ブッシュ新戦略とガリ構想

新たな抵抗が始まっている

1991年暮作成

 

「力の政策」を堅持するアメリカ


この半年の動きのなかで明らかになったもっとも重大な動きは,アメリカが核廃絶と真の平和を期待する世界人民を裏切って,力による世界支配継続の方針を公然と打ち出したことです.


その特徴は第一に,湾岸戦争の軍事的成果の上に世界唯一の卓越した超大国として自らを誇示し,核戦力の近代化と世界各地での軍事ブロック・軍事同盟を背景に「力の政策」を堅持していることです.

そして第二に,国連安保理決議など国連のなんらかの大義名分は利用するが,同時にその拘束下におかれないように,ときには敬遠し無視する政策をとっていることです.

第三には,米国のライバルの出現を許さないという意志の下に,世界各地で地域紛争に武力を背景に介入しようとしていることです.


こうしてアメリカは,ソ連崩壊後「不確実性と不安定性」を自国に対する脅威だなどといって,ソ連の「封じ込め」から第三世界への干渉へと戦略を転換しています.その典型が三月8日付けニューヨークタイムスで暴露された「1994〜99年度の国防計画指針」原案です.

この文書では,米国の目的は「旧ソ連であろうと他のどこであろうと」「新しいライバルの出現を防止することである」と述べられ,「いかなる敵対者」の出現をも許さない地域として「西欧,東アジア,旧ソ連領土,および南西アジア」があげられています.そして核兵器と大量破壊兵器の開発もしくは使用を防止するために軍事力を使うこともありうるとしています.

この「指針」については「これが実行されたら国連の終わりになる」とガリ国連事務総長がただちに批判しています.またサミット参加国からも「米国は世界的規模の指導権を要求している(独シュピーゲル紙)」「米国は世界の憲兵か(仏ルモンド紙)」などの非難があがっています.

 

国連と安保理のあり方

このような動きのなかで,国連の平和維持活動をどうするのかが国際的にも大きな問題になりつつあります.


これまで国連,とくに安全保障理事会は,両大国の対決の場でありさまざまな紛争に対してもかならずしも有効に対処してきたわけではありません.その最大の理由は各国からアメリカ非難の声があがっても,アメリカなど西側諸国がそのたびに拒否権を行使してこうした批判を押し潰してきたからです.


ところがソ連ゴルバチョフ政権の「新思考」外交による対米協調が展開されて,1988年以来PKOがあいついで創設されあらたな活動が展開されるようになりました.その後の国際情勢の激変を受けアメリカが一国覇権主義によるあらたな世界支配戦略を構築しようとするなかで,PKOの原則にも重大な変化が持込まれるようになりました.

湾岸戦争に見られたように,国連,ことに安保理においては5大国の一致ーすなわちアメリカの意志が通る条件が整ってきています.「紛争の予防」を口実に一方的に軍隊を送りこむというかたちでPKOがアメリカの第三世界への干渉政策に利用され,さらにそれが大規模におこなわれていようとしています.

ブッシュ政権は湾岸戦争後,アメリカの戦略をパックス・アメリカーナではなくパックスユニバサリスと呼んで国連重視を強調し,PKOのありかたもアメリカの戦略に有利に変えていこうとする議論を国連で起こしてきました.

 

ガリ構想の問題点

現在おこなわれている一連の議論は,参加国についてもPKOそのものについても中立性は問わず,PKO創設に当事者の合意はかならずしも必要ではなく,紛争が集結したか継続しているかも問題ではなく,場合によっては紛争が起こる以前にそれを抑えこむために,さらに必要な場合武力を行使してでも停戦を維持する方向で進んでいます.従来いわれてきた補助的,消極的な活動からむしろ「世界の憲兵」とでもいうべき積極的な活動に転換したPKOの姿がそこには浮び上がってきます.

たとえば6月18日に国連安保理に提出されたガリ報告は,国内・国際紛争にあたって当事者の同意を必要としない「予防的平和維持軍(PKF)の展開」や,武力行使を想定した従来のPKFより重装備の「平和強制部隊」の創設を提唱しています.この構想は国連の名による各国の内政への武力干渉の危険を孕んでいます.

サミットがガリ構想を支持したばかりかそのための「手立て」の提供を表明したことは,国連の看板を掲げながら米国を中心とする多国籍軍によって遂行された湾岸戦争と同様の他国介入構想を表明したものといえます.

 

PKO協力法の本質

国会でPKO法案が可決されたのは,このような背景の下のことです.もちろんこの憲法違反の法律の発動を阻止し,法律そのものの廃棄を目指すたたかいはまだこれからも続きます.


もともと憲法違反の存在である自衛隊を部隊として海外に派兵することは,自衛隊を合憲と強弁する自民党でさえもつい最近まで憲法上許されないとしてきた問題です.


