(the serious electoral irregularities)をただすよう主張した.彼らは政治的危機が募り,もっとも必要な国際援助が危機にさらされることを恐れた.

かつてラバラス運動を支持したものも含む知識人グループは,一連の要請書を発し,ファンミ・ラバラスの全体主義的傾向に懸念を表明し,一党独裁政治の出現について警鐘を鳴らした.

ファンミ・ラバラスはこれら市民社会組織の声をほとんど無視した.ファンミ・ラバラスにとって,これらの組織はハイチのエリート社会の代表に過ぎず,圧倒的多数の大衆とは切り離された存在だと思われた.

一方における新議会の発足と他方における選挙問題の継続という状況の中で,国際組織は11月選挙に支援を与えないこと,選挙監視団を送らないこと,新議会を認めないこと,NGOを通じた援助を全面凍結することを明らかにした.

米国はハイチが国際金融組織に融資を要請した場合,それに反対することを考慮すると述べた.

2000年10月を通じた調停は失敗に終わり,全政党が参加する大統領選および上院議員選は不可能となった.

政治的危機の進化,国際金融機関からの融資の引き続く凍結は,通貨グールドの下落をもたらし,基礎的必需品の価格の急騰を引き起こした.

さらに政府は,11月選挙のための資金を自らの財政から捻出する必要に迫られた.これは公共部門の圧縮につながり関係者の不満を募らせた.

 

第二報告では他の点についても言及されています.

7月から政治・社会状況の悪化に結びついて暴力犯罪が増加し始めた.

強盗、強要,誘拐さらに麻薬取引への警察の関与が憂慮されるようになった.また新たに選ばれた地方官僚による無法な徴税や大衆組織の犯罪への関わりも報告されるようになった.

国家警察への政治的圧力(その典型例は,10月にアリスティド派のデモの間に起きた警察長官へのリンチ未遂事件である)は,国家警察の士気の低下をもたらし,その作戦能力や信頼性を著しく低下させた.

国際社会への一定の敵意が経済制裁によって生まれ,部分的にはメディアのせいもあって持続した.

 

MICAHの活動について,報告は特に三つの柱ー司法,警察,人権について顧問団の仕事を評価しています.

レポートはとりわけ言及する:

顧問団は5つの法案を新たに準備し,議論と修正の過程を支持した.三つは機構と司法の独立に関するもの,ひとつは麻薬密輸に関するもの,そしてもうひとつがマネー・ロンダリングに関わるものである.

二つの裁判が行われた.それは処罰免除に反対し,刑事裁判の正当な手続きを目指す上で画期的なものとなった.

ひとつは99年,ポルトープランスのCarrefour-Feuilles地区における11件の処刑,もうひとつは94年のラボトー虐殺事件に関わる22人の裁判である.

 

レポートの結論部門から:

政治的分極化という現状で,ファンミの反対派は不安感を抱いている.それはアリスティドが大統領に再当選すれば,ファンミ党が独裁的・抑圧的政権を創立するのではないかということである.

この反対派の否定的認識が,対話開始を渋るひとつの要因に思われる.

すでに4年目を迎えた政治的手詰まりは,とりわけ貧困者に跳ね返っている.外部の要因,例えば石油価格の上昇,グローバリゼーションの影響に対して無防備のまま,貧困者はますます絶望的な状況に追いこまれている.

ハイチの幾人かの指導者たちは,上院の選挙結果の誤りを正すことを拒否している.そのことによって民主主義的統治の根本基準およびフェアプレーに違反している.

議会が正統性への疑問をそのままにして開会したことは,この国の国際的孤立を深めさせている.このままでは国際援助の早期再開はありそうもない.

政治的状況の悪化の象徴は,PNHの高級将校がクーデターを企んでいたという嫌疑である.いまだ証拠は提出されていないが.

PNHはますます,政治的な目的のために利用しようとする人たちの標的となるだろう.

 

レポートはまた言及する:

外国政府のNGOを通じた援助も減少している.それは特に長期の開発計画に影響を及ぼしている.

