ガリ構想の挫折

1996年作成

 

1996年、アメリカが単独行動も辞さない新世界戦略を打ち出し、グローバリゼーションの推進により経済的支配を強めるなか、人民の闘いがなかなか見えてこない、というのが最近の動向です。

その典型が国連の再編成です。

@ 国連主導のPKO活動の相次ぐ失敗

湾岸戦争、ソマリア、カンボジアとあいついで行われたPKO活動は、アメリカ主導の多国籍軍によるイラク侵攻作戦を除けば、多くが事実上の失敗に終わりました。その結果、国連の権威は大きく失墜します。

ガリ国連事務総長はこう述べました.「安保理と事務総長には,平和に対する脅威・破壊及び侵略に対する作戦を展開し,指導し,指揮し,管理する能力は,ごく限られた規模のものの他は,持ち合わせていない」と.

こうして国連が米ソに代わって世界の安全保障の主役となるという思惑は,わずか数年で惨めな終焉を迎えました.

A ガリの思惑と、その結果

ブティルス・ガリはソ連東欧崩壊後の一瞬,国連が,ひいては自分が,世界の平和の担い手になるのではないかと錯覚したのではないでしょうか.彼自身が第6番目の常任理事国にでもなった気分だったのでしょう。そしてその思い込みを現実のものとするために奮闘しました.

彼は国連の権力を強化するためには悪魔とでも取引しました.彼は力の源を常任理事国や一部の大国に求めました.カンボジア,湾岸戦争,ソマリア,旧ユーゴなど一連の行動において,彼の総会軽視と強国へのすりより路線は露骨でした.

米国はこの傾向を最大限に利用しました.国連についてクリントンがどう評価し発言して来たかは,これまでの総会報告でも触れてきました.米国の態度は一貫しています.利用できるときは利用し,利用できないときは無視するということです.

「国連による平和実現」の路線は結局,米国の世界支配の確立に向けつゆ払いの役割を果たしただけということになりました.

 

B ガリの使用価値は失われた

今年開かれた国連憲章50周年記念式典で,ガリ事務総長は環境や麻薬など新しい問題に対応できるよう国連を変革するべきと主張しました。

彼はなお国連のヘゲモニーに執着しています.国際紛争の人道的援助でNGOとの協力関係を強化する一方、「今後は多国籍企業も参加できるような組織に国連を変革していく必要がある」と主張します.

かつて国連が大国の道具となるように道を清めたガリは,今度は多国籍企業にも大きく門戸を明けようとしています.しかし、もはやガリ総長と「彼の国連」は大国にとって利用価値を失っています.ガリのいうことなどくそくらえです.

同じ総会でクリストファー米国務長官は冷たく言い放ちます.

「国連改革」の目標は、国連がリーダーシップを発揮して貧困や環境破壊など諸問題の解決に当たるのではなく「自由貿易社会」を擁護することにある.

国連はリストラされなくてはならない.さしあたりWHO(世界保健機関),UNDP(国連開発画),UNIDO(国連工業開発機構)などは段階的に廃止されるべきである.その他ILO(国際労働機関)、FAO(国連食料農業機関)も見直しの対象となる。

その一方国連は世界銀行など国際金融機関との協力を強化し、民間部門をもと拡大しなければならない」

このように米国は国連に指図するのです.ここまで国連をなめさせたのは,あげてガリの責任です.

C 国連をふたたび、総会中心の運営に戻すこと

キューバのカストロ議長は非同盟首脳会議でこう述べています。

「安保理が世界の覇権大国の意思を押し付け、世界を屈服させる機関として利用されている.…特別の権限を持った一つの国が、国連加盟国の意思や決定を無効にしてしまう不合理に終止符を打たなければならない」

そのためには安保理常任理事国枠の拡大や,多国籍企業の参入などという制度いじりではいけません.そのような路線がどのような結果を生むかは,この間の経過を見ればあまりにも明らかです.もう一度総会中心の国連運営に戻し,すべての国が平等な立場で参加する国連を作り上げていくことです.