ところが宮沢首相は街頭演説で「子供を戦場に送るなというのはとんでもない誤解だ.真実をいつわる発言で,国民に錯覚をあたえる」と開き直っています.しかしこれこそ歴史をいつわる態度です.なぜなら,310万人の日本国民と2千万人のアジア各国の人々の尊い命を奪い去った侵略戦争は,「在外日本人保護のため」「ボウレイな支那を懲らしめるため」「東洋平和のため」「世界新秩序建設のため」「大東亜共栄圏のため」などの口実をもって開始されたからです.


ここまでの背景説明でも明らかなように,PKO協力法の目指す道は,国連の平和維持活動への協力を口実にして,アメリカの地球的規模での軍事活動に補助部隊として自衛隊を海外派兵するための道に他なりません.

ペルシャ湾での掃海作業をおこなった部隊の指揮官の落合氏は,帰国後の講演で,往復の航海や現地での掃海作業が展開できたのは「米国のおかげ」と強調,第7艦隊の対応についても「この6隻は日本の掃海部隊とは思っていない.第7艦隊の一部隊が横須賀から来たと思う」と米海軍が語ったことを明らかにしていますが,このことひとつをとっても自衛隊の覇権が客観的に見てどのような評価を受けているかがはっきりしています.

 

西側先進国による経済支配の強化

7月に開かれたミュンヘンサミットでは「世界の政治地図を根本的に塗り替えた」と資本主義の勝利を誇らしげに宣言したうえで,「新しいパートナーシップ」なるものを打ち出しています.そしてこの「新しいパートナーシップ」は「政治的および経済的自由,人権,民主主義,正義ならびに法の支配という原則にもとづき共通の価値観が根付くにつれ」発展するだろうと予言をしています.

ここで「自由」「人権」「民主主義」などの美名の裏で宣言されているものは,実は「市場原理にもとづく経済」「経済的自由」すなわち資本主義の共通の価値にほかなりません.これは先進国の「共通の価値観」の発展途上国への押しつけ以外のなにものでもありません.発展途上国が期待する公正で,平等な経済の発展とはまっこうからあい反するものです.

サミットは途上国収奪の従来の路線を踏襲し,深刻化する途上国の債務問題にはなんら抜本的な手を打ちませんでした.それどころか昨年12月パリクラブが合意した「最貧国」の公的債務の元本の半分を削減する問題についても,英仏などの旧植民地国中心の救済になるとして米日が反対したため,結論が持ち越されることになってしまいました.

 

日本における海外経済支配のテコODA


このサミットの路線をさらに露骨に推し進めようとする日本政府の最大の手段となっているのが,政府開発援助(ODA)です.

ODAについては従来より重大な問題が指摘されていました.それはいまや1兆円におよぼうとする予算が,ODAの目的をうたった基本法もなく,実施計画の国会承認制度もない,政府間で締結される実施協定も国会に諮られることもないという徹底した密室性です.批判を受けて政府が6月に策定した「政府開発援助大綱」も,途上国から期待されている援助のあり方とは程遠い従来の路線にとどまっています.

「大綱」は「基本理念」として「平和国家としての我が国にとって,世界の平和を維持し,国際社会の繁栄を維持するため,その国力に相応しい役割をはたすことは重要な使命である」とうたっています.「世界の平和」をアメリカ支配体制の維持と,「国際社会の繁栄」を先進国の繁栄と,それぞれ読み変えるのはさきほどとおなじです.

その基調にあるのは,日米安保条約の下でのアメリカの世界戦略を補完する戦略援助,海外に進出している日本企業の利益に奉仕する援助です.飢餓・貧困の救済,発展途上国の経済的自立への貢献などはほとんど念頭にありません.

そのことは,援助資金の配分からみれば一目瞭然です.政府資料によれば,ODA総額に占める最貧国40ヶ国むけODA比率は17%です.この比率は,開発援助委員会18カ国中16位です.ちなみにアメリカは17位となっています.ところがアメリカが軍事援助している25ヶ国むけにはODA総額の54%が投じられています.

またそのことは,「大綱」の「原則」の項をみればはっきりします.

そこでは

@開発途上国における民主化の促進,市場志向型経済導入」に「十分注意を払う」と,その国の政治・経済体制のあり方を規制.

A「効果的実施のための方策」として金融支援の際に構造調整を押しつけ,国民に苛酷な犠牲を強いる国際金融機関との「連係・協調を」はからせる.

B「政府開発援助と直接投資,貿易の有機的連関」や「民間経済協力の促進」の強調.

C以上のうえに「国内の諸制度をふくむインフラストラクチャー…の整備を通じて,これらの国における資源配分の効率と公正や『良い統治』の確保をはかり,そのうえに健全な経済発展を実現することを目的と」するのです.

これは経済援助でしょうか,それとも経済侵略でしょうか?

援助の現場をみればもっとはっきりします.東南アジア各国では,日本企業が不正なリベートを贈って現地政府にODAプロジェクト作成をもちかけ,日本からODAをひきだし企業がそれを請け負うという,現地政府と日本企業の癒着が常識話となっています.またODAが発展途上国の環境を破壊して住民に被害をあたえている事例も数限りなくあります.これについては討議のなかで視察団から報告があると思います.

