大使館占拠事件の今後

1997年2月

北海道AALA機関紙に掲載

 

1,事件解決への道筋
 衝撃的なMRTAの日本大使館占拠以来,二ケ月が経過した.事態は完全な膠着状態に入った.解決が長引くことはゲリラ側にとっては有利である.ゲリラとしては占拠自体の最大目的がみずからをアピールすることにあったからだ.いまや世界中でMRTAの名を知らないものはなくなった.ただし支持するものはほとんどいないが….

 ゲリラにとって長期化が有利な理由はもう一つある.政府側にとってますます軍事・警察力の行使がむずかしくなることだ.マスコミ報道により,犯人たちが血肉化したイメージを持って語られるようになると,もはやペルー当局に生殺与奪の力はなくなってしまう.

 交渉はさらに長引くだろう.「政治犯の釈放」はゲリラ側の手札であり,常識的には応じられるべくもない要求である.最大の問題が受け入れ国ということになるだろう.当初はエクアドルなどが候補にあげられていたようだが,いまやエクアドルは政局混乱が頂点に達している.なにせ大統領を名乗る人物が3人もいるという有り様だ.

 中南米諸国はどこも歴史的にゲリラには頭を悩ませてきた.コロンビアではいまでも悩ませている.これらの国がゲリラを受け入れるわけがない.仲介国となったカナダも,そこまでは考えていまい.受け入れました,暗殺されました,では沽券にかかわるが,大使館を占拠したような無法者を国費を使って保護するのもしゃくである.

 そうなるとキューバに責任をとらせるという案も浮上してくる.もともとキューバは80年代はじめにMRTAに強力な援助を送ってきたからである.しかしキューバは絶対に首を縦に振らないだろう.米国のキューバ経済封鎖をめぐる動向が,いま最大の山場にさしかかっているからである.こんなときにキューバがテロリストを擁護する国家だとレッテルを貼られれば致命的である.

 そうなれば日本が受け入れ国を探すほかあるまい.例えリビアだろうとイランであろうと,大金を積んででもお願いに回ることになる.あるいは中南米諸国の合意と米国の暗黙の了解をとりつけた上でキューバに頭を下げることになるか,日本政府にとってかなり選択の幅は迫られてきたようである.

 

2,ペルーはどう変わるか
 どう変わるかというより,基本的には変わらないだろう.フジモリ政権の保安能力には疑問符がついたが,その後の対応については国内外でおおかたの支持を得ているようだ.ミニクーデターで独裁的権力を握り,その後も強権的な姿勢が批判されてきたフジモリだが,事件をきっかけにして逆にその正統性を認められるようになったとさえいえる.

 前報でも触れたが,MRTAの豊富な資金源には裏がありそうだ.ナルコである.1月下旬コロンビア最大のゲリラFARCの基地が摘発を受けた.大量のコカインが押収されたという.いまやメデジン・カルテルは崩壊しカリ・カルテルも風前の灯火という.これらのギャングに代わってゲリラがナルコに手を出し始めたとなると,何ともやりきれなくなる.

 いまのところMRTAがナルコに近づいている証拠はない.しかしMRTAはもともとコロンビアのゲリラの弟分として結成された組織であり,コロンビア・ゲリラとの因縁浅からぬものがある.彼らが合法団体への移行を望むならば十分配慮されるべきであるが,ナルコとの関連については今後厳しく監視していく必要があろう.