NGOを通して提供される援助は部分的に困難を軽減するかもしれない.しかし貧困縮小と健康プログラム実施のため,政府はどうしても必要なパートナーである.

プログラムの種類によっては政府の強制的な手段が要求される.例えば警察の強化,司法のシステムを整備するプロジェクトなどがそうである.

政党の介入に対して当局が毅然とした態度をとれなければ,国際社会は金融支援システムへのアクセスを拒否するだろう.それはすでに3年間続いており,これからも続けられるだろう.

この危機に対して解決策がなければ,民衆の不満は物価上昇とともに鬱積し,増大する貧困はさらなる混乱をもたらすだろう.

激烈な犯罪、暴力的な街頭抗議,そして国際コミュニティを対象とする暴力事件が重なれば,MICAHの目標達成能力を厳しく制限することになる.

政治的な混乱と不安定,政治問題での野党の不在あるいは機能不全,こういった状況のもとで国連がハイチ国民への支援を続けるためには,技術援助の新しい形態を用いる必要がある.

ハイチの支配的状況に照らして,事務総長は,MICAHの任期更新は適当でなく,2001年2月6日を持って終了すべきと述べる.

報告は,すでにUNDP,MICAH,ハイチ問題に関する事務総長顧問(Friends of the Secretary-General for Haiti)の間で議論が始まったと述べる.そこでは政治的現実と吸収能力に応じた民衆への支援計画が議論される.

 

 

MICAHの任務終了にあたっての国連総会決議

 

総会は、コンセンサスによって「ハイチにおける人権状況に関する決議」(A/55/RES/118)を採択した.

総会は特に,

民主化過程を支持する任務をもってMICAHが設立されたこと,民主的機構の発展により当局の権威が高まるよう助けたことを確認する.

総会は,2000年5月21日の選挙における欠陥に関していまだ何の解決策もとられていないことに憂慮の念を抱く.

民主主義の確立のためには合法的な議会選挙の重要性を特別重視すべきである.

総会は,当局が不処罰とたたかう努力を重視する.それはCarrefour Feuillesの虐殺に関わった警察官が有罪を宣告されることであり,ラボトーの虐殺に関して裁判が開始されることである.

総会は,報道が自由に意見を表現する上で困難に直面していることを遺憾とする.

総会は,野党をふくめ政治的な場面を完全に代表する暫定選挙評議会の必要を強調する.それは来るべき大統領選挙および上院議会選挙の準備においても,その期間中にあっても公平,中立かつ効率的であるべきである.

総会はまた,

ハイチ国家警察が運営を円滑にするため,より効率的な努力を傾注し,この国における不安定性の切迫した増加を抑制する必要を強調した.

総会は,すべての関係国政府がハイチ政府の持つ情報・文書を利用し,人権侵害の犯人を起訴するのを可能にするようもとめる.

総会は,ハイチ政府が警察と司法システムの構造改革に取り組むこと,刑務所の状況を改善すること,政治的動機による犯罪を適切に処理すること,そして法律に従って犯人を起訴することを求めた.

真実と正義全国委員会による調査の重要性,委員会によって特定された人権侵害の犯人に対する継続的な法的手続きが,政府により助成されるべきであること,犠牲者への支援のため有効な便宜が図られるべきであること,を再確認する.

透明な、安全なそして信頼できる環境のもとで,きたるべき大統領選挙・上院議会選挙が行われるよう,必要な保証が成されることを政府および関係当局にもとめる.

総会は,女性の人権を推進し,女性が犠牲者となる暴力と立ち向かうために,政府が諸手段をとる必要を明確に指摘する.

総会は,政府が子どもの権利,とりわけ教育の権利実現のためさらに努力するよう促す.

総会は,もし条件が許せば,ハイチの再建と発展への関与を続けることを考慮するよう,ブレトン・ウッズ機関を含む国際コミュニティにもとめる.

総会は,政府が市民保護局の強化に貢献するよう励ます.とりわけ地域の代表を通してのジェンダー問題での協力がだいじである.OHCHRそしてMICAH.の助けを借りた技術協力計画の確立を通じて実現すべきである.