 

第三世界のあらたな団結への模索

これまで第三世界と呼ばれてきた国の多くは,ソ連を先頭とする社会主義諸国の崩壊に対し複雑な反応を示しています.

それは世界を破滅のふちに追込みかねない不毛の軍拡競争が終止符を打ったことへの歓迎でもあります.同時にそれはアメリカを先頭とする西側先進諸国が,世界の唯一の支配者として君臨し,ふたたび他の国々をあらたな植民地主義の奴隷にしてしまうのではないかという恐れでもあります.さらには対外債務や保護主義的政策が,ますます多くの国を経済的破滅に落としめていることへのいらだちでもあります.

91年9月はじめ,ガーナの首都アクラでひらかれた非同盟諸国閣僚会議では前者の楽観的な気分が支配的でした.

対立の時代が終わり,対話と協力の時代となった.冷戦が終わりいまや南北問題が世界最大の問題となった.巨大な額の軍事費を南への投資に回せば,南北問題は解決するだろう.これが会議の主流でした.

それは事実上非同盟諸国の先進国に対する団結したたたかいを事実上放棄し,先進国の良識に期待するかのようなあいまいさを含んだものでした.したがってアルゼンチンのように「世界はもはや東西に分裂しておらず,非同盟運動は時代錯誤」として運動から脱落するような動きもある意味で必然的なものでした.

しかし先進諸国が相変わらず,戦争手段を手放そうとせず,むしろ社会主義体制の崩壊を好機としてますます世界支配の欲望を剥き出しにしてくるにつれ,急速にこの幻想は打ち砕かれていきます.そして発展途上国の経済困難を救済するどころか,収奪と保護主義をいっそう強める姿勢が明らかになってきました.

 

77カ国グループ会議の重要な意義

アクラ宣言からわずか1ヶ月もたたない9月末,77ヶ国グループ外相会議が開かれました.この会議ではアクラ宣言を高く評価しながらも,いっこうに経済援助が進まないことに対する不満のニュアンスが強まっています.

「巨大な対外債務の返済が,投資のために必要な資金を大きく枯渇させている.それはまた毎年,発展途上国から先進国への資金の移転額がますます増加する状況を産み出している.債務問題に対する国際社会の対応は散発的であり,断片的であり,不十分である」

「資金フローの減少と資金不足が懸念すべき重大問題となっている.発展途上国への商業資金不ローは事実上とまっている.発展途上国への直接投資フローが減少し,主として先進国内に集中した.発展途上国の大部分は,自国経済の改革と自由化のために重要な措置を講じたが,それらの努力はそれに相応した直接投資水準の増大という結果を産まなかった」

「発展途上国の輸出品に関する世界貿易は,市場の不安定,それらの製品の価格の大幅かつ継続的低下,先進国の市場へのアクセスの制限,保護主義の急激な出現,不公正な競争,先進国による生産・輸出補助金制度,そしてある場合には一部の多国籍企業による価格の固定化などによって引き続き特徴づけられている」

さらにアクラ宣言では意識的に取り上げられなかった先進国の支配の野望についても,77ヶ国外相宣言ははっきりコメントしています.

「各国外相は,国際社会に対しとくに発展途上国に対する,一国の意志を強制的におしつける手段としての威圧的な経済的措置の行使を排除する,効果的な措置を緊急に採択することを要請した.そうした傾向は存続しており,封鎖,禁輸,発展途上国の資産の凍結にはっきり現われているように,あらたな形態をとっている.各国外相は,これらの威圧的な措置は国連の関与する諸機関によって認められていないことを指摘した」

 

非同盟諸国ジャカルタ首脳会議

それから1年を経たいま,ジャカルタで第10回非同盟諸国首脳会議が開催されています.会議の詳細はいまだ不明でありコメントはできませんが,最初に述べた楽観論は急速に克服され,経済的不満だけでなく先進国の世界支配の野望への警戒感と,それに対する発展途上国の団結したたたかいの姿勢が結局は打ち出されて来ざるを得ないと思います.そこにこそ非同盟運動の役割があることは,30年の運動の中で試され済みのことなのですから.

なお,ここに資料として「赤旗」紙に載った特派員報告の一部を紹介します.

「今回の非同盟首脳会議の最大の特徴は,南北格差の拡大,大国による支配の傾向などを前に,非同盟運動の存在意義や団結の必要性が強調されたことです.冷戦が終わったのだから非同盟の意義はなくなったなどの議論にはほぼ全員が反論.ソ連崩壊直後「非同盟運動はもう意義がない」などと言っていたネパールのコイララ首相が,演説で非同盟運動の重要性を強調したのもその例です.

非同盟運動は冷戦後のいま経済問題に集中すべきだとの主張もありましたが,たんなる方向転換でなく,運動が一貫してめざしてきた飢餓や貧困の克服,平等で公正な国際秩序は,現在の国際平和と安全にとって不可欠となっているという方向で深められました.その中で依然として北の大国が南を支配しようとしていることの危険性も指摘しました」

どうです,世の中間違っちゃいないじゃないですか!